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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第一章 幼少期編
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悪役令嬢、城のセキュリティを憂う

 

 今日も充実した一日であった。頑張った甲斐あって資料作りにも目処が立ったし、余った時間で「王家の歴史」なる本も読破した。いやぁ、面白い。前世では歴史なんて全然興味なかったけれど、この世界、この国の歴史は、ゲームの裏設定を読む感じでさくさく読めるし頭に入ってくる。興味を持つというのはお勉強には大切な要素なんだな、と改めて思った。

 椅子に座ったままひとつ伸びをした後、帰り支度を整え、司書の方に挨拶をする。ドアノブに手を伸ばし…………手を下ろして振り返る。


「こちらの本はお借りしてもよろしいのでしょうか」

「ええ。結構ですよ。禁書の棚と持ち出し禁止の棚の物以外なら何冊でも」

「明日は来られないので、いくつか借りていきますね」

「では、決まったらお声掛け下さい」


 地理、世界史、哲学、宗教学の四冊を選び記帳する。皮の表紙の分厚い本は持ち上げただけでよろけるほど重たかったが、その上に自分が持ち込んだ書類や筆記用具等を司書さんに乗せてもらう。


「大丈夫。案外力持ちなんですよ。お仕事の続きをなさってください」

「では、せめてこの部屋ではエスコートさせてください」


 壮年の司書さんが私に代わってドアノブに手を掛け、ドアを開けた瞬間……


バササササ


「ぐわぁぁぁぁぁ! なんだ!?」


 頭めがけて天井から落ちてきたクッションの山に埋もれる。


「何か仕掛けがされてあったようです。大丈夫。ただのクッションみたい」

「何故クッション!?」

「では。急ぎますので、失礼します」


 呆然とする司書さんに礼を取り、蔵書庫を後にする。城の廊下は広くて硬くて音がよく響くので、なるべく足音を立てないよう、楚々と歩く。その行動に取り立てて意味は無いが、足音が響くと王宮に自分の存在感をアピールしているようで、恥ずかしいし申し訳無い気持ちになり、避けてしまう。なにがなんでも目立ちたくなかった『わたし』に染み付いた習性である。

 来たときと同じテラスに出ると、子馬が気になった。厩舎に向かおうと立ち止まり、回れ右しようと思ったところで、正面から歩いてきていた侍女が「きゃぁ!」と悲鳴を上げて転んだ。床に油がこぼれていたようだ。直進していたら私が転んでいただろう。まぁ、良い。

 厩舎でクリス王子と見た子馬を撫で、餌やりをさせてもらい、庭園を歩く。来たときに誰かがハマった落とし穴は綺麗に埋め立てられていた。その場にいた庭師のお爺さんに、素晴らしい仕事ですね、と言うと抱え込んでいた重たい本を持って馬車まで送ってくれると言うので、ありがたくお願いする。

 一緒に歩きながら話していると、桜の古木があるらしいので寄り道していくことにした。今は葉桜の季節ではあるけれど、あの佇まいが日本人の心を捉えるのだ。

 行ってみると、確かに立派な、小さな山程もある巨木である。「花の季節に王子とお花見したいなぁ」と想像しながら、吸い寄せられるようにふらふらと近付き、…………足が止まる。


「どうしました?」

「あ、ねえ、あの枝、病気じゃないかしら?」

「どれ!?…………ああ、これはいけねえ。急いで切り落としちまわねえと、木全体がやられっちまう! すみませんが、ここで失礼させていただきます」


 持っていた本をこちらに渡し、ぺこりとおじぎして桜に走り寄っていく庭師のお爺さんが、突然ヒュッと視界から消えた。歩いて行って、上から穴を覗き込む。


「あのぉ、自力で出られますか?」

「ええと、できれば誰か呼んでいただけますかね」

「わかりました。誰かと出会ったら助けに来るよう伝えます」


 すっかり遅くなってしまった。早く帰って本を読みたい。この国で女が経済的に自立し一人生きていくことは現実的に可能かどうか、思想的な部分から考察してみたい。だって、できれば修道院に行きたくないんだもん。集団行動苦手だし。




………………ところで、この城のセキュリティはどうなっているんだろうか?




 

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