リック・シドリア/英雄の姪
「ホント、何なんだよ…」
ギルド本部の食堂で昼飯を食べながら、俺は何度目かわからない悪態をつく。
ベレット洞窟から帰るなり、馬番がこっそり教えてくれた。
英雄ジェット・エルフィンがギルドを辞めると言った、と。
一緒にいたダンもナリスも本気じゃないって言い切った。故郷にひとり残る姪を心配してそんなことを言ったんだろうって。
疲れてるだろうし、強行軍になるからとダンに置いてかれて。今こうして本部に待機中だ。
英雄ジェット・エルフィンに憧れてギルドに入った。それを聞いたジェットが弟子にしてくれたときは、ホントに嬉しかった。
思ってたより気さくで。
思ってた以上に強くて。
まだ新人だけど、パーティーの一員として役に立てるようがんばろうと、そう思ってたのに―――。
「リック、帰ってたんだ」
急に声をかけられて振り向くと、同期の奴が立ってる。
「英雄は一緒じゃないのか?」
置いてかれたとは言いたくなかったし、ジェットの兄さんが死んだ話をするのもどうかと思った。だから。
「ジェットは姪のとこ」
「姪?」
「俺たちよりも大事なんだってさ」
自分で言ってて苛々する。
何のことかわからず首を傾げるそいつに、俺は何でもないと言い替えた。
ジェットが帰ってきて、謝られた。
辞めないからって、何度も言われた。
でもやっぱり、またすぐ故郷に行くらしい。
ベレット洞窟の調査もまだ途中なのに放ったらかしで。
ギルドの仕事より、姪のほうが大事なのか?
こっちは仕事なのに。ジェットが甘いからって、その姪が無理言ってるのか?
どっちがついでかわからないけど南での仕事もあるから、今回は俺も行かなきゃならない。
英雄の姪。
会いたくないな。




