ジェット・エルフィン/進捗
ライナスから戻った翌日。ギャレットさんに呼ばれて事務長室に行く。
「お帰りジェット。早速悪いね」
部屋の中にはギャレットさんとウィル。多分前の話の続きだろうな。
「まぁしばらく振りなので報告からと言いたいところだが、生憎と何も話せることがなくてね」
淡々とした口調だけど。
怒ってるっていうか、焦れてるっていうか。ギャレットさんにしては珍しい様子。
それだけ進捗がないってことなんだろう。
「イルヴィナの件は残っている資料がほとんどなくてね。伝手はあるからもう少し時間をくれるかな」
伝手…ってことは、あの件に関わる誰かなんだろうけど。ギャレットさん、ホント顔広いからな。
「あとは先日のウィルからの報告なんだが…」
クゥのこと、だよな。
どうやら俺たちが考えてたより嫌な狙い方をされてたみたいで。心配したウィルが先に手紙で知らせたって言ってた。
ウィルが不機嫌そのものの顔で俺を見てるけど。
クゥに言いにくいことウィルに言わせたみたいで悪かったけどさ。
俺が言わせたわけじゃないからな?
「とりあえず、各リーダーには行き過ぎた行動をさせないよう周知させた。ジェットを知る者が多いので、ある程度の抑制力はあるだろう」
挨拶程度の奴もいるけど。まぁ良くも悪くも顔は売れてるほうだし。
何かある前に身近な奴が止めてくれるのが一番だしな。
「あとは食堂に女性の目を増やすことにするよ」
何のことかと思ってると。
クゥを狙いそうな奴らの母親くらいの年齢の人を数人、食堂に配置するつもりだそうで。
まぁ食堂で色々話をしてるのも、中には下世話な話題があるのも知ってるけど。
そこに母親…そうだな、話しにくいな。うん。
「まぁ目に余る者にはそれなりの対応も用意しておくよ」
笑ってさらりと言われるけど。
つまり諜報員を兼ねてるってことか。
イーレイさんもそうだけど。ギャレットさん、どこであんな人見つけてくるんだろうな。
ギルドでのクゥのことは、とりあえずこれで何とかなると信じて。
あとの懸念は警邏隊のこと。
ミルドレッドの警邏隊に関しても、やはり目立った情報はなかったらしい。
ライナスからの帰りにミランさんのところにも顔を出したが、おかしな動きはないと言われた。
ギャレットさんに礼を言って部屋を出て。今度はウィルの執務室に行く。
「ベリアの警邏隊には特におかしな点もないそうですよ」
机の上から手紙を取り上げ、ウィルが俺に渡してくれる。
どうぞと言われるままに中を見ると、ランスさんからウィルに来た手紙だった。労いや様子を問う言葉に紛れ、警邏隊が三、四日に一度見回っては異常なしと報告をしてくれているとある。
「やはりミルドレッドの警邏隊単独の動きのようですね」
全員が本部所属で各支部は報告の為の施設のギルドと違い、警邏隊は各支部に人員が所属している。
しかしそれでも、移動する人を追うのだから、各支部の連携は取れているはずだ。
普通に考えると、ミルドレッドで目をつけられているなら、ベリアでも警戒されて然るべきなんだが。
「…単独ってのもおかしい話だけど?」
「そうなんですけどね」
これ以上は、とウィルも首を振る。
礼を言って手紙を返して。
「様子を見るしかないってのも。もどかしいもんだよな」
呟いた俺に、ウィルは苦笑するだけだった。




