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フェイト・レザン/土産とプレゼント

 仕事から帰ると、訓練に行ってたウィル兄が戻ってきてた。

「おかえり、ウィル兄!」

「フェイトも。お疲れ様」

 そう笑うウィル兄。訓練前からずっと沈んだ顔してたけど。何だろう、ちょっと落ち着いたかな。

 まぁ顔は相変わらずで、ウィル兄これでバレてないつもりなんだから。知らん顔するのも大変なんだけど。

 でも。それだけ顔に出るようになってよかったって、そう思う。

 ククルさんのおかげかな。

 お互い自分の食事は調達してきてたから、一緒にそれを食べながら話をする。

「フェイト、明日からの予定は?」

「明日とあさっては本部に行くけど、あとは二、三日待機にしたいってニースに言われてる」

 西のほうに十日以上出てたから。少し休めってことらしい。

 本部も報告だけだから、そんなに長く拘束されるような用じゃないし。休みみたいなもんなんだけどな。

 そっか、と言って考えるウィル兄。

「ほかに用事は?」

「ないけど…」

「じゃあ、俺も休みが取れたらレザンに付き合ってくれないか?」

 ほんっとに普通にそう言われたけど。

 今レザンって言ったよな?

「村に帰るって、何で急に?」

 帰りたい気分なんだってウィル兄は言うけど。

 もちろんいいけど、何で?



 次の日、ウィル兄はあさってから二日間休みをもらえたって言って。

 当日は朝から出ないとだから、明日の夕方にセレスティアに土産を買いに行くつもりらしい。

 じゃあ俺も行くって言ったら、寄りたい店があるけどいいかって言われた。

「何買うかもう決めてるんだ?」

「お土産じゃなくて、ククルの誕生日プレゼントを…」

 ククルさんの誕生日なんだ! そりゃウィル兄も気合い入るか。

「俺ももらってるし。何か贈ろうかな」

 俺たち皆始まりの日が誕生日だから。ククルさん、いっぱい贈ってくれたんだよな。

 ウィル兄、そうだなって笑って。

「何なら連名で贈ってもいいし」

 さらりと言われた。

「連名って! ウィル兄??」

 好きな人に弟と連名でプレゼント贈るって、何言ってんの??

 ウィル兄、笑ってたけど。

 ……もしかして?

 最近のウィル兄の様子。

 レザンに帰る。

 連名のプレゼント。

 ………そういう、ことなのか?



 次の日。もやもやしたまま本部に行って。考え込んでたのをカイとラウルに気付かれたけど、俺だってわからないのに何も話せない。

 しかもラウルはククルさんのことが好きなんだから。余計に下手なこと言えない。

 それに、もしウィル兄が振られたっていうなら、多分ラウルだって振られることになると思う。

 ククルさんの相手は、きっとテオだから。

 心配してくれるふたりに何も言えないまま、夕方ウィル兄と合流してセレスティアに行った。

 ウィル兄に連れてこられたのは、素朴な感じの小さな店。中に色とりどりの瓶がずらりと並んでる。

 ジャム、みたいだな。

「あ、いらっしゃいませ」

 店のお姉さんに軽く会釈して、ウィル兄は店内を見て回ってた。

「あの、多分こちらがまだお味見されてない分だと思うのですが…」

 お姉さん、何かしてるなって思ったら試食を用意してくれてたらしい。

 薄く切った乾パンにジャムが載ってるのが三つずつ。

 …ってウィル兄? ほかは食べてるってこと? しかもそれをお姉さんが知ってるってこと? どれだけ常連なんだよ??

 ウィル兄とふたりで試食を食べて。

 ジャムを食べ比べるなんてしたことないけど。ホント味違うんだな。

「どう思う?」

「どうって、俺ククルさんの好み知らないし…」

「違う。お土産」

 あ、村に、ね。

「皆甘いもの好きだし。喜ぶと思うけど?」

 そう言うと、ウィル兄はわかったって言ってから。

「種類増やすのと量増やすの、どっちがいい?」

「量」

 少しずつ色々なんて、女性陣に全部取られるのが目に見えてる。

 村の長はランス兄だけど。うちは女性陣が強いからな…。

 ウィル兄も苦笑して。

「そういやククルも全部味見したって言ってたな…」

 そう呟くウィル兄は、やっぱり幸せそうに見えて。

 もしかしたらって、思ってるけど。

 でもやっぱりウィル兄はククルさんのこと好きなんだなって、よくわかった。



 色々買って、ランス兄にって酒も買って。

 翌朝早くにレザンに向かう。

 夕方に着いたら、手紙が今日の昼に来たとこだと怒られはしたけど、皆歓迎してくれた。

 定番と新作、大瓶で三つずつ買ってきたジャムは好評だったみたいで。ほかにも種類があるって口を滑らしたウィル兄が、カレア姉たちにねだられてた。

 夜は成人した男だけ集まって、ランス兄の部屋で飲んでたけど。俺もザジもそんなに飲めないから早々に退却して。

 ランス兄とウィル兄は、多分ゆっくり飲むんだろうな。

「ありがとな。急なのに泊めてくれて」

 ザジと並んで歩きながら礼を言うと、ケラケラ笑われる。

「なぁに言ってんだよ」

 ザジ、そんなに飲んでないはずだけど。酔っ払ってる…よな。

「にしてもさぁ、ウィル兄、何かあった?」

「みたいだけど。聞いてない」

「そっかぁ」

 しばらく黙り込んでから、ザジが立ち止まった。

「最近さぁ、ベリアの警邏隊の人が、ちょっと稽古つけてくれてんだよ」

 稽古って、戦えるようにってことか?

 そうそう〜っと気の抜けた返事の割には真剣な顔になって、ザジが俺を見た。

「お目当てはぁ、カレア姉たちみたいだけど。こっちもがんばるから」

 ランス兄の家を振り返って。ザジはまた俺を見る。

「だからぁ、フェイト兄。ウィル兄のことよろしくな」

「ザジ…」

 離れてるから心配なのはどっちにとっても同じこと、だよな…。

「わかってる。ザジにも迷惑かけるな」

「俺の番が来たってだけだよぉ」

 今度はへらへら笑ってる。さすがお菓子で酔っ払っただけあるよな。

「…帰って寝るか」

「そうだねぇ」

 ふたりでまた歩きだしてから。俺もランス兄の家を振り返る。

 俺に何ができるかはわからないけど。

 ウィル兄はもうひとりじゃないからな!



 翌朝。皆に見送られてレザンを離れる。

 ウィル兄は相変わらず何も話してくれないけど。昨日よりは少しだけすっきりした顔をしてるかもしれない。

「ウィル兄!」

 帰り道、前を行くウィル兄に声をかける。

「また来ような!」

 ウィル兄は振り返って何か言ったけど、馬の足音で聞こえなかった。

 でも、ウィル兄は取り繕ったようでもなく、笑ってたから。

 きっと大丈夫、だよな。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ウィルバート! 心配して見守ってくれる家族がいて、よかったです。  フェイトにもわかっていたククルの気持ち。  それを考えると、ウィルバートやロイヴェンはもっとわかっていたのでしょうね…
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