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こじらせ悪役令嬢は無自覚に無双する  作者: Q六
第二章 デビュタント編
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高等学園入学式の朝



 髪は後ろで一つ、固い三つ編み。顔は伊達眼鏡で隠して、育ちすぎてしまった胸は背中を丸めて隠す。校則では好きなリボンを胸元に着けて良いのだけれど、敢えて無しで。靴と鞄は指定が無いので、焦げ茶の革製品で統一。この世界では革製品ってのは、安い物は庶民の、高い物はおじさんのアイテムで、女子のおしゃれ的には有り得ないのだが、この日のためにわざわざ(あつら)えた。


 良い。このダサ……もとい、地味さ。修道女のようだ。


 私が王太子殿下の婚約者だったあの時から、既に八年の歳月が経った。私は十五歳になり、今日は学園の入学式。この年の途中から編入してくるアンジェリカに会うことは今はまだ無いけれど、気を引き締めて、地味に、目立たず、誰の気も引かずに過ごさなければならない。これまでも、ゲーム中に登場した取り巻き令嬢との出会いを回避すべく立ち回ってきた。


 取り巻き令嬢。クラウディアに気に入られようとしてアンジェリカに嫌がらせする、確か、ミランダ? ミルドレッド? ゲーム中ではあまり名前が出てこなくて思い出せないのだけれど、そんな名前の娘と、もう一人。メアリー? メリッサ? そんな雰囲気の名の娘。どこの家の者かもわからない人物と出会わないように画策するのは、非常に骨の折れることだったが、真珠の養殖事業を言い訳にして、同年代の女子とは接点を持たずにきた。まぁ、三十路の心が宿っているので、多分一人だけノリが違うっていうか、そもそも誰とも友達になれそうにないのだが……。


 鏡の前で全身をチェックし終え、部屋を出ようとして、手首の違和感に気付き「あっ」と小さく声を漏らす。

 何の飾り気も要らないけれど、真珠の一粒付いた金の鎖だけは手首に巻かなくては落ち着かない。幼い頃、王太子殿下と初めて会った時にはアンクレットにしていた物だが、元はお母様のブレスレットだった。

 一度かけてもらった、将来を誓う優しい言葉を、忘れることはなかった。あの時、私はとても幸せだったから。今は御守りのようにいつでも身に付けている。

 それを、そっと、袖の内側に隠した。


「クラウ、用意はできた? そろそろ出るよ。クラ……っ!」


 ドアをノックして部屋に入ってきたお兄様が、私を一目見て息を飲み、続けて、口に手を当て後退り、壁に背中をぶつけた。そうだよね。さすがにダサいよね。


「クラウ……。なんっっって、可愛らしいんだ! 正に清楚! 清純! 乙女の鑑! お兄ちゃん、天女をエスコートして学校へ行けるなんて最高に幸せだっっっ」


 はい、泣いてますよ。この妹馬鹿(シスコン)。お兄様はいつもこの調子で、あの事件の日から妹に対する評価が歪んでしまったので、当てにしません。


 アンジェリカと出会う社交界デビュー(デビュタント)の舞踏会まで、残り数ヶ月。恋愛(乙女ゲー)の舞台を降りた生粋の干物女子として、きっちり、非モテキャラの地盤を学園で築くのだ。


 いざ、出陣!




 

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