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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第二章 デビュタント編
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ミザリー・ハスラーの決意【ハスラー侯爵令嬢(取り巻き令嬢)視点】


 デビュタントボールまで数週間というこの日、兼ねてより企画されていたナイトガウンパーティーがクラウディア様のギョー公爵家で実現された。五人の令嬢が邸へお邪魔させてもらい、皆でワイワイとドレスのデザイン画など広げる。


「まぁ、ミザリーさんのドレス、もしかしてマダムポンヌフのデザインではなくて?」

「素敵。この袖の形、憧れてましたの」

「この肩の空き方なら、髪はおろした方が華やかですわね」

「……あの、わたくし、薔薇の砂糖漬けを持ってきましたの」

「まぁ、きれい!」

「寝着でお菓子を摘まむなんて、お行儀が悪く無い?」

「良いじゃない。今は私たちだけしか居ないわ。それに、お行儀悪って、楽しい!」


 などと、好き勝手言い合って楽しむ。普段は見せることなどない、寝着姿というのが、余計に気持ちを高揚させてくれる。クラウディア様は、時々こんな風に、誰も思いもつかないような提案で皆を楽しませてくれる。

 砂糖菓子を摘まみ、少し静かになったタイミングで、クラウディア様が切り出した。


「あの……。皆さま、よくこんな評判の悪い私などとお付き合いくださいますね」


「えーと?」

「そうですわね。クラウディア様が噂通りの方なら、とても酷いですわね。私、ここには居られませんわ」


 ズバッと言い切ると、クラウディア様は明らかに落ち込んだ様子で肩を落とす。この方は、見た目の冷ややかさ、大胆さと違って、とても繊細なのだ。


「でも、違いますもの。あんな噂、一部の品性が下劣な男性が喜んで口にしているだけで、クラウディア様を見ていれば、そんな方でないのはわかります」

「そうですわ。寧ろ、クラウディア様の噂を信じてる男性の方に、『ああ、この人はそういう女性がお好きなのだな』とがっかり致しました」


 「皆さん……」と、言ったきり言葉に詰まり涙ぐむクラウディア様は、幼い少女のようで本当に可愛らしい。しかし、この方はこんな姿を、ここでしか見せないのだ。もしも噂通りの手練れた女なら、男性達の前でこそ、こんな様子を曝して媚びようとするだろう。きっと効果抜群だ。

 商売や領地経営などでは幼少より才能を発揮され、多方面で実績を上げる才女との噂を、学園入学前から聞かされてきた。冷たい美女との噂もあって、どんなに恐ろしげな方なのだろう、見下され、嫌われるのではないかとドキドキしていたら、確かに儚げで可憐で大層お美しいのだけれど、大分砕けたファッションセンスの方で拍子抜けした。その上、入学早々おかしな噂を流され、不器用なやり方で乗り越えようとなさり、迷走なさっておいでで、見ているこっちが心配になり、気負っていたものがすっかり抜け落ちてしまった。


「でも、なぜ、私を信用してくださるのですか?」


 クラウディア様の問いに、皆が顔を見合わせる。


「だって」

「ねえ」

「クラウディア様、男性慣れしてないんですもの」


「え!?」


 とても意外そうな顔をしている。自覚が無かったらしい。


「気心の知れた方は別のようですが、クラウディア様……基本的に男性に話しかけられると挙動不審になりますし」

「男性と目を合わせませんし」

「表情ひきつりますし」

「たまにドモりますし」

「婚約者のある他の……マリエッタさんとか……の方がずっと男性慣れしてますわよね」

「ああ、マリエッタさんねぇ……」

「わかりますわぁ。でも、男性はわからないのですよね。あれを天然と思っているとか……」

「私、クラウディア様の噂を流して喜んでいる男性と、マリエッタさんにデレデレしている男性からは、エスコートを申し込まれてもお断りしようって決めておりました」

「わかります!」


 皆のやり取りを聞いたクラウディア様がますます驚きの表情で、口をぽかんと開けている。本当に可愛らしい方。この、少女のように純粋で美しい方が、私達は大好きなのだ。




  ◇  ◇  ◇




 公爵家の料理長はこの上なく素晴らしい腕前で社交界デビュー前の私達を一人前のレディとしてもてなしてくれたし、公爵家の客用寝室は一部屋が驚くほど広くて、ベッドなど六人が一緒に寝られるほどであった。家族の肖像画の中には、異国のドレスを着たクラウディア様そっくりの女性がいて、どなたかを尋ねると「祖母が嫁いでくる前の肖像画です」と返ってきたのだが、よくよく聞くと隣国の前国王の妹君という本物のプリンセスで、皆で腰を抜かした。

 そんなこんなで、この上なく楽しい、夢のような時間を過ごして帰ると、昨夜は我が邸に泊まっていただいていたルイス様が、丁度帰るところであった。


「追い出してしまい申し訳ありませんでした。御不自由はありませんでしたか?」

「大丈夫ですよ。そちらは楽しまれましたか?」

「ええ、とっても!」

「妹は時々無茶な提案をして周囲を振り回すので。ミザリー嬢も、迷惑な時はそう言ってやってください」

「いいえ。皆、クラウディア様の楽しい企画に乗っかって、楽しませていただいていますわ。それより、ルイス様を巻き込んでしまった事に気が引けます」

「こちらはこちらで、兄君と一緒にみっちりと、勉強漬けの充実した夜を過ごせました」

「まあ、それでお兄様は出て来られないのですね」


 部屋で頭をパンクさせ伸びている兄を想像して、くすくす笑う。クラスメイトとはいえ、ルイス様とでは頭の出来が違うのだ。


「……クラウディア様は、何か吹っ切れたようですね」


 私の言葉に、ルイス様が驚いた顔をする。


「クラウディアは良いお友達を持ったようですね。……これからもあの子を宜しくお願いいたします」


 頭を下げられ、恐縮してしまう。


「そんな。頭を上げて下さい!」

「あの子は、ずっと、何かに怯えて迷っているのですよ。幼い頃に一度だけ、悩みの端に触れたように思うのですが、それきりその事では心を閉ざして、助けを拒むようになってしまったので……。私には、あの子を怯えさせるものの正体が、わからないんです」


 何となくわかる気がする。頼ってくれたなら解決できたかもしれないものを、一人で背負い込んで周囲の助けを拒絶してしまうから、こちらも手が出せず、見守るしかなくなってしまう。そんな面倒臭さもまた、クラウディア様の魅力ではあるのだけれど。兄君としては、頼ってもらえないのはお辛いのであろう。


「ご安心なさってください。私だけじゃありません。今や、クラウディア様を思う者は大勢います。クラウディア様を陥れようとする何者が現れようとも、もう決して以前のようにはさせませんわ」


 そう、()()()()()()()()()




次回、漸く舞踏会。漸くヒロイン登場です。長かった。

 

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