アンジェリカに関する証言
アンジェリカの部屋付き侍女の証言:
以前から嫌がらせのようなことがたびたび起こっていた。
1)アンジェリカの指示で植えられたハーブが荒らされていた。2)アンジェリカの焼いた菓子が窓から投げ捨てられていた。3)アンジェリカが公爵夫人と一緒に選んだ家具が刃物で傷つけられていた。4)「何か臭う」と言うアンジェリカの指示で部屋中を隅々まで調べたところ、ベッドの下からナイフの突き刺さった鳩の死骸が出てきた。
侍女に口止めし、自らも何事もなかったように気丈に振る舞っていたアンジェリカであったが、鳩の死骸まで見てしまっては悲鳴を上げる事態となった。
「倒れておしまいになったのは心労と思っておりました。まさか毒だなんて……」
ギョー公爵邸庭師頭の証言:
アンジェリカはギョー公爵家に入って早々に、館に仕える、とくに、下働きの者達の意見を汲み上げ、長年燻っていた幾多の問題を解決した。
ギョー公爵家の「姫君」はクラウディアであり主への忠誠は変わらないが、今や、館で働く者たちにとってアンジェリカは同じ目線に立ち「リーダー」として率い、導いてくれる、かけがえのない存在と認識されている。
「庭に植えた木苺が実ったら、それで菓子を作ってやると楽しそうに話してらっしゃった。そんな方が、自分から毒なんて飲むはずねえです」
ギョー公爵邸料理長の証言:
貴族の令嬢というのに厨房に入ってきた時には面食らったが、自分の考えた菓子だと言って自ら竈の前に立ち調理したり、賄いの内容を気にして、質と量の改善を公爵夫人に提案した。
厨房で、絞めたばかりの鳥などを見た時には青ざめ、具合悪そうに退出していた。そうなるとしばらくは肉類を口にできなくなるため、厨房で働く者は皆、食用肉になる前の毛や羽のついた動物や、生き物の形を保ったままの肉は、なるべく見せないよう気を使っていた。
「あの方が自分で鳩を? ありえません。倒れてしまいますよ。クラウディア様なら罠猟もなさいますし、嬉々として羽もむしりなさいますが」
学園での友人Aの証言:
庶民として生活していたからか、他人との距離感が貴族的でなく、持ち前の人懐っこさもあって、学園内では異性に誤解されることも多かった。本人は、編入してきたデビュタントの時からルイス一筋であった。思いを貫き、ルイスとの婚約が整ってからは、ギョー公爵邸で概ね落ち着いて生活できていた。
「でも…… 何か、不安があったようです…… 眠れないと、おっしゃられて…… 睡眠薬が欲しいと…… でも、私は心当たりがなかったので、夫人かクラウディアさんに話してみてはどうかと……」
ギョー公爵夫人の証言:
ぶつぶつと独り言を呟くだけで、証言らしき証言は取れず。
「あの子について私が言ったことは、本心では…… でも、もしあのことがあの子の耳に入っていたとしたら…… アンジェリカさんはあの子に……」