真打ち登場
ホールに入っていくのは地位の低い家の娘からで、今回のデビュタントで最も地位の高い家の娘、最後に登場するのが公爵家令嬢である私だ。
もしも、私がもっと早くに登場したなら、隣に王太子殿下がいることは、とても意味深であったろう。だが、最後に登場する娘のエスコートとなると、あまり違和感がなかったらしい。王太子殿下の登場より、王太子殿下にエスコートされて最後に登場した私のドレスに注目が集まっていた。
クリス様にエスコートを申し込まれ、開き直ったあの日、「王子にエスコートされてトリを務める……? それって、凄く注目浴びるんじゃない? これ、自分で真珠のPRすれば良いんじゃない?」と気付いた。そこから、急いで、使える真珠の在庫を調べ、デザイナーを呼んで、二人で頭を捻り、このドレスを作った。
目論見通り!
皆の目がドレス……というか、真珠に集まっている。これで、皆の中で私と真珠が結びついたことであろう。今日はその程度で良い。
考えたのだが、やはり、真珠を美しく纏ってくれる一番の人は、アンジェリカなのだ。なぜなら、このゲームの中で一番の美女は、ヒロインである彼女なのだもの。私が好んでこのゲームをしていたのは、ヒロインのビジュアルが本気で可愛かったからなのだ。事業を成功させる鍵は、アンジェリカだ。
……そんな彼女だからこそ、私は全く勝てる気がしないわけだけれど。
クリス様の表情を見ていれば、恋愛経験ゼロの私にだって、なんとなくわかる。クリス様は今、私を好ましく思ってくれているのだろう。でも、それも残り数刻。
今だけの眼差しを受けながら、神妙にその時を待つ。
……カッ カッ カッ カッ カッ バタン!
ヒールを鳴らして駆けてくる足音が近付き、勢い良く大広間のドアが開かれる。目の覚めるような煌びやかな真っ青のドレス。ふんわりと巻かれたストロベリーブロンドの髪。
ルール破りとマナー違反に皆が絶句する中、アンジェリカが高圧的にヒールを鳴らし、こちらに向かって歩いてくる。
え、こっちに?!
十分近付き一瞬目が合うと、アンジェリカが口角を少し上げて笑った。ああ、やっぱり可愛い、と思った瞬間……
ビッターン!
アンジェリカが転んだ。というか、自分から床に転がった。更に、
「痛ぁい……」
ドレスのスカートが破けて脚丸出しになった?! ってゆか、それ、最初から自分で切れ込み入れといたんだよね?! 破れた音なんてしなかったぞ?!
「きゃぁっ! 恥ずかしい!」
投げ出された脚を艶っぽく撫でた後、漸く気付いた体で、必死に両手で膝を隠す。いや、絶対演技だけれども。
呆気に取られて身動ぎ出来ずにいると、横をすり抜けて一人の令嬢がアンジェリカに歩み寄った。
あ、と思った瞬間、目当ての場所に到達したミザリー嬢は、スッとしゃがみ込んで……
バッシーン!!!
「ミザリーさん?!」
アンジェリカの頬に思いっきりビンタをかました後、頬に手を当て呆然とする彼女を尻目に立ち上がり、冷ややかに見下ろす。
「あなた、クラウディアさんを愚弄なさるおつもり!? 衛兵、早く捕らえなさい。デビュタントのルールを知らぬとは、この席にあってはならぬ者に違いありません! 狼藉者です!」
その顔には、見たこともない厳しさ(というか、憎しみ?)が浮かんでいて、見ているこちらの背筋が凍った。
え、何、もしかして、
悪役令嬢、こっちーーー!?!?