三八三年 祝の二十六日
ウィルバートからの手紙が届いた。
ギルドの印のある手紙は、前回同様食堂と宿の両方に送られてきた。
そして何故かもうひとつ、ククル宛の小さな箱。
とりあえず、テオと共に手紙を開く。
挨拶に始まり、まずは次の訓練のことが書かれていた。
日程は予定通り三十六日に到着の、翌日から五日間で、四十二日の出立となる。
人数は大部屋に十人、見学者がひとり、あとはウィルバートとゼクスたち四人とのことだった。
「十人って…」
大部屋に入るのは訓練生たちと、あの六人のうちの誰か。
見学者の数を合わせると前回と変わらないが、食事の時間帯などは変わってくる。
一気に十人、となると、やはり少し大変にはなると思うのだが。
「わけるつもりはないんだろ?」
テオに問われ、ククルは頷く。
皆で揃って食べることで、少しでも仲良くなれる機会になればと、そう思う。
迷わず頷いたククルに、だろうな、とテオが笑った。
「ごめんね、テオも大変になるのに…」
「俺は手伝う為にいるんだから。ククルのやりたいようにすればいいよ」
呆れたようにではなく、それが当然のように。
言い切ってくれるテオに、ありがとうと返す。
続けて、今回ジェットは直前の調査場所の関係で、もしかしたら早く来るかもしれないと書かれてあった。
異変があるとわかっていて向かう調査員と違い、実動員の行う調査は基本未開地の調査だ。かかる日数が読めない為、訓練の合間であまり日がないこともあり、近場の調査になったのかもしれない。
「テオも長く訓練に出られそうね?」
「別に俺出なくてもいいんだけど」
「どうかしら」
笑うククルをジト目で見てから、テオは息をついた。
訓練についてはそれだけであったが、手紙はまだ続いていた。
ギルド内でククルのことが広まっている件に関しては、各リーダーに抑制を頼んだとあった。
しかしそれでも万全とは言い難いからと、気を付けるよう繰り返すウィルバートに、心配をかけているのだと少し申し訳なく思う。
ジェットに伝えた警邏隊のことも聞いているようで、危険を感じたらミルドレッドのギルドを頼るようにと書いてあった。
あのあとアレックが住人たちに確かめたところ、やはり誰も訓練に異を唱えるものはおらず、警邏隊がどこから訓練の話を聞いてきたのかもわからずじまいだった。
今の所、あれ以来警邏隊は来てはいないが。
「今度も無事に済むといいな」
「そうね」
心からそう願い、ククルは手紙を閉じた。
小箱のほうにはギルドの印はなく、ウィルバートが個人的に送ったものだとわかる。
中には手紙と、前回より少し大きめの瓶に入ったジャムがあった。
新作が出ていたのでつい買ってしまったのだが、訓練時には持っていけないので送ったのだと手紙には書かれていた。
そして、ジェットの休暇に合わせて雨の月に休みをもらえそうなので、こちらに来たいともあった。
ギルドとしての手紙より幾分柔らかな文章で書かれたそれにも、最後にくれぐれも気を付けるようにと重ねるところも彼らしい。
本当に心配をされているのだと思い知る。
この感謝を一体どう返せばいいのか、と。
ククルはジャムの瓶を見つめ、心中独りごちた。




