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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第二章 デビュタント編
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騎士の帰還

 

「なぜそのような姿に!?」


 噂を聞きつけたのだろう。一年生の教室までやってきたレオンが私を見て絶叫する。


「脚を見ようという悪漢が後を絶たないからです。どなたかのせいで」


 目を見開いて睨まれ、冷たく言い放たれて、レオンは大きな身体を幾分か小さくして、うなだれる。


「申し訳なかった。どうにも俺は考えなしで。クリス様にも叱られました」

「王太子殿下に?」

「レオン、用が済んだなら行くぞ」


 話をぶったぎるように口を挟み、レオンの首根っこを引っ掴んで去っていくクリス王子の背中を見つめる。が、考えるのを止める。


「あの……。クラウディア様。わたくし、噂なんか信じていませんから」


 レオンを追い返すと、一人の女生徒が話しかけてきた。この顔には前世で見覚えがある。


「突然声をお掛けして申し訳ありません。わたくし、ハスラー侯爵家のミザリーと申します」


 スカートをつまみ、美しい所作でお辞儀をする。ミランダでもミルドレッドでもなく、ミザリーだった。アンジェリカを虐めるクラウディアの取り巻き令嬢である。


「ありがとう。ミザリー嬢、私に関わると貴女まで悪い噂が立つかもしれない」


 気分は宝塚。雰囲気たっぷりに流し目を送り、言葉少なにミザリーに背を向ける。男性にはそんなこと出来ないが、女同士だと下心が無いから逆に何でもできる。背後から聞こえる切ない溜め息が快感だ。

 この格好で登校するのは賭であったが、女生徒の受けは概ね良い。朝から、同級上級問わず何人かの女生徒に声を掛けられた。男性と話すことが出来ないタイプや、毛色の変わったものの好きな女の子が特に興味を持ってくれているようだ。「本当はもっと早くに話しかけたかったのだけれど、とりつく島が無くて」と言う人もいた。男性を遠ざけるための精一杯のダサい装いが、単純に変人アピールと取られていたようだ。……だよなぁ。

 しかし、この格好にしてもレオンが言い寄ってきたら、投げ飛ばしてやろうと思っていたのだが、肩透かしを食ったことは残念だ。七歳のあの日、怖い思いをして帰った後で護身術を身につけようとしたのだが、女性のためのそういったものは、この国にはなかった。仕方なく、前世で子供の頃、親に無理矢理習わされていた柔道を解禁にして、密かに訓練していたのだ。

 先日、遂に実戦に至ったわけだが、女性がそんな行動を取るとは思いもしないからか、この国の戦闘が剣術主体で体術が無いからか、驚くほど簡単に投げられてくれた。そして、女に投げられたなど、恥ずかしくて言いふらすこともできないらしく、未だ周囲にはバレていない。

 まぁしかし、所詮は素人柔道。出来ないと思われているからこその強さだ。レオンなんかで浪費せず、ここぞという時のために温存しておくのが良いだろう。


「クラウディア様!」


 また女子に熱っぽく声を掛けられた。前世から通して初のモテ期だ。……百合だが。

 これを機に真珠を宣伝してくれるモデル探しの方を進めるとしよう。この格好で口説けば、どんな令嬢も落とせそうな気がする。


 話しかけてきた女子に応えようと身体を向けると、その後方から廊下を歩いてきた男子生徒が目に入った。


「あれぇ。物凄く綺麗なひとがいる」


 近付いてきたその姿に心臓が止まりそうになる。身体は細長く伸びたけれど、知っている頃と変わらない燃えるような赤毛に、人懐っこい垂れ目。間延びした話し方も思い出のままだ。


「只今帰りました。クラウディア。敬愛する、我が真珠姫」


 あの日のように私の手を取り跪くラルフ・メルティローズの姿が、涙で霞んだ。




 

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