三八三年 明の六日
「じゃあ次の訓練のときに来るからな」
そう笑い、ジェットはククルの頭を撫でる。
「雨の月に長期で休みもらえたから、こないだの続きはそのときな?」
初めて酒を飲んだあの夜、結局は注がれた一杯だけをゆっくりと飲んだ。
まだ美味しいとはあまり思えないが、和らぐ雰囲気と少し軽くなる口に、店に来る客たちが楽しそうに酒を飲む様子に納得がいった。酒そのものと、それを楽しむ場と。その両方が酒を飲むことの魅力なのだろう。
「待ってるわね」
ジェットが来るまでまたしばらく間が空く。次の約束をして、無事を祈って待つだけだ。
「手紙のこと、こっちでも調べてみるけど。何かあったらダンのところにな」
「テオの名前ででしょ。わかってるわ」
「ったく、クゥに心配かけるなって」
ぼそりと呟き、もう一度ククルを撫でる。
「じゃ、またな」
「気を付けて」
丘を降りるジェットたちを見送り、ククルは店に戻った。
朝食の片付けをするククル。時折止まりそうになるその手にテオが苦笑する。
「心配?」
尋ねられ、気もそぞろであったことを自覚する。
「どうしても気になって」
「わかるけどさ」
自嘲を浮かべるククルに、テオの笑みにも少しだけ影が差す。
「そんな調子で怪我しないでくれよ?」
「ごめんね。大丈夫よ」
自分よりよっぽど心配そうなテオに詫び、ククルは切り替えるように息を吐いた。




