三八三年 雨の二十二日
朝食を終えてからそのまま店に残るウィルバート。ここを発つのは昼前だそうだ。
「今回もお土産ありがとう」
微笑んでのウィルバートの言葉に、ククルはどういたしましてと返す。
「でもよかったの? 自分で作ったのじゃなくて」
昨日ウィルバートが作ったパウンドケーキ。残りをどうするか尋ねると、皆に食べてもらえたらと言われた。
結局ジェットたちとテオたち六人で分けて食べることとなり、作った本人がひと切れだけでよかったのか尋ねたのだが。
「いいんだ。ククルの気持ちを味わえたから、それで」
昨日と同じ返事をして、満足そうな笑みを見せる。
「俺は混ぜただけなのに。それでも、ごちそうさま、美味しかったって言われると嬉しいんだなって」
「ウィル…」
「本当に。楽しかった」
微笑むウィルバートの言葉は本当に心からのもので。
少し照れくさそうなその表情に、ククルも笑みを見せた。
よかったと笑うククルを見つめ、ウィルバートも笑みを深める。
彼女の両親が亡くなったことで、こことの縁ができた自分。
会えてよかったと心から思うが、それを今伝えるのは違う気がしていた。
「ククル」
だから、代わりに。
「訓練でだけど。動の月にまた来るから」
「ええ」
「待ってて?」
「ええ。待ってるわ」
自分と同じ意味ではないが、それでも次の約束をして。
「楽しみにしてる」
それを心待ちに、日々を過ごそう。
また次に、彼女の前に立てるまで―――。
小雨の中、ウィルバートが帰路に就いた。
無事の到着を祈りながら、ククルは日常に戻る。
「そういや、こないだ言ってたあれ。明日でいいか?」
相変わらずの定位置で、ジェットが思い出したように口を開いた。
「いいならソージュに頼んでくるけど」
「私はいつでも大丈夫よ」
頷き、ククルはジェットとダリューンを見る。
「休みに来てるのに、手伝わせてばっかりでごめんね」
「何言ってんだよ」
「好きでやってることだ」
すぐさまふたりにそう言われてしまい、ありがとうと返すしかなく。
「訓練で来てるときは何も手伝えないんだから。できるときくらいさせてくれって」
「じっとしてるのも性に合わないからな」
「ダンは特にそうだよな?」
笑うジェットに、当たり前のことのようにダリューンが頷く。
「クゥの為なら何だってするから。言ってくれよな」
「エト兄さんったら」
「本気だって」
顔を見合わせ笑い合う。
「まあ、とりあえず手始めに、だな」
行くか、とジェットが立ち上がった。
夕方前、テオとジェットがアレックとフィーナに声をかけた。
「明日一日、ふたりで休んで」
「テオ?」
思わぬ言葉にアレックが声を上げる。
「休めって、何を…」
「俺らがいるうちならふたり揃って抜けても大丈夫だろ?」
言葉を遮り、ジェットが継ぐ。
「訓練後は片付ける部屋も多いから、アレック兄さんが休もうとしない気がするって。テオたちに相談されてたんだ」
「テオ…」
両親から視線を向けられ、少し照れたようにテオが笑う。
「ふたりでって言い出したのはレムだけど。色々心配かけたから、だってさ」
全員少しだけ遠い目になりつつも。
「宿はソージュも来てくれるし。店が忙しくなったらダンに来てもらうから」
「ふたり一緒にゆっくりすることなんて、今までなかっただろ? 色々話もあるだろうし」
畳みかけるようなテオとジェットの言葉に、アレックとフィーナは互いを見合い、どちらからともなく笑みを見せる。
「…甘えるか」
「そうね」
ふたりで交わした言葉はそれだけであったが、アレックはテオとジェットを見、ありがとうと告げた。




