三八二年 雨の三十七日
ジェットのパーティーがライナスに到着したのは、ウィルバートとユアンが来てから三日目のことだった。
「クゥ〜!」
店の外で迎えたククル。いつものようにがばりと抱きつかれる。
「今日はすぐ出るけど、帰りは絶対寄るから」
「わかったわ。気をつけてね」
宥めるように背を叩いて送り出す。今からユアンたちとリオルの治療の方針を相談するそうだ。
「行ってくる。ダン、門の所でな」
何度か振り返るジェットに手を振ってから、ククルはダンたちに向き直る。
「ダン、この前はありがとう」
礼を言うと、ダリューンからもいつも通り頭を撫でられる。
「ダン、年頃の女の子相手にそれはどうなのって、毎回言ってるのに」
隣で笑う明るい金髪の青年は、ククルを見て少しその瞳を翳らせた。
「大変だったね。無理してない?」
「ありがとう、ナリス。私は大丈夫」
心配そうに自分を見つめる金色の瞳に、精一杯の微笑みを返す。
「リックは初めてだったな。今年から預かってる新人だ」
ダリューンの紹介に、ククルも頭を下げる。
「ククル・エルフィンです」
ククルより年下だろう淡茶の髪に橙の瞳の少年も、同じようにぺこりと頭を下げた。
「リック・シドリアです」
名乗って顔を上げた、その一瞬。リックの眼光が鋭くなったように見えた。
(…睨まれた?)
既にリックの表情は普段通りのものなのだろうが、妙な居心地の悪さが残る。
おそらくダリューンたちは気付かなかったのだろう、また来るからと言って町へと戻っていった。
リオルについての相談の内容は、ジェットから伝えるように言われたから、とウィルバートが教えてくれた。
ミルドレッドでの治療は外傷に対してのみであった。もう一度切開して内部の異状を確かめた上でそれに合った治療をすれば、もしかしたら今よりは動くようになるかもしれない、というのがユアンの見解だった。
切ったところで治る保証はない上に、回復までさらに時間が必要となる。それでもいいならアルスレイムで治療を、となったそうだ。
おそらくは自分が長く不在になることを気にしたのだろう、リオルは初め難色を示したが、家族やジェットに勧められ、治療を受けることを決めたそうだ。
ユアンとウィルバートもアルスレイムで受け入れの準備をするということで、その日のうちの出発となった。
「世話になった」
見送りに出たククルに、ユアンが短くそう告げる。
結局あの一件からは毎食店に食べに来てくれるようになった。
少しは美味しく食事を取るようになってくれたならよかったと、ククルは内心思う。
「いいえ。リオルさんのこと、よろしくお願いします。あと、戻ってからも少しは温かい食事も取ってくださいね」
「わかっている」
前半と後半、どちらに対しての返事かはわからないが、最初に来たときよりは幾分和らいだ表情でそう返してくれた。
「俺はまたすぐ来ることになると思います」
諦めた笑顔のウィルバートに、ククルはお待ちしてますとしか返せなかった。




