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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第二章 デビュタント編
20/109

スイッチオン


 翌朝登校すると、当然の如く待ちかまえていたレオン・ビューラー。……と、クリス王子。


「あの、どうして王太子殿下までいらっしゃるのですか?」


 無視する予定が、呆気に取られて思わず聞く。


「俺は殿下の護衛だからな。そばを離れることはできない」

「付き合わせたんですか!?」

「愛ゆえだ。きっと許してくれる」


 クリス王子に目を向けると、今日も変わらず、腕組みしたまま無表情で明後日の方を向いている。あまりに他人事で、なんだか憎しみが湧いてきた。


「何が愛です? 私は転んで、あなたは手を差し出しただけと記憶しておりますが」

「そう。投げ出された無防備な花を摘みたくなり、つい手を伸ばしたのです」


 上から下まで舐めるように見られた挙げ句、顔を覗き込んで眼鏡を外される。


「でも、眼鏡は無い方が良い」


 セクハラおやじか、この人は。さぶいぼが止まらんわ。


「レオン、そろそろ止めろ。友人の妹にそこまで堂々と言い寄る神経に引く」

「お前も恋したらわかる。この妹君では他に目が行かなくなるのも無理はないが」


 お兄様が間に入ってくれたが、レオンは意に介さず私の両手をがっしり握ってきた。身内以外の男性に手を握られるのは、あの七歳の、王子との対面式以来だが、あまりの違い、あまりのドキドキしなさ加減に驚いた。

 ああ、もうダメだ。この人、ワイルドで肉食系で、ゲームしてる時は嫌いなキャラじゃなかったのだけれど、実際に自分がとなると、なんだかもう、色んなことに腹が立つ。


「何もわかっていないのですね。もしあなたが私の容姿を気に入ってくださったのなら申し訳無いけれど、見た目だけ愛されて喜ぶ女なんて世の中におりません。女を馬鹿にしないでください。それから、手を離して、ポケットにしまった眼鏡を返して」


 コツン


「いてっ」


 レオンが後頭部をさすりながら振り返る。


「頭に何か……。王子、見ました?」

「いや、何も」

「まあ、いい。クラウディア嬢、デビュタントのエスコートは是非私めに……」


コツン


「いたっ。やっぱり何か当たって……」

「知らん。石でも降っているのだろう。そろそろ行くぞ」


 スタスタと歩き出した王子に続いて、レオンも去って行く。「また、学食で!」とか待ち合わせのように言っていたが、誰が行くか。しかし、実はちょっと見えてしまったのだ。クリス王子が小石のようなものを指で弾いていたのを。


(追い払ってくれたのかなぁ)


 と、ふんわり甘い期待をしてしまい、慌てて打ち消す。レオンを諫めてくれるつもりなら、ちゃんと口で言えば良いのだ。王子様なのだから。きっと、わけのわからないことに付き合わされたのに不満があっただけだ。


「クラウ。レオンにエスコートされたいか?」


 事の成り行きを見守っていたお兄様が、ふいに尋ねてきた。


「ありえません」

「そうだな。それを聞かないことには、と思ったんだ。では、あとは引き受ける」


 それだけ言うと、お兄様も足早に去って行った。

 なるほど。なかなか助け船を出してくれないと思ってはいたが、お兄様としては、私を引き受ける相手は無碍にできないらしい。私はあくまでも婚約を取り消された傷物ということか。……いや、それは穿った見方かもしれない。お兄様は、私の意思を尊重してくれたのだ。たぶん。


 お兄様が友人の暴走を止めてくれるのを期待して任せる。しかし、この、ほんの少しの出来事が、翌日には『レオンが跪いて求婚したのを、「あなたでは女を知らなすぎて、私の相手は務まりませんわよ。勉強して出直していらっしゃい」と、()()()()に軽くあしらわれたらしい』という噂となり、更にその場にクリス王子もいたことから、過去の婚約解消についてまで尾ひれが付いて取り沙汰され、学園中を駆け巡っていた。


 あの言葉がなぜそうなる? そして、なんだ、例の令嬢って。例のあの人、みたいに言うなや。


「すまない。これまでに経験したことの無い速さで噂が巡って……」


 と、激甚災害のように話すお兄様の言葉で、はたと気付いた。これはもしや、何が何でも私を「妖艶な」悪役令嬢にするよう、ゲーム補正(抗えない力)が働いているのではなかろうかと。

 いや、考えすぎかもしれないが、とにかくムカムカする。もう、色々なことが腹に据えかねていた。


 いいじゃん。そっちがその気なら、「妖艶」フラグ、片っ端からぶっ潰してやるだけだ。


 噂を真に受けて()()()させてもらおうと言い寄ってきた侯爵子息を背負い投げした瞬間、私の中で静かに、よからぬスイッチが入った。




 

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