躾が必要な犬(猫)
その場にいた全員が固まり唖然とする中、志戸は笑っていた。
「俺の世界ではワンコのしつけが完璧に出来てないと飼い主がバカにされちまうぜ」
アリアを見る志戸だがライオンの頭が地面から抜ける。
「ぬぅ……なかなかやるな人間…」
「おすわりも出来ねぇ犬が調子に乗るなよ」
「ほほう、面白い…なら、これはどうだ!!」
ライコウはライオンと羊の口を同時に開けるとそこから勢いよく火を吐き出した。
「へっへっ、この炎は一生消えねぇ炎だ。死ぬまで焼き尽くす業火の炎。終わりだな人間」
ケタケタ笑うしっぽの蛇。アリアは志戸のゲンコツ一発で驚いたがさすがに業火の炎ならばたとえ不死身であっても消えぬ炎なら死ぬよりも辛いことだろうと予想した。
「死ぬまで焼き尽くすんなら消えるまで死に続ければいいだけだろ」
炎の中からゆっくりと歩き出てくる真っ黒に焼け焦げた志戸。
「な、ななな何〜〜〜!?」
焼け焦げた皮膚は剥がれ落ち再生するが衣服全て燃やされ元に戻った志戸は真っ裸の状態だった。
その姿を見て咄嗟にアリアは叫ぶ。
「へ、変態だーー!」
「きゃあーーー!!」
アリアとアリスは目を隠す。幸い志戸は背中を向いていたため尻しか見えなかった。
「はぁ?文句を言うならこのワンコに言えよ」
「ちょっーーー!!貴様、こっちに振り向くな!!穢れる!目が腐る!」
「別に大丈夫だろ、減るもんじゃねぇし」
「いやダメだ!神経が減る、寿命が減る。ヤバい死ぬ。はっ!妹は絶対に見るな!!穢れるぞ…」
「う、うん……」
羞恥心はあるにはあった志戸だが別に気にすることでもないことでライコウに体を向け直す。
「んまぁ、いいか…で?ワンコそれで終わり?」
志戸はライコウに聞くとライコウにはもはや為す術がらなかった。事実、キマイラは強靭な肉体とライオンの頭に羊の頭、しっぽの蛇と合成獣でありながら実際は他の獣と変わりないひっかくなどの攻撃的本能しかない。他の獣と違うのは強靭な肉体と炎を吐くのみしからなかった。
しかし、ライコウは神話においては神であるが故に人間に負けるなんてありえないことだった。
当然、負けを認めるわけにはいかない。
「い、いやまだだ!まだ終わってない!!」
「じゃあ何したら負けを認める?」
志戸の言葉に困惑するライコウは3匹の頭を近づけ会議を始める。
「おい、お前何言ってんだよ!」
「馬鹿じゃないの?この人間何やっても勝てないわよ」
「だって〜、なんか負けたくないじゃん…」
最初まで威勢があったライコウ全体の主導権を握るライオンが羊と蛇に怒られ萎縮する。
「来ないのならこっちから行くぞ?」
「はぇ〜!ちょちょ、ちょっと待ってください!!」
「あん?こっちは急いでんだよ、待つわけねぇだろっ!!」
志戸は止まることなく瞬時にライコウの下に潜り込むとライコウの腹に手を添える。
「強靭な肉体でも内側は弱い、ぶっ飛べ」
「ストップ!待って……」
するとライコウの体は大砲に撃たれたかのように天井に打ち上げられ天井に3匹共々頭を打ち付け気絶してそのまま落下しノックアウトする。
「派手に飛んだな〜」
「一体何をやったのよ!」
「あん?そんなの決まってんだろ…」
「ちょっ!こっち向くな!」
「注文が多い奴だな…んで終わったぞ、さっさと戻せ」
「はいはい、分かったわよ。とりあえずこれで隠しといて」
アリアはそこら辺に落ちていた布切れを投げ渡して志戸は渋々それを腰に巻きアリアはライコウに近寄る。
「ライコウ起きて!」
ぺしぺしとライオンの頭を叩くが気絶が深いのか全く起きない。
「遅い。早くしろ」
待つこともなく志戸はライオンの頭を強く叩きつける。
「ぶへっ!!き、貴様なにする!」
「さっさと戻せ、急いではないけど急いでるんだ」
「なんだそれ?というかそれがお願いする態度か?」
「懲りないみたいだな、キメラなんて興味ねぇがその三つ首が同じ血で共存できるカラクリを知りたくなった。臓器共々喰っていいか?」
人間とは思えない言動に青ざめる3匹の頭は喰われないように器用に足先を動かして魔法陣を描く。
「この魔法陣で戻れます」
「やればできんじゃねぇかよ。ほら帰るぞ雑魚共」
「雑魚って言うなクソ人間。アリス」
「は、はい!」
3人と1頭(3頭分)は魔法陣の中に入ると聖堂に戻った。
「無駄な体力を使ったな、おいワンコ!あれ?お前どうしたその姿」
志戸はライコウの方を見ると先程まで巨大だった体は小さくなり大型犬サイズまでに縮まっていた。
「ワシは戦闘時以外はエネルギーを抑えてるんだ、だからこの姿の方が動きやすい。だから…」
「お手」
「はいっ!」
サッと前足を志戸が出した手のひらの上に置く。
「はっ!しまったついつい手が…」
「ワンコだな、けど今思ったらライオンは確かネコ科だった気がするがまぁいいや」
「ライコウなぜついてきたの?」
「なにワシはこの男に興味を持ったからついていく。ワシを力づくで屈服させる奴なんて初めて見たわ」
「いや、いらん。お前にやるよ」
