三八二年 雨の四十七日
ウィルバートがライナスを発って十日後、ククルはテオから彼の再来を聞いた。宿に荷物だけ置いて、再びミルドレッドに向かったのだという。
「色々伝えることもあるし、夜までには店に来るからって」
アルスレイムからライナスに来るには、たいてい途中でゴードンの町に一泊し、そこからミルドレッドを通って昼頃に着く。なのでおそらくウィルバートは今日一日で、ゴードンからミルドレッドを経てライナス、そして再びミルドレッドとの往復をする、ということだろう。
それがどれだけの負担になるのかは、旅をしないククルには想像もつかない。
薄暗くなる頃、案の定疲れ切った顔でウィルバートが訪れた。
「すみません、少し遅くなりました」
「あの、ウィルバートさん、部屋で休んだほうが…」
いつもの席に座るウィルバートに、今日も閉店までいてくれるつもりなのかと慌てる。
「話すこともありますし、座ってるだけなので大丈夫ですよ」
どう見ても疲労の色が濃いのだが、譲る気はないらしい。
今日は酒はいらないと言うウィルバートに、とりあえずお茶とチョコレートがけのドライフルーツを出す。
甘味の皿に少し困惑の混ざる笑みを見せ、ウィルバートは吐息をついた。
「準備が整ったので、リオルさんたちには明日中央へ向かってもらうことになりました。どのくらいかかるかはわかりませんが、ご家族にはまめに連絡を入れるようにしておきます」
「ありがとうございます」
おそらくこどもたちへの配慮だろう。礼を言うククルに首を振る。
「ジェットが予定ではもうすぐ戻るはずなので、俺はこのまま待機です。またしばらく、お世話になりますね」
少し力が抜けたのだろうか、先程までより少し柔らかくなった笑みに、ククルはほっとして頷いた。