三八三年 祝の四十九日
身支度を整え一階に降り、まずは裏口の鍵を開ける。
竈に火を入れ、朝食を食べ終わる頃にはテオがやってくる。
昨夜、あれから。
戸締まりするかと言って、テオは何も言えずに呆然と突っ立つ自分の手を引いて店に戻り、入口を閉めて。
また手を引いて裏口まで連れていき、おやすみと言って出ていった。
いつも通りに鍵を閉めて部屋に戻ってから、何があったのかをじわじわ実感し始めて。
間違いなく自分にとっては特別な存在であるテオ。
家族同然だからなのか。
共に店に立ってくれているからなのか。
どちらでもないのか。
その理由がわからなかった。
自室で身支度を終えたテオ。朝食を取るにしても、まだ少し時間があった。
昨日ククルに告げたこと。
一方的すぎたかと思う反面、これで落ち着くことができるかと考える。
何があっても変わらず店に立つことも告げた。
改めて好きだとも告げた。
あとはもう、彼女の幸せの為に自分にできることをして。
いざというときの覚悟をしておくだけだ。
息をつき、立ち上がる。
いつも通りと己に言い聞かせ。
テオは部屋を出た。
裏口の扉が開く音がして、程なくテオが厨房へやってくる。
「おはよう、ククル」
挨拶をするテオはあまりにいつも通りだったので。
「おはよう」
こちらも自然に言葉が出た。
テオが一瞬安堵の表情を浮かべたが、すぐに打ち消しエプロンを手に取る。
「まずは朝食、だな」
準備を済ませて隣に立つテオを、ちらりと見上げる。
理由はまだわからない。
しかしそれでも、こうして隣にテオが立ってくれていること。
それが嬉しいことだけは、疑いようもなくて。
「今日もよろしくね、テオ」
微笑んで、ククルが告げた。




