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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第二章 デビュタント編
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キャッキャウフフ最高!


 ラルフが帰って来るのと入れ違うようにレオンが顔を見せなくなったのが、ひと月程前。聞くところによると怪我で自宅療養中なのだとか。レオンという当事者の一人が消えたからか、たんに、入学直後の浮ついた状態を抜けたからか、私に関する良くない噂はあっと言う間に下火になった。事実、デビュタントボールを意識し出す時期に入っているのは確かで、皆、自分のことで忙しいのだ。

 男除けの男子の制服も、今ではすっかり周囲が馴染んだ。そしてやたらと女子にモテるようになったわけだが、ここにきて、思ってたんと違うスイッチが入った。いや、百合的なやつじゃなくて。


「リリアンヌさん、上級生にエスコートを申し込まれたんですって」

「羨ましい。私もどなたかに申し込まれたい」

「どなたか、じゃなくて、あの方に、でしょう?」

「え! 誰ですの?」

「ああ、どんな髪型にしようかしら。アップ? 縦ロール?」

「ドレスのデザインによるんじゃないかしら?」

「婚約者様の好みを聞いてみたらどうかしら?」

「それは駄目よぉ。変な提案されてしまっても、『それはちょっと』なんて言えないじゃない? やるしかなくなるわよ」

「まぁ! このお茶菓子、初めての食感! 外はさっくり……」

「中はしっとり……。歯触りが心地良いですわね」


 会話が飛ぶなぁ。オチが無いなぁ。姦しいなぁ。これぞ女子同士の会話って感じで心地良い。

 今日はミザリーさんのハスラー侯爵邸にクラスメイト数名とお呼ばれして、茶会を楽しんでいる。お一人様慣れしていた前世の記憶を持つ私としては、この女子会の感覚、懐かしいし、めちゃくちゃ楽しい!

 クリスマスとか、毎年、女子だけのクリぼっち会を開催して、毎年同じ面子で集まっていた。二十代前半はまだ身近なリアル男子の話題もあったけれど、二十代後半も深くなると、徐々に芸能人とか二次元の男子の話になるという、駄目なパターンであった。しかし、そんな女子でも数人寄るとキラキラでふわふわで、お酒の力も借りて「もしかして私って充実してるんじゃない?」って錯覚できた。翌日の二日酔いが、現実を現実以上に惨めに実感させるわけだけれど……。

 でも、今目の前にいるのは、フリルとレースとリボンと、男の子と甘いお菓子に一喜一憂できる、本当にキラキラふわふわした砂糖菓子みたいな女の子たち。あれこれ次々興味を持って、次々に可愛いを消費していく女の子たち。三十路の枯れた心を持つ私には眩しすぎて辛い部分もあるけれど、皆が楽しそうだと、何だかつられて楽しくなる。


「クラウディア様のスカート姿、久しぶりですわね」

「男装も素敵ですけれど、やはりドレスがお似合いですわ」


 そうなのだ。今日は女子しか居ないので、遠慮なく女子のお洒落を楽しんでいる。やっぱり、これはこれでとても楽しい。

 デビュタントについても、やはりドレスを着るべきだろうなと今は思っている。アンジェリカは怖いけれど、公爵家の体面もある。それに、ウエディングドレスは嫁ぎ先の礼儀に従うのがルールのこの国で、母から娘への、最後にして最大の仕事がデビュタントのドレス選びなのだ。ドレスを着ないと言ったら、お母様が悲しむ。……まぁ、私の場合、結婚しない、または結婚前に断頭台行きと言う二択しかない訳だけれど。


「ね、みんなで衣装合わせしませんこと?」

「ドレスを持ち寄って? それでは当日の楽しみが半減しますわね」

「じゃぁ、デザイン画を持ち寄って、それぞれのヘアスタイルとか、似合いそうなアクセサリーの意見交換をするのは?」

「素敵! いつにします?」


「あの、それでしたら、パジャマ……えーと、ナイトガウンパーティーにしません?」


 私の言葉に皆の会話が止まる。


「ナイトガウン……パーティー?……ですか?」

「それって?」


「言葉通りの意味です。皆さま、寝着を持ってギョー家の屋敷にお泊まりにいらっしゃいませんか?」


 きゃーーー! と言う、黄色い大絶叫。


「まさかそんな……素敵! でも、良いのかしら!?」

「そうね、失礼じゃないかしら?」


「大丈夫ですよ。お部屋は沢山あるし、いっそ、一番大きな客用寝室に皆で寝るのも楽しそう。うちの家族は私に甘いですから、駄目とは言いませんわ」


 慣れた感覚としては、女友達の部屋で宅飲み、からの雑魚寝なんだけど、パジャマパーティーと言うと一気にキラふわである。乙女ゲー最高。乙女ゲーは恋愛を楽しむのが本来のあるべき姿とな? そんなの知らなーい! である。若干虚しいが。


「……楽しそうですわね」

「私、帰ったら早速お父様からお許しをいただきますわ」

「私も!」

「公爵家にお泊まりですわよ。絶対許していただけますわ」

「でも、ルイス様がいらっしゃるのでは?」

「あ……。男性がいらっしゃるのにお泊まりはできませんわね……」


「では、お兄様にはその日、どこかに行っていていただきましょうか」


 女子たちがギョッとしている。割と男尊女卑が顕著な国なので、女子が楽しむために男の兄弟を家から追い出すという発想は無いらしい。


「よろしいのでしょうか……」

「それは、ルイス様に申し訳ないわ」


「うーん。そうですね。では、それについては少しお兄様に相談してみます」


 ということで、この日はお開きとなったが、私の中では既にパジャマパーティーは決定事項であった。恋愛できないんだから、せめて女子会くらい楽しみたい。それに、他の女の子達にしても、結婚が決まる前の、今しかできないことだ。


 そんなわけで、「皆が恐縮しないやり方でお兄様を追い出すには……」と思案しながら学園の廊下を歩く。と、ふいに後ろから手首を掴まれた。突然のことに驚いて声も出せず、咄嗟に振り払おうとしたが、相手の力が強かった。


「ごめん……なさい。少しだけ話したい」


 振り返って相手を見て、息を飲む。この人にとても腹を立てていた筈なのだけれど、真剣な瞳で懇願され、つい期待してしまう。


「少しだけなら……」


 人目を気にしている様子のクリス王子に促され、目の前の、普段は使われていない世界史準備室に入ってドアを閉めた。




 

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