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テオ・カスケード/伝言

 セレスティアからアルスレイムに向かう。ギルド本部の入口、名前を伝えるとすぐ迎えが来てくれて。

 補佐だっていうゴルドーさん。ギャレットさんのところに案内してくれた。

「やぁ、遠いところをすまないね」

 事務長室でギャレットさんが変わらない笑顔で迎えてくれる。

 食堂の再開の日に来てもらって以来、かな。

「ジェットがウィルを焚きつけるなら君が一番だって言うものだから」

 …ジェット。そんな気はないってわかってるけど! その言葉で色んなことが筒抜けになってるんだよ…。

 苦笑いするしかない俺に、ギャレットさんは笑顔のまま知らん顔で続けてくれた。

「さて、テオくん」

「テオで、お願いします」

 そう言うとありがとうと返される。

「来たばかりで申し訳ないが、トネリに案内させるので、ウィルのことを頼むよ。いくつか伝言を頼めるかな?」

 わかりましたと頷くと、ギャレットさんは俺に伝言を伝えてから。

 にっこりと、笑った。

「本当に、ウィルは強情でね。私も今回ばかりは自分の教育不足を痛感したよ…」

 ゼクスさん並みの威圧に思わず息を呑む。

 ギャレットさん、ククルのおじいさんの弟子って言ってたもんな。元実動員…にしてもどうかと思うけど。

 思わずゴルドーさんを見ると、困ったような笑顔のまま固まってた。

 …ウィル、何考えてたか知らないけど。きっとただじゃ済まないと思うぞ…?



 ゴルドーさんに案内されて、ウィルの部屋に行く。

「あんな様子でも、事務長も心配しているんです。どうぞよろしくお願いします」

 最後にそう言って頭を下げて、ゴルドーさんは戻っていった。

 そのせいで苦労してそうだけど、ものすごくいい人なんだな、あの人。

 そんなことを思いながら見送って。俺は扉に向き合う。

 ―――ホントに、バカだな。

 ジェットやククルたちだけじゃない。

 こんなに身近にも、こんなに心配してくれてる人たちがいるのにな。

 息をつき、扉を見据える。

 それをあいつにわからせるのはジェットに任せて。

 目を覚まさせるのが、俺の役目だ。



 扉を叩くとどうぞと返され、中に入るけど。

 難しい顔して手元を見たまま顔を上げないウィル。

 ホントに、ククルの前での様子と違いすぎだろ。

 そんなことを考えながら黙ってると、やっとウィルが顔を上げた。

「来たヤツの顔ぐらいすぐに見ろって」

 目を見開いて驚くウィルにそう言ってやる。

「テオ? どうしてここに…」

「文句言いに来たんだよ」

 できるだけ淡々と。多分そのほうが、ウィルには効くと思うから。

「お前はククルを好きなんじゃなかったのか?」

 俺を見返すウィルの顔には、動揺と、苛立ち。

「…テオには関係ないだろ」

 何も知らないくせにとでも言いたそうな顔してるけど。

「もうライナスに来ないだなんて理由もなしに言うわけないよな?」

 言われてないんだ。わかるわけないだろ。

「だからテオには関係―――」

「ククルに理由を聞いてきてと頼まれた。ククルにも関係ないなら、一体何の為なんだ?」

 ぐっとウィルが言葉に詰まって、続けられないまま俺を睨む。

 ククルの名前を使うのはちょっと卑怯だけど。この際だ。

 俺だって。ムカついてはいるんだよ。

「なぁウィル? 教えてくれよ? 俺がククルに伝えるからさ」

 バンっと机に両手を叩きつけてウィルが立ち上がった。

 真正面から俺を睨み返し、何が、と呟く。

「お前に、何が…」

「わからないから来てんだろうが」

 思わず声が強くなる。

 ウィルも相当苛ついてるんだろうけど、普段なら俺が来た時点で気付くはずだろ?

 ギルド本部の中枢近いこの部屋に、俺ひとりで来れるわけないってことに。

「わからないから! 頼れるもん頼りまくって調べて動いて。やっとここまで来たんだろうが」

 怒鳴らないよう必死で耐える。

 ホントに。なんでここまで言わなきゃならない?

 急に声を荒らげた俺に、ウィルが驚きまくった顔で見返してる。

 気持ちはわかるよ?

