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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第三章 真珠姫編
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まさかの繋がり

 

 数日後、私は意外な場所にいた。館の執事に通された部屋で、カインと二人、()()()の到着を待った。


「クラウディア! まさかあなたが見舞いにきてくださるとは思いもよりませんでした」


 学園で見なくなってもう長いからか、ドアを開けて入ってきたレオンは思いのほか元気そうであった。


「私も、あなたを訪ねることになるとは思ってもいませんでした」

「いつぞやのご無礼を許していただけたのでしょうか」

「ええ。そうね。もう、噂は消えましたし。でも、学園に復帰なさっても私に話しかけないでくださいね。……お怪我をなさったと聞きましたが」

「もう、殆ど治っているのですよ。丈夫が取り柄で。ただ、以前のようにはいかないようです」

「その、包帯の巻かれた指ですの?」

「ええ。それと、肩を少々。剣術で身を立てる道は絶たれました」


 言葉を失くす。そんなに酷い怪我だとは知らなかった。レオンはいずれ近衛騎士団の団長となる設定だったので、大した怪我ではないと思い込んでいた。


「そのような悲しげな顔をなさらなくても大丈夫ですよ。私は、次男ですが、家は手広く商売をしておりますし、父が最近また新しい事業に乗り出すと話しておりましたので、いずれはそちらを任せてもらえるようです」

「その新しい事業から、手を引いていただきたいのです」


 カインが切り込む。


「クラウディア、こちらは?」

「ご紹介が遅れました。こちらは、カイン・マクスウェル様です」


 ああ、とレオンが納得気に頷く。


「マキシ湖の事業の前任者、マクスウェル伯爵家の……」

「現、経営者です」


 カインの返答にレオンが首を捻る。


「どうやら、父から聞いている話と違うようだ」

「あなたの父君は、私の父に融資の話を持ち掛けて、マキシ湖での事業の権利を奪い取ろうとしておられます。たぶん、あなたのために」

「この事業は、我がギョー家の融資の元でマクスウェル伯爵家が進めてきたものなの。とても時間をかけて、やっと商売として成り立つところまできた。そこで働く領民たちも、マクスウェル伯爵との信頼関係があってこそ共に頑張ってくれたの。どうか、奪わないで」


 顎に手を当て、険しい顔で俯き黙り込んでいたレオンであったが、ふと顔を上げると、白い歯を見せ、気持ち良い笑顔をこちらに向けた。


「父に掛け合います。クラウディアには大変な迷惑をお掛けしましたから。これで償わせてください」

「ありがとうございます。ところで、アンジェリカはお元気なのかしら? このところ休みがちのようで心配しているのです」

「アンジェリカをご存知でしたか。あれは遠縁の娘で……。ここは叔母の嫁ぎ先ですが、こちらとは別の叔母の邸で世話しているのですよ」

「そうなのですね。似ていらっしゃらないから、お二人が縁戚関係とは思いも寄りませんでしたわ」

「可愛らしい娘ですよね。確かに、俺のようなゴツい男とはどこも似ていないが、血の繋がりは無いのでね。確か、あの娘の父親の前妻が、俺の母の従姉妹とか言っていたかな」

「まぁ。それでは似ていたら逆に不思議ですわね。最初は寮に入る予定だったとお聞きしましたが」

「ええ。事情はよく知りませんが、あちらは新興貴族で母君も貴族の出ではないとのことで、『一度、貴族の婦人のある家で行儀見習いを』という話になったようです」

「それは良いですね」


 終始和やかに進んだ会談の帰り道、馬車内でカインと話す。


「どう出るかしら」

「あなたに嫌われたくないらしいので、本気で止めるんじゃないですか?」

「嫌われたくない? そうかしら。もう忘れてるんじゃない?」

「本気ですか? 無自覚というか、無防備にも程がありませんか。あの方、全然あなたを諦めていませんよ」

「そうなのですか?」

「物凄く睨まれましたし。……ちらちらそちらを見ていたし。あなたは男装しているくらいが丁度良いですね」


 そう言えば、女子の制服に戻してから会ったのは初めてだったけれど、しかし、見ていた? 何を?

 なんのことやら分からずきょとんとする私に、溜め息混じりにカインが「もういいです。ラルフ様たちも大変だな」と呟き、頭をポンポンしてきた。


「あ、すいません。妹のつもりで、つい」

「いいえ。まだ小さい双子の妹さんたちがいらっしゃるのでしたね。お元気ですか?」


 カインとこんな風に話せる日が来ると思っていなかっただけに、嬉しさは大きい。頬が緩む。


「また、そんな顔をする……」

「カインと当たり前に話せるのが嬉しいんです」


 その言葉を聞いたカインが、ふと、神妙な面持ちになって姿勢を正す。


「あなたに謝罪しなければと、ずっと思っていました。幼い頃のことですが……何度も足を運んでいただいたのに、謝罪を受け入れず、まともに顔を合わせることもせずここまで来てしまい、申し訳無く思っています」


 深々と頭を下げられ、怯む。


「いいえ。私が悪いのです。そうされて当然の行いをしたのですから。幼かったとはいえ、人の尊厳を踏みにじるような振る舞いをしました。あの頃の私に酷い目に遭わされた方たちが、皆、本心から許して下さっているとは思っていません。……だからこそ、悪い噂など流されるのだとも思います」

「確かにそれはあるかもしれませんが」

「やっぱり、そうですよね」


 カインって、正直と言うか歯に衣着せないというか……。しかし、裏を読む必要が無いので楽だ。


「皆も、あなた同様大人になっていますから、子供の頃に縛られたままではないですよ。私もそうです。子供の頃のあなたの振る舞いは本当に酷いものでしたが、その後の謝罪は本心だったとわかっていますし、とうに許してもいます。犬は嫌いになりましたけど」

「あわわわわ。本当にごめんなさい!」


 カインがくすくす笑う。笑った顔を見るのは初めてだ。


「冗談です。犬はもともと好きじゃなかった」

「カインって、冗談を言うんですね」


 過去の件についてのカインの本音がやっと聞けて、安堵から笑みが零れる。そうしながら、頭の中では先程レオンから仕入れた情報を整理していた。

 なぜか我が家の素破達が調査を辞退し、お兄様もクリス王子も、ラルフにさえ「関わるな」と口を揃えて止められたアンジェリカに関する情報を。


 

 

  

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