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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第四章 政略結婚編
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カウンターパンチもありました


 誰が口火を切るのかと三竦み状態でいると、入り口が開いて見知った顔が入ってきた。


「揉めてますかぁ?」


 既にこの状態を予測していたようなラルフの態度に、一同が察する。


「おまえが仕組んだのか……」

「いやぁ、そろそろ、バラバラに行動するの止めませんか? と思いまして」

「そうよ。共闘すべきだわ」


 すかさずクラウディアが同調し、クリスとルイスは顔を見合わせる。


「そうですね。もうクラウディアに聞かせても良いと思います」

「そうか。ならば、皆の情報を持ち寄った上で、今後の動きについて考えよう」

「では、私から」


 話し始めたルイスの言葉に、クラウディアは寝耳に水といった顔で聞き入っていた。




   ◇




 アンジェリカとルイスの婚約が学園内の話題をさらったのは、四者が温室で顔を合わせた僅か数日後のことであった。

 素行の悪さで女生徒から疎まれていたアンジェリカとの婚約は周囲に受け入れられる筈もなく、ルイスは一時的に評価を落としたが、本人は意に介していない様子であった。


「実は、アンジェリカさんのことでお願いがあるのです」


 呼び出された放課後の温室。クラウディアの唐突な言葉に、カインは眉をひそめた。


 数日前まではアンジェリカとルイスの逢い引きの場であったが、既にアンジェリカは退学し、寮を出てギョー家に入っている。カインはクラウディアに呼び出され、嫌な予感しかしなかったにもかかわらず、のこのこやってきてしまった自分を呪いたくなった。


「私はあの人と関わるつもりはありませんが。関わらなくても聞けるお願いなのでしょうか」


 婚約の件と、そこに至る大まかな事情については既にルイス本人の口から聞いていたが、正直、不自然な点も多く納得のいくものではなかった。


「婚約自体、企みがあってのことですよね」

「そう、です」


 いつも通りの無表情だったが、口調が刺々しくなってしまい、後ろめたさのあるクラウディアは引き気味になる。


「あなたとアンジェリカさんは、何か揉めていましたね」

「そう、よねえ」

「あの人が最近まで私に粘着していたのは知っていますよね」

「知、ってる、わねえ」

「ルイス様はあの人の素行をご存知ですね」

「まあ、大体」

「ラルフ様も事情をご存知ですね」

「ええ、まあ」

「クリス様もですね」

「……はい」

「関わらせるからには、私も、全て話してもらえるんですね?」


 尚も言い淀むクラウディアにカインは苛立った。それは単純な疎外感などではない。


「……私では、話すに足りませんか?」


 呟くように口をついた言葉に、カイン自身が苦しくなる。クラウディアの周囲には、自分より地位も実力も信頼も揃っている者が何人もいるのだ、自分はそこに至っていないと実感してしまった。そして、そんな卑屈な思いを今の一言でクラウディアも察しただろう。

 それでも良いと、カインは思う。何も持っていないのは、元から承知だ。


「関係無いとは言わせません。私も全面的に関わらせていただきます」


 その言葉を承諾の意とは解したようだが、クラウディアはまだおずおずと言いにくそうにしている。


「いいの? カインにとっては、ただの面倒事かもしれません」

「今更それを言いますか」

「ありがとうございます……」


 続く言葉に、カインは再び絶句した。


「では、アンジェリカさんの話を聞いてあげてください」


 呆気にとられたまま反応の無いのを、勘違いしたクラウディアが焦って訂正する。


「あ、ち、違うの。内容を私に教えて欲しいという事ではないの。ただ、お友達になって、話し相手になってさしあげて。私は嫌われているから」

「なぜ、私なんです? ミザリーさんにでも頼めば良いのじゃないですか? 女性同士の方が気が合うでしょう。或いは、ルイス様がなさることでは?」

「お兄様には何も話せないと思う。それに、女性とは打ち解ける気が無いし。……たぶん、アンジェリカさんはカインが良いの」


 クラウディアは奥歯に物の挟まったような言い方をしたが、実のところ、カイン自身も心当たりがあった。アンジェリカの自分に対する執着は、決して恋愛感情などではなく、苦労人同士というか、貴族でありながら庶民に近い感覚を持つ者同士のシンパシーのようなもの。カインもそれを感じていない訳ではなかったが、親しみ以前に、距離感を無視して踏み込んでくるアンジェリカへの嫌悪感が勝っていた。

 しかし、クラウディアの言葉は、思っていたものとは違った。


「カインなら、茶化したり、面白がって誰かに話したりしないでしょう? だから、信頼できるの。なんでも話せるの。言葉は少ないけど優しいってわかるの。私もそうだから、わかるの」


 思ってもいない評価に驚く。クラウディアに言われると悪い気はしない。緩みそうになる頬を隠すために、口元に手を当て、そっぽを向く。


「しかし、あの人は既に退学しているのですよね」

「ええ、ですから、頻繁に我が家にいらしてください」


 全く悪くない提案に、拍子抜けする。


「それでしたら」

「本当? ありがとう! では、早速今日これからいらしてください」


 乗せられた。

 早く早く、と急かされて、はぁ、と深い溜め息をついて歩き出す。


「カイン」

「はい」

「大好きです」


(まったく。通り魔だな、この方は……)


 人の気も知らないで、というより、知らないからこそなのだろうが、平気で揺さぶってくる。勿論、まともに取り合う気はないのだが、前振りが無いから防御できない。


「そんなこと、誰にでも言っているんですか?」

「言わないわ。カインだけよ」


 嫌味を放った筈が、返す刀で斬りつけられた。カインは敢え無く敗北を認め、抵抗するのを諦めた。




 

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