 俺とお前は友達でも仲間でも何でもなくて。

 むしろククルを巡って張り合わなきゃならない関係で。

 でもさ。だからって、知らん顔はできないんだよ。

 ククルが心配するからとか、ジェットの仲間だとか、そんなの関係なく。

 俺だって。心配してんだよ。

 友達でも仲間でもないけど。心配なんだよ。

 俺だけじゃない。お前のこと、そうやって心配する奴がいるってこと。

 そうやって、心配されてるってこと。

 いい加減気付け、このバカがっ!

「文句言いに来たって、俺言ったよな?」

 突っ立つウィルは答えないけど。

 ここまで言わされたんだ、ひとことぐらい多くてもいいだろ。

「お前が最初っから素直に話せばそれで済んでたんだ。余計な手間かけさせてんじゃねぇよ」

 その顔を睨みつけ、俺は言い切った。



 呆然と俺を見るウィル。

 息を吐いて、俺自身も少し落ち着く。

 内心かなり苛々してるけど。引っ張られちゃ駄目だ。

「言いたいことがあるなら聞くけど?」

 ウィルは俺の声にはっと我に返り、何か言おうとしたけど。結局溜息をついただけで、首を振られた。

 そのまま沈黙するウィル。

 世話の焼ける。

「じゃあ聞きたいことは?」

 そう言うと、やっぱりためらってから、でも今度は口を開いた。

「…ククルは?」

「今朝まで一緒にいたよ」

 多分予想はしてたんだろう。そんなに驚いた様子はなかった。

「今は…?」

「一番安全なとこにいる」

 どこかは答えず、それだけ告げる。

 怪訝そうな顔をしてたけど、安心はしたようだった。

 とすんとへたるように椅子に座って、大きな息をついて。

「悪い、ちょっと待ってて」

 それだけ呟き、視線を落とすウィル。

 色々頭の中を整理してるんだろうなと思ったから、邪魔をしないように扉にもたれて待ってた。

 俺もその間にちょっと落ち着かないと。

 店か宿だったら、お茶でも淹れたいとこなんだけどな。



「…一応、ありがとうと言っておく」

 しばらく考え込んでから、顔を上げて。

 少しは立て直したらしいウィルが、俺にそう言った。

「じゃあ俺も一応、どういたしましてって言っとくよ」

 お互い素直じゃないけど、別にこれぐらいでいい。

「テオがここにいるってことは、ジェットと…ギャレットさんも噛んでるよな」

「そのギャレットさんから伝言」

 これでやっと切り出せる。

 ホントに、何とかなってよかった。

「ためた仕事を終わらせて、明日の朝報告に来るようにって」

 机に積まれた紙束を見て、ウィルは苦笑した。どうやら結構ためてたみたいだな。

「そこから三日の休暇。行くべき場所に向かうように」

「行くべき場所って…まさかレザンに?」

 急に立ち上がるウィル。

「テオ! ジェットは今―――」

「大丈夫だから」

 取り乱すウィルに落ち着けと返す。

「レザンで何か起こってることはわかってる。ジェットに任せて大丈夫だから」

「ギルド員が行くと毒を流すと!」

 言ってから、はっと俺を見るウィル。

 気まずそうに口を噤み、うなだれた。

「…そんなこと言われてたのか?」

 ウィルが誰にも何も言わずにいた理由、なのかもしれないけど。

 でもやっぱり、お前は誰かに相談すべきだったと俺は思う。

 今更だけどな。

 うなだれるウィルに、俺はもう一度大丈夫だと言い切って。

「その辺りも心配ないから」

「…どうして?」

「行けばわかるよ」

 それだけ返し、息をつく。

「ウィルに、伝言を頼んでいいか?」

「伝言?」

 繰り返すウィルに頷いて。

「先にライナスに帰ってるからって」

 がばりとウィルが顔を上げた。

「頼んだからな?」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  うむむむ。  ウィルバート。気持ちはわかる。わかるけど。  もう少し周りを頼ろうよ。   それでも、皆、ウィルバートの気持ちを尊重して  て……。好い人たちですね。  ウィルバートのた…
[一言] ウィルが誰にも相談できなかったのは 相談できないようにされたから それは、「ギルド員が来れば毒を流す」と 言われたからではなく、 ウィルの性格や人間関係を よく把握されていたからではないか…
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