ジェット・エルフィン/暗雲
ライナスから戻ったその足で、俺は事務長室に駆け込む。
「どうした、ジェット?」
それなりに遅い時間だっていうのに、相変わらず仕事をしてるギャレットさん。一体いつ休んでるんだろう?
「すみません、急ぎなんで今いいですか?」
俺の声に、ギャレットさんの表情が変わった。手に持っていた資料を置いて、まっすぐ俺を見る。
「わかった。聞こうか」
話を聞いたギャレットさんはしばらく考え込んでから、小さく首を振った。
「それに関しては私もわからない。こちらも留意しておこう」
「お願いします」
「それとは別、だと思うんだが。私からもジェットに伝えておくことがある」
俺に?
頷き、困ったように溜息をつくギャレットさん。
「ホルトにイルヴィナの情報を洩らした相手が不明なんだ」
ギャレットさんの元部下のホルト。こないだの騒動の黒幕だと思ってたのに、二十年前のこと、自力で探り当てたんじゃなかったのか?
「不明って、行方がってことじゃなくて…」
「ああ。相手の見当がつかない。調べを進めてから報告しようと思っていたが、辿り着けなかった」
申し訳ないと謝られる。
「イルヴィナに関してだけはもう懸念はないだろうが、ほかの何かはあるかもしれない。今後は情報が入り次第伝えるようにするが、知らせる相手は選ぶように」
「わかりました」
アレック兄さんとダンとナリスには話すとして、リック…は顔に出そうだな。
にしても。ギャレットさんを頼るつもりで来たんだが、こっちもそれどころじゃないのかもしれない。
そんな心配が顔に出たんだろう。ギャレットさんは少しだけ表情を和らげて、わかってると頷いてくれた。
「もちろんジェットの件も調べてみるよ」
「すみません。お願いします」
ギャレットさんに礼を言って、俺は事務長室をあとにした。
力を借りようとギャレットさんのところへ来ただけなのに、思わぬ話を聞くことになった。
それにしても。イルヴィナのことにはけりがついたと思っていたのに、どうにも落ち着かないっていうか、何ていうか。
またクゥのとこにまで手が伸びないといいんだが。
溜息をつき、歩を早める。
俺は俺で、少し動いておくべきかもしれない。
ったく、こんなときに限ってあいつはもう!




