ジェット・エルフィン/イルヴィナの奇跡
ライナスから中央へ、俺たちは帰路についていた。
最後尾の俺は見られないことをいいことに、馬上で少し考え込む。
―――二十年前、北の地イルヴィナ。
十三歳の少年の奮闘により、そこに巣食う魔物は一掃された。
『イルヴィナの奇跡』と呼ばれるその功績を称えられ、少年は英雄となった―――。
それが、リックたちの知る英雄。
そう。知られているのはたったそれだけ。
イルヴィナで何があったのか、詳しく語られることはない。
振り返っていたダンの視線に気付き、大丈夫だと手を上げる。
ダンが俺を最後尾にしたのは、こうして考える時間を与える為なんだろう。
二十年。ようやく事態が動き出した。
すべてを白日に晒す為に。
俺の望みを叶える為に。
俺にできることは、あとどれくらいあるんだろう?
前を行くナリスとリックが視界に入る。
リーダーになる実力は十分あるのに、心配だからと俺についてきてくれるナリス。
俺を英雄と慕ってくれてるリック。
がっかりさせるだろうなと思うと、少し胸が痛んだ。
明日には中央へ着く。
英雄ジェット・エルフィンの、おそらくこれが、最後の戦いになる―――。




