ロイヴェイン・スタッツ/ギルド本部
書いてて不憫になりました……。
ライナスを出たのはお茶の時間よりもう少し前。飛ばせば何とか夕方にはゴードンに着くはずだ。
ひとり、馬上で。
思い出すのはククルのことばかり。
あのときは案外平気だと思ってたのに。色々ありすぎて感情が麻痺してただけなのかもしれない。
「…羨ましいっての……」
叫びたい気分だけど、馬を驚かすわけにはいかないから。それだけ声にして、あとは溜息に変えた。
ゴードンのあと、本部にも俺が行くことになるだろうから。どんなに早くても帰れるのは明日の夜。
明日の朝食、一緒に食べれると思ってたのにな。
ゴードンに着いて、いつも使ってる宿に行って。訓練生には見つからないように、何とかウィルを捕まえる。
話が進むにつれて顔色を変えるウィル。ま、気持ちはわかるけどさ。
話を聞いたウィルに、じぃちゃんが何も知らぬ体で来いと言ってたと伝えて、本部にも俺が行くからと話した。
礼と共に少し待てと言われて。すぐに紙を二枚渡される。
「今からだと着くのが夜中になるでしょうから。一枚は門番に。もう一枚を受付に渡してもらえれば大丈夫です」
「大丈夫って…」
「ギャレットさんにすぐ面会できるように、取り計らってもらえます」
すぐって、着いてからか?
「夜中なのに?」
「緊急なので構いません。朝まで待つわけにはいきませんから」
こういう割り切ったところ、やっぱりこいつもそれなりの立場なんだよな、と思う。
「ジェットたちには俺から話します。疲れているところをすみませんが、引き続きお願いします」
頭を下げてくるウィルに、わかったと返して出ようとすると。
「ロイ」
もう一度名を呼ばれて振り返る。妙に優しい顔で、ウィルが俺を見てた。
「ありがとう」
まっすぐに、そう言われた。
「…いいって」
それだけ返して部屋を出る。
ったく、調子の狂う。
そこからさらに馬を飛ばして。
こんな夜中に、と迷惑そうな門番にウィルから預かった紙を渡すと、掌を返したように態度が一変して。すぐに中に通された。
事務長補佐の名前は伊達じゃないみたいだな。
受付の人は見覚えのある人だった。俺のことも覚えていてくれたみたいで、紙を渡すまでもなく、いつも通りの笑顔で手元のベルを鳴らしてお待ち下さいと言われた。
すぐにもうひとり見覚えある人がやってきて、応接室に通されてお茶と軽食を出される。
「事務長を呼んでまいりますので。こちらでお待ち下さい」
そう言って出ていくその人も、受付にいた人も。
滅茶苦茶気配が読み辛いのは、たぶん、そういう人たちなんだろうな。
なんせ化け物みたいなあの人がいるんだもんな。そういうことだよな。
俺も気配を読むのには長けてると思ってたけど。あの人からするとこどもみたいなもんだった。
……正直、怖いから会いたくないってのが本音だけど。
そんなことを考えてたら、お茶を飲み切る前にギャレットさんが来てくれた。
挨拶もそこそこにライナスであったことを伝えると、黙って最後まで聞いたギャレットさんが立ち上がった。
「少し待っていてくれるかな?」
そう言って出ていくギャレットさんと入れ替わりに、お茶のおかわりが運ばれてきて。
またそれを飲み切る前に、ギャレットさんが戻ってきた。
「疲れているかな?」
戻るなりそう聞かれて。
「いえ…」
一晩くらい徹夜でも大丈夫だから、何かと思いつつもそう答えると。
よかった、と、満面の笑みで返される。
失敗した、と思ったけど。遅かった。
「早くライナスに戻りたいだろうけど。ちょうどいい風が吹いてきたみたいだから、もう少しこちらを手伝ってくれるかな?」
一応聞かれてはいるけど、これって拒否権ないよな?
「わかりました」
渋々ってのはバレてるみたいで。俺の返答にギャレットさんはさらに笑う。
「よかった! イーレイに手が足りないと言われてたんだが、お眼鏡に適う者がいなくてね。その点ロイなら間違いない」
「なっ…」
ちょっと待て。今…。
「よかったよかった。じゃあ、すぐに迎えに来させるから。あとはイーレイの指示で動いてもらえるかな」
やっぱり、そうだよな……。
たらりと冷や汗が伝う。
よりによってのあの人……。
あぁもう!! 今すぐライナスに戻りたい!
それじゃあよろしく、とギャレットさんが出ていって。
応接室にひとり、肩を落としてうなだれる。
間違いなく事態が落ち着くまで帰れないのはわかってた。
もうこうなったら死ぬ気でやるしかない。
せめてククルの誕生日までに、ライナスに戻れますように……!!




