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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第二章 デビュタント編
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ラルフ・メルティローズの報復・1【特殊(隠密)機動隊初代隊長視点】

 

 赤い口紅が着いたシャツの胸元を、そっと手で隠す。そこにまだ残る、クラウディアの唇の感触が、逃げてしまわないように。

 今さっき触れた柔らかさや軽さ、匂いを反芻し、脳裏と身体に刻み込む作業に没頭しながら暫しニヤついた後、くすりと笑った瞳はもう、冷ややかだった。少し無茶したが、ああやって引っ張れば自分の腕の中に無防備に転がり込んでくるとわかっていた。すぐに離すつもりではあったし、自分のものにはならないとわかっていたけれど、一瞬でも彼女の体温を感じたかった。


「わぁい。役得、役得。番犬万歳」


 歌うように呟く。と、目の前を歩く男子生徒二人組に目を止める。


「なぁ、クラウディア・ギョーの噂聞いた?」


 後ろから肩を叩き、軽い調子で尋ねた。


「レオン先輩とのやつ? 脚見せる関係なんだろ? 凄いよな」


 モブ男子Aが答える。


「え、でも羨ましくね? あの人、凄い美人じゃん」


 モブ男子Bが猛烈に食いつく。


「整いすぎて人間じゃないみたいな造作だよな。あの人の脚とか……ヤバいだろ。俺も見たい! 目に焼き付けてあれこれしたい!」

「確かにな。でも、怖くないか? 社交界デビュー前にそんなことする女とか、聞いたこと無いよ。とって食われそう」

「是非とも食われたい!」

「お前、本気でファンな」


「男子の制服着てるよねぇ?」


「あー。今日な。見た?」

「見た! ヤバいだろ、あれ」

「うん。まぁ、あれはちょっと。俺も、ファンじゃないけどグッときたな」

「乗馬の時くらいしかお目にかかれない、女性のヒップラインが……」

「うんうん。しゃがんだ時とか、後ろを歩いてるときとか、目がいくな」

「正直、前の垢抜けない格好の方が声掛けやすそうだったかも。高嶺の花が、下ってくれてる感じ」

「それな。でも、どんななりでも女性らしさが全然隠れてないって言うか……」

「逆にそこが際立つって言うか……。いや、ほんと、弄んでくんねえかな」


「あはは。レオン先輩じゃない方の噂は?」


「ああ、子供の頃、監禁されて悪戯されたってやつ?」

「え、金目当ての誘拐って聞いたけど」

「監禁されてたらしいよ。見つかったときはボロボロで、何されたかわからないって」

「いや、俺、それ初耳。うわー……」

「王太子殿下との婚約が内定してたらしいけど、それで白紙になったって……」


「それ、ガセだよ」


 静かな殺気を纏った、どこまでも冷たい声。モブ男子Aが「あれ? これ誰だっけ」と気付き、肩という名の()()()()()()()()にポンと置かれた誰とも知らない者の手の存在に、戦慄して表情を無くす。が、すぐに肩は解放され、それと同時に張り詰めた空気は何事もなかったかのように溶け去った。


「ギョー公爵がルイスを使ってわざと流した噂だってさぁ。公爵家って、国家運営(貴族)の人事を司る家格でしょ? なんでも、卒業後の仕事とか、新しい領地の割り振りを決めるために、信用のおけない口の軽い奴を(ふるい)にかける極秘の試験らしいよぉ。怖くない? これ、最新情報」


「うわ。そうなんだ。それマジ怖いわ」

「下っ端貴族は、それやられるとヤバいな」


「最新情報だから、皆、まだあんまり知らないんだよねぇ」


 その後も各学年を巡り、口の軽い奴らを捕まえて同じ話をした。


「さぁてと。種蒔き完了ぉ。次は、取り敢えず、レオンをぶっ殺しに行きますかぁ」


 腕を回してパキパキと肩を鳴らすラルフの背中には、隠しきれない静かな怒りが(たぎ)っていた。





 

※ 次回、血祭り注意 

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