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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第三章 真珠姫編
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まだ馬車の中でした

 

 マクスウェル伯爵に怪しい融資話を持ちかけたのがビューラー辺境伯であるのは、案外すぐにわかった。しかし、そこからだ。素破達の動きが悪くなり、終いにはこれ以上は調べられないと口を閉ざされた。こんなことは初めてであったが、「上」……つまり、お兄様かお父様からの指示であろう。

 私に知られたくない、首を突っ込ませたくないと思わせる何かが、ビューラー辺境伯にはある。しかし、家に仕える影の者は使えない。ならば、と、真っ先に思い付いたのはラルフであった。機動力があり、諜報活動向きのコミュニケーション能力があり、多少危ない目に遭ったとしてもどうにかできる戦闘能力も持っている。それに、隠しているようだが、案外、政治向きの話もできる。と言うわけで、ラルフにビューラー辺境伯のことを話すと、やはり、と言うべきだろう、既にある程度の調べがついていた。その中で、ラルフには掴めて、私には掴めなかった情報が一つ。ビューラー辺境伯には妹が二人おり、嫁いで王都にいる。その一人の妹の嫁ぎ先の邸にはレオンが、もう一人の妹の嫁ぎ先の邸にはアンジェリカが下宿していると言うのである。

 通常、王都から遠くに領地を持つ貴族などは、学園入学にあたり子息子女を学園の寮に入れるか、王都にいる親族を頼る。ゲーム内のアンジェリカも寮に入っていた。更に、ゲーム内では、攻略対象者であったレオンとヒロインの間に、縁戚関係などという特別なものはなかった。

 すぐに、これだ、と思い当たり、クレイス男爵家とビューラー辺境伯の関係を調べてくれるよう依頼したのだが、翌日には、「デビュタントボールでのアンジェリカの失態を恥じて、クレイス男爵がなけなしの縁戚関係を当てにして、ビューラー家に娘を預けた。それだけ」という報告を持ち込み、ラルフは調査を終了してしまった。

 その上、クリス王子、お兄様が、それぞれやんわりアンジェリカに近付くなと釘を刺してきた。


 怪しい。私がアンジェリカを調べるのはわかる。しかし、なぜ、三人がアンジェリカを調べたり、近付くななんて言うの?

 これはいよいよ何かあると踏んだが、調べる手立てが無い。と、なれば、虎穴に入って情報収集するか、餌を撒いて待つしかないじゃない?

 

 そんな経緯で、カインと二人、レオンに会いに行った。成果は上々。


 レオンの怪我の経緯や程度は、学園では情報が得られなかった。授業をサボっている間の事故か何かで、何があったのか生徒は誰も知らず、教師たちは口を結んだ。まさか、あんなに酷い怪我だと思わなかったが、それで納得した。

 カインが言ったように、たぶん、真珠の養殖事業は、将来を見失って打ちひしがれていたレオンに対してビューラー辺境伯が与えようとした新しい展望だったのであろう。しかし、それはおかしくないか?

 ビューラー家と我がギョー家は、政敵の立場にある。事業を潰してギョー家の力を弱めようとする意図があると言われた方が分かりやすい。しかし、潰す予定の事業で息子の経歴を汚すなど考えられない。本気で事業を成功させるつもりなのだとしたら、寧ろ、それを介してギョー家に近寄る意図があったと読むべきだろう。


 何のために?


 レオンと私の関係(そんなものは何も無いけれど)について、ビューラー辺境伯が知っていたかどうかは分からない。所詮、遠く、王都の学園内の噂の一つに過ぎない。いや、寧ろ、知らなかったであろう。知っていて、ギョー家に近寄りたいのなら、利用したはずだ。


 まだ、ピースが足りない。アンジェリカのことも含めて。


 うーん、と顎に手を当て考え込んで、ふと、向かいに座る相手の膝に気付く。


「あ! 申し訳ありません。勝手に黙り込んでしまって。退屈させました」


 まだ馬車の中であった。カインの存在を忘れていたことに焦って顔を上げると、案外近くでこちらを見ていた黒曜石の瞳とかち合う。あれ、さっきまで斜め向かいに座っていたと思っていたのだけれど……


「いいえ。私は見ておりますし、十分楽しいので、居ないものと思って考え事の続きをなさってください」


 見ていた? 楽しいの? 無感情に言われて戸惑う。カインって、よくわからない。


「そろそろ寮に着きます。送っていただいてありがとうございました」


 学園の寮に着くと、さっさと降りて、振り返りもせず去って行く。その素っ気なさを「いいな」と思ったのは、たぶん、少し前まで、レオンっていうベタついた男と話していたせいだ。





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