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ククル・エルフィン/こうして日々を

三百話ちょうどです。

エピローグです。

 いつもの朝。

 裏口を開けてすぐ、待ってたようにテオが来てくれる。

「おはよう」

「おはよう、ククル」

 朝の挨拶のときに軽くキスをするのも、今はもう毎朝のことで。

 どこに出かけることもなく、毎日朝から晩まで一緒のテオと私。

 当たり前の毎日だけど、当たり前すぎて恋人らしいことなんて何もない。

 だから。朝来たときと、夜帰るとき。ふたりきりの時間にキスをしようと、ふたりで決めた。

 今日も一日よろしくね。

 今日も一日ありがとう。

 そんな思いを込めて。



 今日も朝食はテオが作ってくれた。

 オムレツに炒め合わせたキノコが添えられてる。

 オムレツは最初からテオのほうが上手だから、本当は悔しくてこっそり練習してたんだけど。

 朝食を一緒に食べるようになってからは、ひとりで食事をすることがほとんどなくなって。焼く機会が本当に減った。

 だからもう、オムレツはテオに任せようと思ってる。

 テオを見ると、いつも通りの優しい笑顔。

 テオは本当にすごい。

 父さんのシチューも、母さんのケーキも。私の思い出のメニューは全部テオが取り戻してくれた。

 仕上げたのは私だからってテオは言うけど、そうじゃないの。

 私は足りないものを見つけただけ。

 何もわからないところからそこまで持ってこられることがどんなにすごいことなのか、テオは未だにちっともわかってくれない。



 昼食の時間帯より少し早く、久し振りに四人揃ってミルドレッドの警邏隊の人が来てくれた。

「監視するような真似をして、本当にすみませんでした」

 入るなりそう頭を下げられて、私は本当に驚いた。

 謝られるようなことは何もないからと、必死に頼んでやめてもらう。

 四人はあれから警邏隊であったことを話してくれた。

 ワーグさんは責任を取って警邏隊を辞めたそうだ。

 ほんの数日前、ここにもわざわざ謝罪に来てくれたワーグさん。娘に怒られたよ、なんて笑ってたのに。

「…どうして…」

 あのときのワーグさんには私を傷つけるつもりなんてなかったのに。そのことはちゃんと、話を聞きに来た警邏隊の人にも伝えたのに。

「隊長なりのけじめなんだって」

 私の呟きに、ひとりがそう応えくれる。

「未遂で済んだけど、それは結果論であって。もし目の前で娘さんと引き換えだと要求されれば従っただろうからって」

「そんな…」

 どうしてしてもいない罪の責任を取ろうとするの?

 落ち込む私の肩を、テオが抱き寄せてくれる。

「…隊長は未遂で済んだのは君のおかげだと感謝してたよ」

 何も言えなくなった私にそう告げて。ありがとうと、もう一度。お礼を言ってくれた。



 落ち着いた私に、四人はこのまま昼食を食べていっていいかと言ってくれた。

「最初はあんな理由だったけど、今はここの食事が好きなんだ」

 もちろん、返事は決まってる。

「当たり前です。ここは食堂なんですから」

 嬉しそうにしてくれる四人に座ってもらって、お水を出して。

「今はまだメニューにないですけど、寒くなったら貝のフライも作りますから。また来てくださいね」

 メニューを渡しながらそう言うと、ものすごく驚いた顔で見られる。

「覚えてるの? っていうか、何で好物って知って…」

「何度も頼まれていたので。お好きなのかと」

 本当はそれに加えて、嬉しそうに食べては慌てて取り繕ってるところを何度も見ているからなんだけど、それは言わないでおいたほうがよさそう。

「……どうりで顔バレするわけだよ…」

「警邏隊向きの観察力だよな…」

 そんなことを言われても、とテオを振り返るけど。

 呆れたような顔で溜息をつかれただけだった。



 美味しそうに食べてくれた四人にお礼を言って。お礼を言われて。

 そのまま昼食の営業をしながら考える。

 ワーグさんがお世辞ではなく私に感謝してくれてるというなら。

 こんな私でも、誰かの役に立てたのなら。

 それなら本当に嬉しいことだと思う。

 いつかディーが言ってたこと。

 お世話になった人に直接お礼を返せなくても、自分にできることをすることで、巡り巡って誰かの役に立てたなら。

 私にできるのはここでもてなすことだけだから。それがいつか、誰かの役に立つように。

 ほんのわずかでも、私の大好きな人たちの力になるように。

 そう願って―――。



 閉店作業を終え、テオを見送る。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 互いの唇が触れて。直後に顔を見合わせるのは、まだちょっと照れくさい。

 いつもならここで出ていくテオが、今日は私を抱きしめた。

「…どうしたの?」

「……何となく。気にしてそうだから」

 ワーグさんのこと、よね。

 私はテオを抱きしめ返す。

「色々考えることはあったけど、もう落ち込んでるわけじゃないわ」

 はっきりそう言うと、それならいいけど、と返ってくる。

 どこまでも優しい、私の幼馴染で家族同然の、大切な人。

「心配してくれてありがとう」

「当たり前だろ」

 顔を見合わせ、ふたりで笑って。

 もう一度、キスをした。



 テオが帰って、部屋でひとり。

 今日一日を思い返す。

 こうして明日も私なりに一生懸命、店に立てればと。

 そして。そんな日々を積み重ねていければと。

 そう、思った。

 読んでいただいて、本当にありがとうございました!

『丘の上食堂の看板娘』これで完結です。

 ただ、表示上はまだ完結済とはなっておりません。

 増えまくる登場人物たちに、当初予定のゴール位置では語りきれないことも出てきました。

 なので、このあと引き続き後日譚を六話上げてから、エンドマークをつけたいと思っています。

 とは言っても。まずは『ライナス』を進めたいので、『丘の上』の毎日更新は今日で終了しますね。

 そのあとはシリーズとして短編を五話。こちらは少しのんびりめに書いていこうと思います。

 二話目と三話目は同一話の視点違いですが、『残酷描写』『R15』共に『丘の上』『ライナス』よりキツめの描写になりそうです。苦手で読みたくない方は無理をなさらず。あらすじと五話目を読んでもらえれば大体わかるかと思います。


 長くなりましたが。

 振り返ってみればなかなかの文字数。とっても楽しく書けました。

 これでひとまずの完結です。

 本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 300を超える長編、 お疲れさまでした。 リアルタイムでは追えませんでしたが 読み続けていたこの数日間、 本当に幸せな気分を味わえました。 世界観に深く浸ってしまい、 登場人物に話しかけ…
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