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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第三章 真珠姫編
39/109

二人の転生者

 

 冷たく言い放たれた「出て行って」の言葉に、素直に従った。その語気に怯んだのは、アンジェリカの闇が、私の想像など及ばないほどに深いと知ったから。


 どうしてそこまで私が憎まれるのか、本当のところは、本人でなければわからないけれど、何となく、ほんの入り口程度は理解できる。

 『同じ転生者なのに』『ズルい』と、彼女は言った。私が転生者であると知ったのは、七歳。既に自分の二つ名が「魔王」である、という問題はあったが、前世の知識を活かせるだけの財力や、周囲の理解には恵まれていた。そもそも、高位貴族の令嬢として、何不自由無く育ったのだ。それだけでも、きっと、彼女にとっては憎むに足る、十分な()()であろう。

 ゲームの設定のままなら、アンジェリカは男爵からの支援も得られず、母と二人、貧しい町娘として過ごしていたはずなのだ。彼女もまた七歳程度で前世の記憶が戻っていたとして、その知識を活かす方法など、無かったのだろう。それより、日々の糧を得る方法を模索するのに、心を砕く必要があったかもしれない。

 アンジェリカはどう生きてきたのだろうかと、実際のところは何も知ろうとしなかったくせに、何も知らずに勝手に怖がっていた自分が恥ずかしい。もっと恥ずかしいのは、アンジェリカを見て、周囲からの悪評を知って、安心していた自分の傲慢さだ。アンジェリカに出し抜かれる危険がないと安堵して、私に対する気持ちを知っていながらクリス王子やラルフを、友達だなどと線を引いた。誰も選ばず、誰も手放さないで済むように……。

 きっと、アンジェリカには見透かされていた。それが物凄く恥ずかしくて、更に、気付かされた自分の醜さに涙が零れた。


 それでも、この点では、私は間違えていない。きっと、アンジェリカは何か問題を抱えている。それは確かだ。でなければ、折角、前世の知識が活かせる場に出たのに、おかしな行動ばかり取るはずがない。

 絶対、助ける。嫌がられようと、見過ごせない。目の前に困った人がいて、それを助けられるだけの力が悪役令嬢()にはあるのだから。


「どうしたんですか?」


 医務室のドアの前で立ち竦んでいると、いつの間にか、カインがそばにいた。


「校医の先生、呼んできましたよ。もう来ます」

「ありがとうございます。急いでくださったのですか? 早かったですね」

「使ってください」


 惰性の会話を遮るように、ハンカチを差し出される。決意したつもりで、涙腺だけは壊れた蛇口みたいにだらだらと涙を漏らし続けていて、それが止まらないものだから、自分でも焦る。


「わわ。ごめんなさい。お借りします。ごめんなさい。本当に。泣いたりして、ごめんなさい。ごめんなさい……」


 クリス王子ごめんなさい。ラルフごめんなさい。アンジェリカごめんなさい。謝りながら、どんどん惨めになって、わんわん泣いた。わんわん泣いて、ふと、何の反応もないと気付いて顔を上げると、無感情な目とぶつかった。


「謝らなくて大丈夫です。私が泣かせた訳ではないので、何とも思ってませんから」


 何も言わずに待ってくれた優しさと、あまりに素っ気ない物言いに、気が抜けた。


「本当に、その通りね」


 借りたハンカチで涙を拭いながら、思わず笑いが込み上げる。私なんかが泣いたところで心に波風立たない、との内容を易々と言い放ったカインが、小気味良かった 。


「怪我人は!?」


 そこへのんびり現れた校医の先生が、涙に濡れる私を見て焦ったのか、大急ぎで医務室に駆け込んで行った。そして、その足で戻ってくる。


「えっと、……怪我人は?」

「え?」


 言われて、慌てて医務室のドアを開けると、そこには既に誰もおらず、ただ、開いた窓に吸い込まれるようにカーテンが揺らめいていた。




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[気になる点] [こじらせ悪役令嬢は美貌を隠して無自覚に無双する] ーーー私に対しての気持ちを知っていながらクリス王子やラルフを友達だなどと線を引いた タイトルが“無自覚に無双する”なのに主人公が…
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