ラルフ・メルティローズは、かく語りきり【騎士団総長メルティローズ伯爵令息視点】
罠猟合戦のルールや段取りについて意見を交わし、日程や場所の選定などは一旦各々持ち帰りで、また次週ということになった。真珠の養殖事業に着手したクラウディア嬢はとても忙しいようで、慌ただしく帰っていった。
「クリス王子、実は婚約者殿のこと大好きでしょう?」
「そうだな」
「うわぁ、澄ましちゃって。本当は嫉妬心メラメラで『我が』とか『真珠姫』とか、わざと言ってオレを牽制したくせにぃ」
「わかっているなら遠慮をしろ」
「えー。だって、興味あるじゃないですか」
「おまえこそ、わざとクラウディアとタメ口で話して、俺の反応見て楽しんでただろ」
「てへっ」
王子の言葉は、半分当たりで半分ハズレ。タメ口を使ったのは、クリス様の反応を見て楽しんでいたわけではない。牽制したりするから、逆に、「オレの方が前から知り合いだったんだぞ」って主張したくなったのだ。
初めてまともに喋ったクラウディアは案外気さくで楽しくて、でも、やりたいことには我を通す強い意志があって。そもそも、オレは、『魔王』クラウディアが嫌いじゃなかった。自己主張の無い、親や男の後ろに隠れるお人形みたいなのなんて詰まらない。嫌なことを嫌と言って、楽しいことを一緒に面白がってくれる奴じゃなきゃ、一緒に居たくないって思っていた。その点、クラウディアは他の女と違って自分の楽しみのために好き勝手していたから、落とし穴に落とされたって、楽しかった。
……しかし、先ほどの言葉は本当だろうか。十個もの罠を仕掛けた? オレのために? オレを、落とすために?
うわぁぁぁあ。
何だろう。テンション上がる。あの『魔王』がオレに一目置いてくれてたってことだよねぇ。やっばい。嬉しい。ってか、嬉しくて顔赤くなってなかったかな。
なんか、服の趣味も変わってて、前はもっとこうブリブリでハデハデで髪の毛なんかグリングリンしてて、いかにもお爵位のお高いお貴族のお嬢様!って感じで、ちょっと苦手だったけど。久しぶりに会ったら、なんだか随分地味になったというか、動きやすそうになっていて好感が持てた。もっと早くあの格好にしてくれていたら、「クラウディア嬢を嫁に!」って言う親父殿の言葉に乗っかっていたのに。
でも、もう、王子の婚約者なんだよな。
手に入らないと思うと、少し前までそこにいた姿、そのままの笑顔が、甘い芳香を持って脳裏に浮かぶ。
「あーあ。オレも真珠姫って呼んじゃおうかなぁ」
「お前は駄目だ」
「ちぇっ」
大して悔しそうでもなく舌打ちすると、王子が口角をちょっとだけ上げて、薄く笑んだ。
ちぇっ
余裕な態度の王子を見て、本気の舌打ちを飲み込む。脳裏からさっきまでの甘やかさは掻き消え、口の奥で、苦くて酸っぱい錆びた鉛の塊のようなものを噛み潰した。