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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第二章 デビュタント編
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シナリオのその先


 何でそんなに人目を気にするのだろう。悪名高い私と一緒に居るのを見られるのは、不都合ということだろうか。なら、声なんてかけなきゃ良いのに。


 と、卑屈な思いで苛つき、それでも、公的でなく声をかけられたことが懐かしく嬉しいと感じてしまう自分にも苛ついた。

 閉めたドアを背に、もたれかかったまま、王子の胸元で視線を止める。怒りからか、二人で居る気恥ずかしさからか、顔を見ることができない。掴まれたままの手首が熱くて悔しい。早く離してくれないかな、と、そのことでも苛々した。


「あなたに謝らなければいけないことが多過ぎて。どこから、何から、話せば良いのか今も迷っています」


 絞り出すように言われて、何を言いたいのかわからず、眉をひそめる。


()()()、あなたを危険な目に遭わせたこと。その後、つまらない嫉妬心とバツが悪いという子供っぽい理由で、傷ついている筈のあなたに追い討ちをかけたこと。それを謝罪もせず長きに亘って疎遠にしたこと」

「子供っぽいのは仕方ありません。事実、子供でした」


 そう、それはもう良い。私が腑に落ちないのは、なぜレオンを止めてくれなかったのかってこと。王子が一言「止めろ」と、「行くな」と言えば、おかしな噂が広がることも、私が不快な目に遭わされることもなかったのに。しかし、それは私都合の理屈なのだ。王子にとって、私はもう関係の無い人間であり、王子に守ってもらう謂われなど無いのだ。……それを突き付けられ、実感するのが辛かった。まだ王子に憶えてもらえていると自惚れる自分を、知られてしまうのが恥ずかしかった。


「……あなたに、憧れています。子供の頃から、ずっと」


 てっきり、レオンに関わる事を謝罪されるものと思っていたので、想定外の言葉に理解が追いつかず戸惑う。


「私は、王太子という立場柄、レールを敷かれることが多かった。レールの上で、できる限り最高のパフォーマンスを行い、結果を出すのが、自分の役割だと思っていた」


 あれ? その台詞に既視感を覚える。次にくるのは……


(しかし今は、あなたがそのレール上に無いのが悲しい)

「しかし私は、あなたがそのレール上に無いのが苦しい」


(あなたが欲しい)

「あなたが欲しい」


 やっぱり。一部の言葉は違ったけれど、それは、王子ルートのクライマックス、遂にクラウディアの魔性から解き放たれた王子が、アンジェリカに向かって言う台詞。どうして私に?


 こちらの怪訝そうな表情に気付いたのか、王子が一瞬怯んだ様子を見せた。が、すぐにクッと決意の宿った表情になり、続ける。


「クラウディア、私にあなたの人生をくださいませんか。あなたを、守っても良い立場になりたい」


 私の手首を掴む王子の手が、微かに震えている。気になっていた手首の熱は、実は私でなく王子のものだと漸く気付いた。

 そうか、と理解する。王子は王子で、守らなくてはいけないものが、他にあったのだ。総合的に考えて、私だけを選ぶわけにいかなかったのかもしれない。


「クリス様……」


 握っていた手首を離し、手を取って、王子が跪く。


「どうか、デビュタントのエスコートを、私にさせてください」


 え、エスコート? せっかく外れた筈のシナリオに戻った!? でもさっき、この段階で出るにはおかしな台詞も吐いてたよね……?

 ちょっと意味が分からない。そして、これは今すぐ返事しなくてはいけないのだろうか、とパニックになったところで、王子が立ち上がる。


「返事は早めにお願いします。もう、待つのも待たせるのも嫌なんです。……ぁ。待っていなかったかもしれませんが」

「! 待っていました!」


 最後の部分が、何だか捨てられた子犬のようで、可哀想で、思わず勢いで否定してしまった。


「そうなのですか?」

「あ、はい、えっと、まぁ……そうです」

「では、受諾していただけるのですね」

「はい。えっ?」

「エスコートの申し入れを受けていただき、光栄至極です。では、詳細は後程」


 ぱっと明るい表情になった王子が、私の背後に手を回してドアを開け、軽い足取りで世界史準備室を出て行く。子犬のようだなぁ……とぼんやり思いながら、展開の速さに全くついて行けてない頭をなんとか働かせ、その場に立ち尽くして考える。


 全て、幼い日のあの事件から変わった気がする。ゲーム内に、そんな設定は無かった。きっとあれは、本来起こるはずでない、イレギュラーなイベントだったのだ。

 事件は、王子にとって大きな挫折であっただろう。ゲーム内では、アンジェリカと出会いクラウディアの悪行を知ることで初めての大きな挫折をする。あの事件を経て、その後の色々な葛藤を一人で勝手にクリアし、勝手に精神性がエンディング近くまで到達した?


 その場で頭を抱え、思案して、気付いた。


「アンジェリカと話そう。それまで、あれこれ考えるのは止め。無意味」


 長い長い迷い道から漸く抜け出し、晴れ晴れとした気持ちで廊下を歩き出した。




 

 

もやもや展開長くてすみません。あと一話挟んで舞踏会です。

 

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