ジェット・エルフィン/見えぬ姿
先にウィルに話をつけるからと言われていたので、ギャレットさんに言われた時間キッカリに事務長室に行ったんだが。
まだ混乱の残る顔で俺を見るウィルに、ちょっと早すぎたかと焦る。
「ん? これってまだ話終わってない?」
言った瞬間ウィルの眉間にシワが寄った。
何だよ、怒るなよ!
「これでも余裕をみたんだがね。本当にウィルは強情だな」
楽しそうに言うギャレットさん。ウィルの奴、そっちには睨まない…よな。俺でもそうする。
ともかく。話は済んでたみたいだし。こっちの話も進めないとな。
ウィルがゴタゴタやってる間にできなかった話をするつもりで、今日は時間をもらった。
俺からウィルに伝えるのは、ライナスの警邏隊のこと。ウィルの件とは別のようだから、引き続き警戒、といったところか。
ギャレットさんからも追加の報告があると聞いてる。
イルヴィナのことが済めばあとは気楽にやっていけると思ってたんだが、どうしてか次々面倒事が絶えない。
結局英雄も辞められないままだしな!
内心ぼやきながら、俺はウィルを見る。
「まぁ、まずは俺からウィルに」
そう言って、先にライナスのことを話す。
何かあったことは知ってたらしい。特に驚きもせずにウィルは聞いていた。
ギャレットさんからは、今回のレザンの件の追加情報。
「といっても。わかったのではなく、わからなかったということなんだがね」
いつか聞いたのと同じ話になってきた。
ギャレットさんを見ると、そう、と頷かれる。
「ホルト同様、情報元がわからない」
尤もウィルの故郷のことは調べればすぐにわかるし、大半は自分で調べたんだろうけど。
そこを脅すという点について。言い出した奴がわからないらしい。
話によると、匿名の手紙にそれとなく、ウィルにとって故郷が弱みになり得ると書かれていたとか。そこから自力で調べて確信を得、事を起こしたらしいんだが。
イーレイさんにも尻尾を掴ませない相手となると、そうそういるとは思えない。
だからおそらく、ホルトの情報元と同一人物ではないのかと、ギャレットさんは告げた。
「レザンに関しては、ベリアの警邏隊が巡回してくれるということだ。ライナスのことがあるので諸手を挙げてというわけにはいかないが、ここまでギルドが関わった案件をかき回すようなことはしないだろう」
襲撃者がギルド員じゃなかったから、どうしても警邏隊を呼ぶ必要があったんだが。まぁ俺を見ても特におかしな反応はなかったし、大丈夫だろう。
「今回のことでわかったのは、情報元は明らかに私たちを標的と定めていることぐらいかな」
内容にそぐわない明るい声でギャレットさんが告げる。
「今のところ凌いではいるが、常に後手に回っているからね。些細なことでもいい、何かあれば報告を」
後半の声の重さは、珍しくギャレットさんの焦りが含まれてて。
わかりましたと返し、話が終わったと、思ったんだが。
「ひとつ、いいですか」
ずっと考え込んでいたウィルが、顔を上げて口火を切った。
「情報元というので思い出したんですが、二十年前のイルヴィナの討伐の資料に、どこからの情報だったのかが書かれていなかったと思うんです」
イルヴィナ?
驚いて、ギャレットさんと顔を見合わせる。
「後々揉め事になることがあるから、実動員には知らされないけど」
死傷者が出たときに怒りの矛先を向けられないようにとの配慮で、情報元のことは現場に行く実動員には伏せられている。
情報を元に調査員が調べ、それに基づき討伐隊の規模を決めるんだが。
確かに、資料には記載があって然るべき、か。
「あれだけの被害を出したので、わざと記載していない可能性もあるが…」
少し考えを巡らせ、わかった、とギャレットさん。
「ありがとうウィル。それはこちらで調べてみよう」
「お願いします」
ウィルがそう返し、今度こそ話が終わった。
事務長室を出て、ウィルと別れ。
戻りながら、考える。
明らかに俺たちを狙う何かがあるとして。
それが単に俺たち三人の失脚を目的としてるのか。
それともほかに何かあるのか。
相手の姿が見えない今では何もわからない。
それに。ライナスの件だけ別だとは思えないが、食堂を警邏隊に見張らせて何の意味がある?
ギャレットさんのことだから既に手を回してるとは思うけど。
今度ライナスに行ったら、少し話をしに行こう。
二十年、俺を守ってくれた故郷の為に。できる手は打っておくべきだろう。
本当に。まだまだのんびりはできそうにないな。




