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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第二章 デビュタント編
33/109

クレイル男爵家令嬢アンジェリカ


 クリス王子が盾になるよう私の前へ出る。いや、大丈夫ですよ?!


「ミザリー様、お待ちになって。このドレスは、きっと何か事情がおありなのよ。転んだのは事故!……ですわよね?」


 王子の横をすり抜け、アンジェリカに駆け寄る。


 ツーン


 そっぽ向かれた。結構傷付く。そして、ミザリーが再びキレそうになっている。


「ミザリー様、私を庇ってくださる友情に感謝いたします」


 と、両手をがっしり握って、これ以上アンジェリカに詰め寄らないようガードする。


「いいえ、庇うなんて。それが一番必要な時に出来なかった私ですもの。感謝など勿体ない……」

「私が、転んで脚を晒してしまうという失態を犯し、何をしても裏目に出て、空回りしているときにも、噂に流されず信用してくださったミザリー様ですもの。私、その優しさに……本当に……救われました」

「クラウディア様……」


 自分の言葉に思わず感極まって涙ぐむと、ミザリーもつられて涙声になった。突然始まった青春劇場を会場中が見守る中、ミザリーと手をしっかと握り合っていたが、はたと気付いて横目でちらりと、まだ倒れたままジッと一方向を見つめるアンジェリカを確認した。その視線の先を見て、状況を理解する。彼女が熱っぽく見つめる先には、彼女の攻略対象者であり、最初に救いの手を差し伸べる予定のお兄様が、ちょうどこちらに向かって歩いてくるところであった。


「この美しい方は、どちらの令嬢ですか?」


 アンジェリカの手を取りながら、令嬢達の名を会場に告げる名簿係に尋ねた。言われて、はっと我に返った名簿係が、慌てて、会場中に響く声でその名を告げる。


「クレイル男爵家令嬢、アンジェリカ様!」


 お兄様の手を取って立ち上がったアンジェリカは、ただお兄様の瞳だけを、頬を染めて見つめている。


「クラウディア、予備のドレスを持ち込んでいなかったか?」

「はい。控えの間の侍女に渡してあります」


 ひとつ頷き、アンジェリカの背に手を回して去っていく。その一瞬、王子に視線を送ったように感じた。

 皆の視線を浴びて去る二人を見送った後、王子が口火を切る。


「令嬢も事故から立ち直り、じきに戻るはずです。会を続けましょう」


 その言葉で、漸く、舞踏会が動き出した。デビュタントたちの中には不満顔の者も多くいたが、最初のダンスが始まる頃には、折角の場をこれ以上台無しにしてはいけないという義務感からか、何とか気持ちを立て直したようだった。

 婚約者のあるデビュタントたちが男性と手を取り合って踊るのを、王子の隣で見る。本来なら、ここで王子と踊っていたのか……。いや、アンジェリカに王子を奪われていたのか……。しかし、今の私がアンジェリカを罵倒することなどするわけもないし、罵倒されなかったアンジェリカは、どうしていただろう……。


 あれは、絶対に転生者だ。自分でスカート切るなんて、その後でドレスを変えることになると知らなければ、できる訳がない。


 ならば、悪役令嬢()も転生者で、自分を罵倒してこないという可能性に気付いていたはずだ。罵倒されなければ、王子が自分にダンスを申し込む事もない……。いや、そもそも、彼女の行動で進行が変わったからか、最初の曲が始まっても彼女は戻ってきていない。

 何を狙っていたのか。アンジェリカの出そうとしていた一手が、わからない。


 あれこれ思案しながらも、あまりにも想像とかけ離れたヒロインの存在に、呆気にとられて考えがまとまらなかった。もし、転生者で、気さくな人だったら、懐かしい「日本」の話ができるかも、なんて思っている部分がなかったでもない。そんな淡い期待が破られたことが、少し悲しかった。


「今日のクラウディアは、正に真珠姫だね。後でオレとも踊ってくださいねぇ。いっそ、今でも良いですけど」


 いつの間にか王子と逆側の隣に来ていたラルフが、耳元で囁く。


「わわっ! 近いです! 冗談は止めて下さい」

「ねぇ、クラウディアはあの令嬢のこと、以前から知ってたの?」

「え?」

「だって、一生懸命庇ってたし。知り合いかなぁって」

「ああ、いえ、えっと。なんだか既視感と言うか、私のような噂を流されたら可哀想かなと思ったのです。学園では見かけませんでしたし、私の噂は知らないと思ったので……。ミザリーさんの言うような意図があったとは思えなくて」


 ラルフが私の顔を覗き込んでクスクス笑う。


「優しいなぁ。真珠姫は」

「私の真珠姫! では、ないのだよな……。ラルフめ」

「悔しいですか? じゃぁ、もっと頑張ってくださいね」


 私を挟んで二人がイチャついている。レオンがいなくなってから、また王子のそばに居ることも多くなったらしいラルフであるが、子供の頃とは関係が相当違っているらしく、対等とまでは言わないが、お互いに大分遠慮が無い。しかし、相変わらず仲の良い王子とラルフにほっこりする。


 その後も、他の男性にダンスに誘われたり、他の男性と踊っている最中に口元を見ていたことを王子に指摘されたり、ラルフが王子の細かさを笑ったりするのを見たり、他の令嬢と会話を楽しんだりしながら過ごした。そうしながら、時々、大広間の扉に目をやって、その人が現れるのを待っていたのだが。


 しかし、この日、お兄様とアンジェリカが、会場に戻ってくることはなかった。





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