三八二年 動の四日
おろおろと目の前の少年を見るククル。
リックは朝一番に店に来るなり深々と頭を下げ、すみませんでしたと言い放った。
「あ、あの、リックさん?」
戸惑いしかないククル。
遅れてやってきたジェットたち三人は、黙って成り行きを見ている。
「ずっと不快な態度を取って、本当にすみません。反省してます」
「だからリックさん、一体何の…?」
本気で困るククルの様子に、口を挟めないままのテオがジェットに視線をやる。仕方なさそうに苦笑してから、ジェットはリックの隣に立って強めに背を叩いた。
「リックなりのけじめなんだろ。クゥは許すって言ってやればいいんだよ」
「何もされてないのに?」
思わぬ言葉だったのか、がばりとリックが顔を上げた。
心配そうに自分を見る橙色の瞳に、ククルは安心させるように微笑む。
「気にしてませんので、大丈夫ですよ。いつも通りにしてもらえますか?」
「ククルさん…」
ようやく少し笑って、ありがとうと呟くリック。
「俺、ジェットがギルドを辞めるのはククルさんのせいだと思い込んで…」
「リック!」
蒸し返すなとばかりにジェットが声をあげるが、遅い。
「…エト兄さん、まだそんなこと言ってるの?」
静かな声に、ジェットはそろりとククルを見る。
「だからそれは前のときの―――」
「ちゃんと謝るよう言っておいたわよね?」
「謝ったって!!」
ジェットを見上げ、にっこり笑う。
それから手を取り、作業部屋に引っ張っていった。
ぽかんと立ち尽くすリック。
微笑ましそうに見送るダリューン。
大爆笑のナリス。
苦笑と共に息をついて、テオは朝食の用意を始めた。
誤解はすぐに解けたのか、思ったよりも早くククルは戻ってきた。
三人に食事が出されているのを見て、あっと呟く。
「テオ、リックさんの―――」
「知ってる。大丈夫」
急に名を出され、リックは食べていた手を止めた。
「俺がどうかした?」
「いえ、ドレッシングを変えているだけなので」
「ドレッシング?」
向かいのナリスと顔を見合わせ、お互いのサラダを拝借する。
「すっぱ」
「ホントだ。リックのちょっと甘め?」
はい、とククルが笑う。
「そのほうが食べやすそうなので」
「いつの間に…」
まじまじと自分のサラダを見て呟くリック。
(…何かもう、敵わないな)
本当に、自分はこどもじみていたのだと。
そう認め、リックは再び食べ始めた。




