三八三年 明の九日
昼食時、一番混み合う時間に奇妙な客が来ていた。
見慣れぬふたり連れの若い男。帯剣はしていないが、旅向きの服装でそれなりの大きさの荷物を持っている。
北から来るにも南から来るにも、この時間には普通着かない。前日ミルドレッドに泊まっていたのかもしれないが、まだ日の高いうちからそこから一時間の距離しかないライナスに寄る理由がない。
荷物を持ったままということは、今日は宿に泊まるつもりもないのだろう。仮に南から来たとしても、ただ食事の為ならミルドレッドのほうが店数は多い。あと一時間の旅程が我慢できず、こんな町の門から離れた丘の上までわざわざ登ってきて食事を取らねばならない程空腹であるようにも見えなかった。
普通に食事を取り、何事もなく出ていったふたり連れ。
手が空いたところで宿に確認を取ったが、やはり泊まりはしなかったようだ。
「ちょっと変な客だったな」
ずっと警戒していたのだろう、嘆息してテオが呟いた。
もしかするとこちらの想像もつかないような事情があったのかもしれないが、それはそれでおかしい客には変わりない。
「知らせとく?」
「エト兄さんにはまた手紙を書くことになるから、伝えておいてもいいのかもしれないけど…」
ただ妙な客が来たというだけで、心配をかけるのも忍びない。
結局は少し様子を見ようということになった。
カウンター席中央。テオは息をつく。
仕込みも一段落したところでククルに少し休むように言われ、半ば強引に座らされてお茶を出されたのだ。
先日ジェットに疲れていると指摘されて以来、手が空くと休めと言ってくるようになった。気付けなかったことを気にしているのだろうとわかっているので、できるだけ素直に、できるだけ短時間で、休むようにしている。
また一日休むことになるのは遠慮したかった。
「俺もう飲み終わるし、ククルも座れば?」
「ありがとう。もうちょっと待って?」
座れば代わりに自分が立つことがわかっているので、何かと用事を見つけて引き延ばすククル。
笑いながら了解の意を返し、テオはククルを見る。
宿泊客のことを聞きに行ったとき、アレックから少し注意するよう言われた。
詳細は話してもらえなかったが、ギルドでも何か気になることがあるらしい。
念の為と言われたが、普段ククルといるのは自分なのだ。警戒も過ぎるくらいでちょうどいい。
訓練中はほめてはもらえたが、自分の力を過信するつもりはなかった。
視線に気付いたククルが笑みを見せる。
何かあってからでは遅い。
今ここで彼女を守れるのは、自分しかいないのだから。




