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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第三章 真珠姫編
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五人の昼食


 呆然と見つめていると、不意にカインが立ち上がり、食事中の自分のトレイを持って真っ直ぐこちらに向かって歩いてきた。元のテーブルに残されたアンジェリカが呆然としている。


「ご一緒してもよろしいでしょうか」

「はい?! どうぞ」


 思わず声が裏返った。円テーブルの空いたスペースにトレイを置き、椅子を持ってきて座る青年を、無言で見つめる。超展開に頭がついていかない。なにしろ、この、カイン・マクスウェルときたら、真珠の養殖事業で子供の頃から顔を合わせる機会も少なくなかったのに、挨拶以外で声を聞いたことが無い。魔王クラウディアが虐めた事を根に持っているのかいないのか、確認できないほど無愛想なのである。


「カイン、今度勉強教えてよ。この二人だと、勝手に競争し始めちゃうからさぁ、全然教えるの下手なんだもん」

「ラルフ様にですか。わかるように教えるのキツいです」

「キツいのはカインの性格だよぉ」


 流石にコミュニケーション能力の高いラルフ。突然の乱入者にも普通に話しかける。


「こちらはこの国の王太子殿下です。クリス様は初めてでしょうか。こちら、マクスウェル伯爵家のカイン様。事業の関係で昔から付き合いがあるのです」

「名は聞き知っている。先日の学力試験で一年の主席であったな」

「そう。私のクラウディアより十五点も多く取ってね」

「私、とっても悔しかったのですけど。(えぐ)らないでいただけます?」


 幼少より、読み漁った本の知識と前世の知識とで、割と神童扱いされることが多かったわけだが、ここにきて抜かされた。しかも、ずっと知っていたカインに。犬に吠え立てられてお漏らししていたカインに。まぁ、犬をけしかけたのは私な訳だけれど。それが余計に辛い。敗北感。ちょっと泣いて良い?


「珍しいですね。カイン様が話し掛けてくださるなんて。ちょっと嫌われているのかと思っていました」


 そわそわして尋ねる。


「そんなことないですよ。あと、『様』は要りません」

「はい。えーと、カイン。アンジェリカさんは放っておいて良いのですか? というか、こちらを睨んでおいでで、心臓に悪いのですが」


 私に言われて振り返り、さっきまで自分の居た席をチラリと見る。


「別に良いんじゃないですか? 特別な用事も無いようでしたよ」

「うわぁ……」


 箸にも棒にもかからないと言った様子に、聞いた四人の声が揃う。


「それより、真珠の事業に関して、少々ご相談したいことがあったのですが」

「はい。どういたしました? マキシ湖での養殖は軌道に乗った筈ですが。問題でも?」


 仕事に関してとなると、一気に背筋が伸びる。


「養殖自体は問題ありません。問題は、我が父の経営能力の方です」

「何かやらかしたのか?」

「ルイス様もご存知の通り、我が父は別荘地経営を失敗して多額の負債を抱えた過去がございます。商売下手なのです。そして、今、ギョー家が差し伸べてくださった救いの手を無駄にしようとしています」

「どういうことですか? 詳しく教えてください」

「……ちょっと待って。その話、放課後にしよ? ご飯は楽しく美味しく食べようよぉ」


 ラルフの一言で、緊張していた空気が緩んだ。


「それもそうね」

「後ほどゆっくり聞こう」

「すみません。空気読めなくて」

「面白そうな話だな。私も混ざって良いか?」


 ……というわけで、その後は五人で和気あいあいとランチを楽しみ、ふと思い出して確認すると、既にアンジェリカは食堂から姿を消していた。



 

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