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図書室の攻防


ラルフVSアリシア。ちょっとだけ痛そうなので、女の子が虐められるの苦手な方は注意。

 


 生徒たちは教室で授業を受けているはずの時間。図書室の奥の、哲学などという小難しいばかりで面白くもない本が収められた一角に、その者はいた。手にした本は薬草学。それが目印であった。

 一人の男子生徒が近寄り、すれ違いざまに視線を投げると、彼女はポケットから取り出した紙の包みを男子生徒の手の中に押し込む。何を握らされたのか確認もせず男子生徒が立ち去ると、彼女は静かに本を閉じた。


「今日は店じまい?」


 歩き出してすぐに誰も居なかったはずの背後から声をかけられ、アリシアは一瞬怯んだ。


「薬、オレも欲しいな」

「なん、の、ことですか?」

「こんなとこで店を出して、操り人形を増やしていたのかぁ。なかなかやるよね。ねえ、誰の指示? 誰が顧客を見繕っているの? アンジェリカ?」

「何の、ことか…… わかりません。あの、失礼します」


 あくまでもしらを切り、立ち去ろうとするアリシアの前に、ラルフが立ちふさがる。


「その()()()()、止めてくれる? 合ってないんだよね。気持ち悪い」


 その一言に、俯いたままのアリシアの肩がピクリと反応する。


「……わたしのことも、診療所送りにするんですか? ビュ()()()()()()()()


 下を向いたまま、ぎらついた目だけで絡みつくように睨み上げてくる。そこにはもう、気弱なアリシアはいなかった。


「本性出すの早くない?」

「痛めつけられるのなんてごめんだもの。何が聞きたいの? アンジェリカに売った薬のこと? 解毒剤なら無いわよ」

「クラウディアの無実を証言してもらいたかったんだけれどね。それはもう良い」

「あら。クラウディアさんに使った訳じゃないのね。お休みしているから、毒を盛られて死んだのかと思ってしまいました」


 事も無げに言ってくすくす笑うアリシアに殺意が湧く。


「そうだねぇ。クラウディアが死んでたら、あんたももう死んでるんじゃない?」


 ラルフの言葉に、アリシアの表情が強張る。漸く自分が何に喧嘩を売っているか気付いたのか、ゆっくりと視線を動かし、逃げ道を探す。


「逃げられないね。助けでも呼ぶ?」


 言った瞬間、目の前の女の喉をガッと掴む。顎が上がり目を見開いたアリシアは息を止められ「かはっ!」と苦しげに咳き込んだ後、空気を求めるように口をはくはくと動かした。


「苦しい? 可哀想に。陸に上がった魚みたいだねぇ。あのさぁ、弱いものイジメしているみたいで気分悪いから、抵抗しないでくれる?」


 口から涎をたらしながら、尚も睨みつけてくるアリシアに不気味なものを感じた次の瞬間、緩く握られたまま身体の脇に力無く垂れ下がっていた手の中に光るものが見えた。それを突き立てられる間際、後ろに飛び退く。反動で身体を投げ出され、本棚に背中をしこたまぶつけたアリシアは腰からずるずるとその場に座り込み、ひどく咳き込んだ。


「毒針? そんなものまで仕込んでいるとは恐れ入ったねぇ」


 床に落ちたブローチを拾い上げ、しげしげと見つめる。


「痛い、のは、ごめん…… って、言ったでしょ!」


 絞り出すように言って、座り込んだまま涙を流して咳き込み続けるアリシアに、ゆっくり近付いていって見下ろす。


「睨む前の初手で出されていたら、逃げそびれたかもしれないよ。凄いね。うちの隊にも取り入れようかなぁ。ねえ、これ……」


 咳き込むアリシアの横にしゃがみ込んで、首の後ろに針を押し当てる。


「刺したら死ぬの?」


 咳き込みたいのを必死で抑え、動かなくなったアリシアを見て、更に針を進める。肌がへこみ、あと少しで刺さる、という時に「待って!」とアリシアが声を上げた。


「逃げない。全部話す。何でも話すから止めて!」

「信用できなくなっちゃった。でも、死なれるのは困るなぁ。逃げられないように、ちょっと折ろうか」


 すっとアリシアの腕を取ると、背中側に捻る。


「待って! 止めて!」

「しぃ。大きい声出さないで。ほら、ここ図書室だし。静かにしないと喉潰すよ?」


 耳元で囁いて、再び喉笛を潰すように手をかける。うずくまったまま背後から腕と喉を押さえられて、アリシアは大人しくなった。


「いい子いい子。じゃぁ、聞かせてもらおうか。友達のふりしてアンジェリカを監視したり、脅してたのはお前だよね?」


 喉がひゅっと鳴る。


「ちゃんと答えないと折るよ?」

「そうよ」

「誰の指示?」

「……殺しなさいよ」


 困ったようにラルフが眉をしかめる。


「仕方ない。折るね」


 喉笛を押さえられて声が出ないアリシアの腕をあらぬ方向に捻ると、みし、と肘の骨が軋む。


「~~~っ!!!!」

「隊長」


 声にならない悲鳴が空気を揺らした始めた時、二人の背後から不意に声をかけられた。いつからそこに居たのか、黒ずくめの人物がラルフに近寄り、二言三言耳打ちする。


「そうか。では、カインに王都に戻るよう伝えろ。あとは引き受ける」


 上司の言葉を聞くと、黒ずくめの人物は返事も足音もなく、掻き消えるように去って行った。ラルフは、興が冷めたと言わんばかりにアリシアを冷たく解放した。

 投げ出されたアリシアは、肘を撫でさすりながら、尚も涙目でラルフを睨みつける。


「そんな目で煽っても、もう遊んでやれないよ。お前の主が、お前の父親を殺して逃げたらしいから、さぁ」


 虚を突かれた様子で身動ぎできなくなっているアリシアを無視して立ち去りかけたラルフであったが、振り返って見下ろす。


「お前も行く?」


 言うだけ言ってスタスタと歩き出し、図書室を出る。その後ろ姿を呆けて見ていたアリシアであったが、慌てて立ち上がると小走りで追い掛けてきた。




 

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