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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第二章 デビュタント編
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気まずい再会


 馬車を降り、学園の門をくぐる。ここに王太子殿下もいらっしゃるのだなぁと思うと、嬉しいような、偶然にでも顔を合わせてしまうのが怖いような。拘っているのは私だけかもしれないけれど、気まずい。


 お兄様と別れて一人教室に向かう。なにやら視線を感じるが、流石にダサ過ぎて注目を浴びているのかもしれない。そのくらいで丁度良い。私は、前世同様、独りで生きて行くのだ。そのための真珠養殖事業である。八年かかったが、漸く安定した産出が可能になり、マクスウェル伯爵が勉強熱心なのもあって、そろそろ全てを譲り渡しても良いのではないかと考えている。最後の大仕事は、宣伝を打つこと。マクスウェル伯爵というのは、どうやら芸術家というか職人気質らしく、作り手としては一流なのだけれど、「そこから」が無いのだ。別荘地経営も、建物や景観を作るまでしか考えず、宣伝らしい宣伝を全くしなかったらしい。そりゃ経営破綻するわ。

 それもあって、この学園生活では、真珠を世に知らしめる広告塔になりそうな、美しさとステータスを持った女生徒とお近づきになるという目的もあるのだ。


 考えてみれば、前世の私ときたら恋愛経験はゼロ、といって、仕事も特別出来るわけではなく、出世欲ゼロだった。つまりは、それでも生きていける社会だったのだなぁとつくづく思う。

 転生後のこの世界は、そうはいかない。まず、独身女性の社会的地位の低さ! 職業選択の自由などなく、パン屋になりたければパン屋に嫁ぐしかない。一人で部屋を借りたければ、男性の保証人を何人も立てなければならない。貴族の娘は、職業を持つことなど許されず、下級貴族の娘が嫁ぎそびれたら同じ下級貴族か年取った上級貴族の妾。上級貴族の娘の場合は修道院一直線。怖っ。

 唯一の例外は、王宮での奉公であるが、それも基本的には結婚するまでの行儀見習いだし、相当のコネクションがなくては入り込む隙はない。私の事業とて、子供だからでなく、女だからという理由で、お父様に名前を借りなければ何も出来ない。

 これでは、喪女は生きるなと言っているようなもの。由々しき事態である。私が権力のある家に生まれたからには、ここは是正させねばなるまい。


「きゃあ!」


 そんな小難しいことをつらつら考えながら歩いていたら、段差に躓いて、思いっきり前のめりにすっ転んだ。


「痛ぁ……」

「大丈夫ですか?」


 突っ伏したまま、通りがかりの親切な人に差し出された大きな手を無意識に取る。恥ずかしい。


「ありがとうござ……い……ま……?」


 御礼を言いながら顔を上げて、時が止まった。ブラウンの髪と瞳、日焼けした肌に白い歯が輝く、野生の肉食獣のような力強さを感じさせる美丈夫。


 攻略対象者、レオン・ビューラー!!


 思わぬ遭遇に固まっていると、私の手を取ったままのレオンがニカッと笑って屈託なく言う。


「お嬢さん、おみ脚が」

「え? 脚?」


 振り返った光景に青くなる。スカートが捲れ上がっていた。下着が見えるか見えないかレベルで。


「っっっっっっあ!! すっ、すみません。汚いものをお見せしました!」


 慌ててばさばさとスカートを戻す。


「いえいえ、寧ろ、これまでの人生で一番の絶景でした。ね、殿下」

「へ? 殿下?」


 後ろに立つ人物に振り返って言葉をかけるレオン。その視線の先を追うと、有り得ない顔があった。

 悲鳴を上げたいのを、口を手で覆って我慢する。そんな様子を、王子は斜に構えたまま一瞥すると、無言で視線を逸らしてしまった。

 血色の良い肌、煌めく黄金色の髪、自信に満ちた王者の風格を持った……前世(乙女ゲー)で見知った姿のクリス王子。だが、瞳が違う。ゲームでは、少年の頃のままの悪戯っぽい瞳だった。今の王子の瞳は、冷たくて、暗い。


「す、すみません!」


 逃げた。取りあえず、立ち上がって全力で逃げた。廊下の角を曲がって息をつき、眼鏡が無いことに気付く。転んだ拍子に飛ばされたのだ。度が入っていないので、すぐには気付けなかった。


 これが王太子殿下との八年ぶりの再会の場面だなんて、酷すぎる。既にふられてはいるけれど、そのまま綺麗にフェードアウトしていたかった。神様の意地悪。しかも、攻略対象者の手を取り、言葉を交わしてしまうとか。入学早々、前途が多難過ぎるよ!




 

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