志戸はライコウのケツを思いっきり蹴り飛ばしてアリスの方に飛ばした。
「はぁ!?貴様、このワシをいらないと?」
「雑魚は雑魚同士がお似合いだ」
「貴様!!」
「ライコウ。このクソ人間に何言っても無駄だよ、力も分かってるでしょ」
「しかし…」
「まぁ私はライコウには勝てないけど無駄にあれこれ言われるよりマシじゃない?」
「雑魚に何言っても使えねぇからな」
「ほら、こう言ってるし」
「むぅ……仕方ない。なら大人しくついて観察するしかないかのぅ…」
しょぼんとするライコウ、ふとアリスの視線が気になり顔を上げるとアリスが撫でたそうにライコウを見ていた。
「なんじゃ小娘、その目は」
「触ってもいいですか?」
「構わん、勝手にせぇ…」
アリスはライオンのたてがみを触りとても満足そうな表情をする。ライオンもこれはこれで悪くないと気持ちよさそうな表情をする。
「小娘、私も撫でてくれ」
「俺もだ!」
羊の頭としっぽの蛇もライオンが気持ちよさそうにする顔を見てうずうずしていた。アリスはそれぞれ撫でて楽しそうにする。
「さっさと行くぞ」
「え?さっきは無駄な体力を使ったって…休むんじゃないの?」
「アホ、だからこそ早く行くんだよ」
「矛盾してない?」
「矛盾なんてもんは言葉の上にしか存在しねぇんだよ。行動には矛盾なんてない。動くか動かないかだ。同時に物事が生じることなんてまずない。そもそも俺が言ったのは無駄な体力だ、疲れなんてねぇよ」
支離滅裂過ぎる発言にアリアは何も言い返す言葉がなく呆れるしかなかった。
「うっわ〜…、なんかセコいというかズルいわね……体力が底なしとか」
「睡眠、食事も必要ない。俺に勝てる奴にはいねぇよ。故に最強だ」
「えぇ…自分で言うとか…」
「とりあえず近くの奴らをぶっ殺しに行くか、何処が近い?」
「あー、はいはい。ナビゲーター役なのね私は、えっと妖精の泉があるわ、でも喰ったり殺したりするのは禁止」
「興味ない、他は?」
「あ、でも妖精の泉はどんな物質も生成することが出来る泉があるわね、私の甲冑や剣もそこで生成してもらったわ」
「ほう…、物質生成の泉か興味が沸いた。行くぞ」
一瞬で興味が沸いた志戸。
「喰ったり殺したりするのは禁止だからね」
「相手次第と力次第だ」
「ちょっ!その前に着替えなさい!」
「あ?めんどくせぇ」
「本当は嫌だけどたしか着替えがあったはず、そんな格好で出歩かれたら私まで変態扱いされる」
「いや、お前も十分に変態だけどな」
志戸の言葉を無視して聖堂の脇にある小部屋に入っていくアリアに待つ間が面倒な時間でため息を吐く、しかしちょうどよい相手がいることに気づく。
「おい、ワンコ」
「なんじゃあ?ワシは今忙しんじゃ」
忙しいと言いつつもアリスに撫でられてるだけのライコウに少し苛立つ志戸はちょうどウトウトして寝ようとしていたしっぽの蛇を掴む。
「ーーぐえっ!?」
「お前でいいや、お前以外の強いヤツはいるか?」
「く、ぐるじぃ…離して…」
「めんどくせぇ奴だな、お前より強いヤツはいるか?」
パッと蛇を離して同じ質問をぶつける。
「ぷはっ、強いヤツ?ああいるともお前みたいな人間を簡単に捻り潰せるヤツもな、なっははは」
「だろうな、お前は弱すぎたからな」
「はぁ?違ぇし、まだ俺は神の中でも最弱や、まだ強いヤツは…」
「あー、そのセリフはなんか俺の世界でもよく聞いたわ。はいはい雑魚乙」
「ふっふっ、そう言っていられるのも今の内だぞ、人間」
「負けた奴が何言ってる」
「ぎゃーーーー!!」
再び蛇を握り捕まえて目潰しする志戸にちょうど戻ってくるアリア。
「ちょっと何やってるのよ、ほら着替えもってきたわよ」
「あいよ、めんどくせぇ…」
アリアは志戸に着替えを渡すと志戸は文句を言いつつも着替える。
意外にも体に馴染む服装に志戸は悪くないと言い頷く。
「へへん、どうかしら。ピッタリでしょ」
「まぁ評価は5点だな」
「はぁ?なにその評価」
「雑魚評価だが?」
「ちなみに何点基準?」
「100に決まってるだろ」
「はぁ……もういいわ。行きましょうアリス行くわよ」
「はーい」
志戸達は妖精の泉を目標にして聖堂から出た。
「やっと動き出した」
「妖精の泉ねぇ…、あの羽虫がブンブンと飛び回ってる所でしょ、私は嫌いだね」
「可愛いからいいじゃん」
「はぁ?ウザいじゃん。それよりマキナの能力奪ったのがあのエルフだったなんてね」
「おそらく奪ったのはあの子じゃない。その先代の誰かだろうぬ。あの子だけの力だけでは奪えない。その秘密諸共志戸に暴いてもらう」
「うっわ〜、怖いね〜。それにキメラなんて飼っていたなんて、エルフ早めに滅ぼして正解だったね」
「きな臭かったから消しただけさ、ところでまだデウスは帰ってきてないの?」
「らしいよ、そうそうマキナ」
「なに?エクス」
「少し下の街で飲みに行かない?」
「えぇ、ヤダよ面倒臭いし志戸の様子を見たいから」
「面白い物が見れるわよ」
「うぅ…エクスがそう言うなら行くよ」
椅子から立ち上がるエクスとマキナ。ゲームは着実に進み始めていた。