三八三年 明の三日
ジェットとダリューン、そしてナリスが昨夜ライナスに到着した。ナリスはここから南東にある故郷へと今朝出発し、リックは中央から直接故郷へ向かったそうだ。
昼前に配達された手紙を読んでいたククルが、ふと表情を変える。
「クゥ?」
定位置でダリューンと食後のお茶を飲んでいたジェットが気付いて声をかけた。
手紙の文字を最後まで目で追ってから、ククルは何も言わずジェットに手紙を差し出す。
渡されたそれをダリューンと一緒に読んだジェットが怪訝そうに顔を上げた。
「エト兄さん、このこと聞いてる?」
「いや。聞いてない」
ククルに視線を向けられたダリューンも無言で首を振る。
ふたりの反応に首を傾げ、ククルは気を取り直すように小さく息をついた。
「とにかく返事を書くわ。今から出せばあさってに着くから」
「ああ。頼む」
二階に向かうククルを見送ってから、考え込むようにもう一度視線を落としてジェットは並んだ文字を見る。
「心当たりが?」
短いダリューンの言葉に首を振り、ジェットはでも、と呟く。
「ちょっと考えないと…だな」
年が明けて三日目の今日。
持ち回りの待機役を除き、いつもは年末から年始にかけてそれぞれのパーティーの都合に合わせて数日の休みを取ることができる。
しかし今年は一日に式典が行われた為、それ以降の休みとなった。ジェットたちの休みは二日から六日。ライナスを出るのは六日の早朝だ。
「式典、どうだった?」
笑いながらのテオの声に、うるさい、とジェットが睨む。
「ギャレットさんとウィルにしてやられたよ。ほんっと疲れた」
「何だよそれ?」
口を噤むジェットの代わりにダリューンが淡々と説明する。
笑うテオをジト目で見ながら、ジェットは溜息をついた。
「あれだけ受けた説明は何だったんだって。全部吹っ飛んだよ」
「おかげでらしい演説になったんじゃないか」
「演説て」
ダリューンの言葉に苦笑して、ジェットはテーブルに頬杖をつく。
「ま、精々職業英雄を楽しむことにするよ」
悲願は達成したのだから。あとはのんびり、自分らしく。
和らいだジェットに、ダリューンも瞳を細める。
「そうだな」
向けられる穏やかなその眼差し。口角を上げ、正面から見据える。
「もちろんダンも一緒にな。まだまだ付き合ってくれるんだろ?」
あの日イルヴィナで報告を済ませてから。
調査に訓練に式典と、慌ただしくて聞けずにいた。
英雄を続けることになったとはいえ、自分にもう重責はない。本来自分より強いダリューンが同じパーティーに居続ける理由は、もうないのだが。
細めていた瞳を見開いて、ダリューンがジェットを見た。それからふっと相好を崩す。
「ああ。お前が飽きるまで付き合うよ」
予想通りの返答に満足そうな色を足し、ジェットは笑った。




