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『魔王』再び?


   ◇



 すっかり焼け落ち、森が黒い野原と化すと、リンドブルムの軍は引き上げ、代わりにラインベルグから派遣された農夫や土建屋たちによって、残った木の根の撤去や地均しといった作業が進められた。そしてやがて一本の道が通ると、そこを行く使節団の姿があった。

 ラインベルグよりリンドブルムへ。再びの国交樹立、それに伴う様々な取り決めと調印を行う為に国王を招待する書状、と、ついでにクラウディアから王女様方への手紙「ナイトガウンパーティのお誘い」を携えて。焼け野原を行く馬車の中、二人の若者が囁き合う。


「凄いな。これを一人で成し遂げたのだろ? ギョー公爵家のクラウディア様は」

「ああ。クラウディア様の通った後は、焼け野原と、虜になった男共の累々たる屍だけが残されてるって。噂になってたな」

「その屍っていうのが、自国も他国も関せず統治者たちなのだから。まさに『魔王』だな」

「気をつけろよ。そう思って身構えていると、実際にお会いした時、余計にクラウディア様の術中にハマるぞ」

「お会いしたことがあるのか?」

「ああ。あの方は……」


 噂が噂を呼び、クラウディアの名声と悪名は国の内外に轟いていた。


『隣国へ単身乗り込んだ烈女』

『森を焼き払った悪女』

『戦の種を取り払った堅女』

『王族を尽く魅了し手玉に取った魔性の女』


 評判のクラウディアとつながりたいと願う貴族連中は増えるばかりであったが、当の本人はやっときた平和な学園生活を謳歌していた。


「……というわけで、ご褒美に、ナイトガウンパーティを()()()開催する許可を国王陛下からいただいたの!」


 ギョー公爵家へ招かれ、晴れた庭でクラウディアとのティータイム(女子会)に興じていたミザリーが、その言葉にぽかんと口を開けて固まる。


「リンドブルムのお姫様方とですか!?」

「ええ。そう。とっても素敵な方々よ。年齢は私たちの一つ上と三つ下と四つ下。姉姫様は気高くあられて、妹姫様は二人とも素直でお可愛らしいの。以前ミザリーさんたちとしたナイトガウンパーティの話をしたら、『私たちもやりたい!』って仰られて。それならぜひ、ラインベルグへいらしたらご一緒に、と盛り上がってしまって。……でも、実を言うと、細かい段取りするのって、私はあまり得意じゃないの。ミザリーさんならご友人も多いし、女の子が目一杯楽しめるような企画を立てて手配できるのではないかしら?」

「私がですか?! ですが……」

「何か問題がありますか?」

「いえ、私は…… 私は、大罪人サリー・フォーサイスの姪です。此度の件で我が家が責任を問われることはありませんでしたが…… しかし…… 分をわきまえぬ大役、お受けするわけには参りません」


 言いにくそうに、しかしきっぱりと言い切る。そんな潔いミザリーだからこそ、クラウディアは手を取る。


「此度の件に直接関わった貴族たちでさえ、大半は幾つかの罰を受けただけで爵位すら没収された者はいない。理由は一つ。国内の勢力図を変えないためです。国王陛下はハスラー侯爵家がこれまで通りの任に当たることを望まれておられるのよ。だから、寧ろ、ミザリーさんが大役を担うことで『ラインベルグは何も変わらない、全くダメージなんて負っていない』と国内にも国外にもアピールできるのです」

「そんなに、うまくいくのでしょうか?」

「いかせるのよ。ミザリーさんの『おもてなし(りょく)』で!」


 半信半疑で聞いていたミザリーであったが、クラウディアに手を取られ、あまりに無邪気に力強く輝く瞳で見据えられると、心の中にメラメラと燃えたぎるものを感じて拳を握った。


「そう、ですね。私、やらせていただきます!」

「ミザリーさんの企画なら、きっと素晴らしいパーティになるわ!」

「参加者の人選はクラウディア様にお任せします。隣国との橋渡ししたい者があるのでしょう? そういった家の令嬢をお選びください」

「さすがはミザリーさん。実は数名ピックアップしておきましたの。直接存じ上げない方もいるので、この中のどの方が適しているかも、教えていただけたらと……」


 懐から取り出した紙切れを渡すと、ミザリーはざっと目を通して、


「ああ、こちらの令嬢は人見知りで社交下手ですので、せっかく整えた場を活かせないかと思います。こちらは、少々雑な振る舞いが気にかかります。こちらとこちらの令嬢なら、洗練されていて、話題も豊富。それに、『楽しいこと大好き!』な、ノリの良さもありますから、姫君様方のお相手を立派に務められるはずです」


 最適解を即座に導き出す。その手腕にクラウディアも息を呑み、思わず拍手が出た。


「やっぱり、ミザリーさんにお願いして正解でしたわ!」


 無邪気にぱちぱちと手を叩く『魔性の女』を前に、サリーの蛮行発覚以降、心の中に重く沈んでいた氷の固まりが解けていくのをミザリーは感じていた。


「ところで、王太子殿下とは再婚約なさらないのですか?」


 ぴしっ


 しれっと尋ねたミザリーの問いを受け、目に見えて固まったクラウディアが、「何でもない」といったふうに顔の前で手を振る。が、その動きはギシギシと音が鳴りそうなほどぎこちない。


「あのぉ、えっと、ほら、それどころじゃないっていうか、色々あったし……」


 しどろもどろになりながらどんどん顔が赤く染まっていくクラウディアに、「これは何かあったな」と好奇心が止まらないミザリーであった。




 

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