ジェット・エルフィン/始まりの日
通し番号がないのでわかり辛いですが、百話目になります!
ここまで読んでくださってありがとうございます!
堅っ苦しい服を着て。顔だけは何とか取り繕って。
三八三年、明の一日。始まりの日。
二十年前と同じように、俺は壇上に立っていた。
式典といっても。俺がやるのは事務長のギャレットさんから勲章と褒賞の目録をもらうくらい。話すのは全部周りがしてくれるから、俺はただ真面目な顔をして、黙って受け取ればいいだけだ。
まぁ、それでも十分面倒くさいんだけど。
視界の隅にダンたちの姿。同パーティーだから列には並ばず壇下の端にいる。前にいるのはほかのギルド員たちで、もちろん見知った顔も並んでる。
ダンたちと反対側には出資者たちの席がある。希望者が多すぎてクジで決めたってのはギャレットさんの冗談…だよな?
要するに二十年英雄としてがんばったから、これからも英雄として活動できるようにしますって、そんなようなことを難しい言葉で色々遠回しに言ったあと、ギャレットさんが俺を見る。
「ジェット・エルフィン」
名を呼ばれたらギャレットさんの前に行って。勲章を着けてもらって、目録を受け取る、と。
手順を確認しながらギャレットさんの前に立つ。勲章を着けられたところで拍手が起こって。ウィルが持ってきた目録をギャレットさんに渡してもらえば…って、ウィル?
ギャレットさんの向こう、立ったままウィルが動かない。
焦ってギャレットさんを見ると、いい笑顔を向けられる。
…ちょっと待て。まさか―――。
笑顔のまま、ギャレットさんは正面を向いて言い放った。
「では、英雄ジェット・エルフィンからひとこと喜びの声を」
聞いてないって!!!!!
どうぞとばかりにちらりと俺を振り返ってから、一歩下がるギャレットさん。
ウィルとまとめてあとで絶対文句言ってやるからなっ!
息をついて正面を見る。何言えってんだよ、全く。
「…ジェット・エルフィン、です」
とりあえず名乗ると何人か吹き出した。
こらナリス! お前まで吹くんじゃないって!
視界の端で顔を背けて笑うのを必死に堪えてるナリスの姿に、何だか力が抜けた。
俺に言えることなんてたいしたことじゃないんだから。言葉まで取り繕ったって仕方ない。
息を吐いて。改めて前を向く。
「偽りの英雄の俺を二十年支えてくれた皆に、まずは感謝を。イルヴィナの真実を信じてくれた皆に、黙っていたことへの謝罪を。それでも俺がここに立つことを認めてくれた皆と―――」
テオが言ってた、職業としての英雄。
そういうものだと思えば、気も楽だな。
「―――あの日俺を生かしてくれた皆に恥じないように、俺なりに精一杯英雄の職務を全うすることを。改めて、ここに誓う」
俺にできるのは、俺なりに誠実に生きてくことだけ。
「だからこれからも、名ばかりの俺を助けてほしい」
あとは皆のおかげなんだから。これからも助けてもらわないとな。
そう言って皆に丸投げして。
笑う俺に、皆拍手を返してくれた。
再びギャレットさんと向き合う。眼がさっきより優しいのは気のせいじゃないんだろう。
…まぁ、だからって怒らないわけじゃないけどな!
そんなことを考えてるうちに、ウィルが渡した目録をギャレットさんが読み上げた。
「今回の褒賞として、勤続年数と同じ、二十一日間の特別休暇を与えることにする」
「え?」
褒賞って、休暇?
それも聞いてないんだけど??
「私が聞いたときに、金より休みがいいと言ったじゃないですか」
事務長室でしれっとウィルが言う。
確かに休みのほうが嬉しいけど。
そう思いながらギャレットさんを見ると、笑って頷かれる。
「長期なので影響の少ない…例えば雨の月に取ってもらえたら助かるかな」
それを聞いて。俺はやっとギャレットさんの意図がわかった。
雨の十六日―――兄貴たちの命日。
その前後に休めるように。その日にライナスにいられるように。
その為の、休みなんだと。
「ギャレットさん…」
怒ってたことなんか吹っ飛んで、名を呟くことしかできなかった。
「去年の分まで行っておいで」
本当に。この人はどこまで考えて動いてるんだろうか。
俺はどこまで、この人に助けられているんだろうか。
「…ありがとうございます」
ぐっと両手を握りしめて。
俺は心からの礼を告げた。
そういやと思って、帰り際ウィルに年始にライナスに来るかと聞いてみた。
「いえ、今回はレザンに帰ろうと思ってます」
そう言ってウィルは笑うんだが。
「ウィル?」
何か引っかかってもう一度顔を見る。
俺を見返す紺の眼からは、それ以上何の感情も読み取れなかった。
ありがとうございました!
祝百話です。あとがき長めです。よろしければお付き合いください。
『丘の上』はコメント少なめで真面目なフリして書いてますが、ホントはあとがきや単行本の柱やカバー下を読むのが大好きです。裏話、楽しいですよね?
というわけで(?)せっかくなので好きなことをやろうということで。
『丘の上』よりちょっと気楽に、書きためてたレム編を少しずつ上げていきたいなと思っています。
一話短め、戦闘ナシ、レム目線のみ。あとがきという名のツッコミも書こう!
序盤は宿での皆の様子を。
途中からはレムの恋の様子を。
生温かい目で見守っていただけたらと思っています。
タイトルは愚直に。
『ライナスの宿の看板娘』
今日からぼちぼち上げていきますので、よろしければ覗いてみてくださいね。




