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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第四章 政略結婚編
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危険なことや悪いこと

 

 クラウディアは猛省していた。


 前世では縁遠く、諦めてしまった恋愛にまつわるあれこれが、今回の人生では手に入るのだという、分かっているつもりで分かっていなかったことが、急に実感として押し寄せてきた。

 しかし、それ以上にクラウディアを悩ませたのは、最初にラルフと唇が触れた一瞬の心境であった。前世で聞いた言い回しを用いるなら、「誰もすなる接吻(キス)といふものを、我もしてみむとてするなり」……つまり、興味本位である。

 勿論、それだけでは無い。ラルフの思いが痛いほど伝わってきて、応えたくなった。それが五割ある。しかし、残りの五割の内、三割が好奇心で、二割が打算だ。相手がクリスであったなら、「キスを受け入れるイコールその後の行為やら結婚やらを受け入れる」となりそうだが、ラルフなら応えなくて良いと言ってくれている。安全に好奇心を満たせるという打算が、効果的に働いた。


(最悪だ! 酷い! ビッチの思考!)


 しかもその、前世込みで初めのキスというものがとても心地良いもので、思わず夢中になったのが、尚、いたたまれない。向けられるラルフの思いが純粋であったが故に、余計に自分が浅ましく、恥ずかしかった。


 そんな理由で他人とは少し距離を置き、一人、温室で昼食をとるクラウディアであったが、どこから嗅ぎつけたのかフェリックスがやってきた。「ご一緒してもよろしいですか?」と言うな否や、返事も待たずに隣に陣取る。そこは、いつかルイスとアンジェリカが化かし合っていたベンチで、クラウディアは少々因縁めいたものを感じる。


「オセロの件は申し訳ありませんでした。今は他の案件が立て込んでおりまして……」

「いえ、気になさらないでください。それより、こんな所にお一人でいらっしゃるなんて、どうかなさいました?」

「ただの気分転換です。もしかして、探してくださいました? 何かご用がおありでしたか?」

「ええ。ラルフ様のことで」


 まさかの人物から、今一番触れられたくない名を出されて、たじろいだ。それを、フェリックスは見逃さない。


「気になります? 僕はあまりよく知らないのですけどね、三年のレオン・ビューラーという人に大怪我させて休学に追い込んだのは、ラルフ様だそうですよ」


 思ってもいない方向の話に、クラウディアは目の前が真っ白になった。停止しようとする頭をなんとか回転させ、否定を試みる。


「そんな話は…… どこからそんな話が……」

「妹のアリシアは、クラスメイトのアンジェリカ・クレイルという方に聞いたそうです」


 次々と出てくる意外な名に、頭がついていかない。しかし、辻褄は合う。考えてみれば、レオンが姿を見せなくなったのは、ラルフが編入してきたのと殆ど同時ではなかったか?


(なぜ、ラルフが?)


 そう問い掛けて、ふと、蔵書庫でのラルフの言葉が脳裏に蘇る。


『危険なことや悪いことはオレがやるから、全部こちらに押し付けて』


 そういうことかと合点がいってしまい、もうそれ以上、フェリックスの話を否定できない。


「僕が聞いたのはそれだけですが、アンジェリカさんは今、ルイス様の婚約者としてギョー公爵邸にいるのでしょう? 聞いてみてはどうです?」

「あ…… どうでしょう。アンジェリカは、私とは……」


 その言葉を聞いたフェリックスが、困り顔で提案した。


「では、妹をご紹介しましょうか?」

「はい。是非」

「しかし、弱ったな。妹は今、学園には来ていないのですよ。元々、気弱で友人らしい友人もいなかったのですが、アンジェリカさんが婚約を機に自主退学されてから、すっかり不登校になってしまったと、両親が嘆いているのです」

「でしたら、我が屋敷にいらしてくだされば良いんだわ。アンジェリカさんも喜ぶと思います」

「妹一人では……」

「フェリックスもご一緒にいらして」

「でも、まずはラルフ様についての話を聞かないといけませんよね。アリシアに会いにいらっしゃいますか?」

「はい。よろしければ、お邪魔させていただきたいと思います」


 その言葉に、フェリックスは心配気な表情を一変させ、渾身の()()()()()爽やかさでにこりと笑む。


「では、今日にでもどうぞ」





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