死ななければ問題なし!!
どこかの街の路地裏に降り立つ志戸。
「おとと…久々の外だな…」
上を見上げると久々の光が差し込み久々の外の空気を実感する。しかし志戸は気づく。
「人間以外の臭いだな、これは…」
「亜人族だよ、あとは色々さ」
志戸をこの世界に導いた男の娘が背後から現れる。
「亜人族?なんだそれ」
「言っただろ、ここは何でもありの世界。あぁそれとここからは一人で行動してもらうから」
「楽しんでも構わねぇのか?」
「ああ、構わない。ボクを殺したければ道しるべを辿ってボクの所に来てね、そしたらボクも全力で君を……殺す」
男の娘はふわっと消える、志戸は名前を聞くのを忘れたがどうでもいいと思い路地裏から出た。
「ーー待てこの泥棒!!」
突然ドタバタと志戸の前を通り過ぎていく耳が長く髪がエメラルド色の女の子にそれを追いかける志戸の世界とよく似た警察官の服を着て狼みたいな顔立ちした動物達が何匹かその後を追っていく。
「なんだぁ?犯罪か?」
首を傾げ人としての性か追いかけようとした時に呼び止められる。
「お!兄さん人間族かい?どうしたんだこんなところで」
呼び止められた人物に志戸はさらに首を傾げた。
「上半身が人間で下半身が馬?」
「おやケンタウロスをご存知でない?」
「ケンタウロス?あのケンタウロス?」
「ああそのケンタウロスだ」
志戸の世界で見た本と同じ姿のケンタウロスに少し納得したがそれよりも気になることがあった。
「いやそれよりもさっきのは?」
「ありゃ、エルフさ。住む土地も奪われてああして盗むことに特化しちゃってる。いや〜本当は昔はな、神聖な土地神…ってありゃ?お兄さんどこに行ったんだ?」
ケンタウロスの目の前にはさっきまで居た志戸はおらず、志戸はすでに警察官らしき狼達のあとを追っていた。
「久々に走り飛んだが悪くない。それにこの街並は西洋に近い作りだ、ならば!」
走りながら跳躍して建物の屋根に乗る。
「均一的に揃ってる屋根の方が下を通るより楽だ」
さらに加速して走る、そして下を先程志戸の前を通り過ぎた狼らしき警察官と耳長の女の子が見える。
「見えた!事件に紛れながら殺しても別に平気だろ、まずは様子見だなっ!」
飛び降り狼らしき警察官と耳長の女の子の間に割って降りる志戸に足を止める狼達と耳長の女の子。
「ーーなっ!?貴様何者だ!!」
「ふぅ、ウォーミングアップ完了っと。俺の世界とは違って空気が気持ちいいな」
久々の運動に軽く肩を回して軽く息を吸って吐く志戸に驚く狼達と耳長の女の子。
「え?だれ…」
「聞いてるのか!貴様!!」
「ワンワンうるせぇな、犬ども」
ご近所の犬並に五月蝿いと感じた志戸は一喝すると逆上したかのようにさらに怒る狼達。
「い、いぬっ!?き、貴様ぁ!!」
過敏に反応してすぐさま怒りが頂点に達したのか腰に付けたサーベルを抜き志戸と耳長の女の子を取り囲む。
「え?え?ちょっ!だれ?あなた」
「あん?今から喰われる奴に名前を教える義理はねぇ、おとなし…」
「余裕かましてんじゃねぇぞ!この人間風情がぁ!!」
言葉を遮り一斉に切りかかってくるが志戸は立ったままで耳長の女の子はその場に伏せた。狼達のサーベルは志戸に突き刺さっただけでなく怒りに身を任せ切り裂き片腕は落ち指も数本切り落とされ頭にもサーベルが刺さる。周りで見ていた野次馬も志戸を見て驚きの声や悲鳴を上げる。
その場で両腕は切り落とされしまいには首から上が切り落とされ頭にはサーベルが突き刺さったまま胴体と足だけのこした無惨な姿になった志戸に誰もが目を背ける。
「はは、人間如きが調子乗ってんじゃねぇぞ」
狼達は満足気に笑い目標を耳長の女の子に戻す。
「………あぁ、悪かったな調子に乗って」
もう止めるものは居ないと思っていた狼達だったが再度止められて驚く。
「はは……はぁ?」
「久々なんだ、外は、それに空気も美味しい……それに切り裂かれるのも」
全員が顎が外れそうなレベルで口を開け唖然とした。
「腕が落ちるのは何年ぶりだ?指が落ちたのは何日ぶりだ?頭を切り落とされたのは……何年ぶりだ?ああ?」
腕を拾い足で器用に蹴り上げ元の場所にくっ付け、指も同じようにくっ付け、さらには体に刺さったサーベルを抜き。頭に刺さったサーベルも難なく抜き頭を元の場所に戻し五体満足の元通りの志戸になった。
「悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない……むしろ気持ちいい………はは、あはははははは」
久々にバラバラされたことが気持ちよかったのか高らかに笑う志戸。
「こ、こいつ……バケモンか?」
「気持ち悪い……」
「人間なの?」
狂人のように大笑いする志戸に周囲は恐怖でドン引きする。
その様子を最も遠い場所から見ていた者が居た。
「あららら、最初から飛ばすね〜」
「マキナ…、アイツがお前の駒か?」
「ん〜、そうだよ。そういう君はエクス?」
「秘密だ、しかし大丈夫か?アイツ」
「面白いでしょ、不死身のシド」
「不死身か、まるで私達みたいだな、デウス」
「……下らん、所詮は人間。いずれ死ぬ」
「あ〜、デウスそういう事言ってると負けちゃうよ?大抵そういう奴は下らない負け方をするのが相場なんだよね〜」
「マキナ、また変な本に影響されたか?デウスに敵うやつは…」
「ぶ〜だ、デウスもエクスもシドに負けちゃえばいいんだ。じゃあね〜」
「マキナ!はぁ…全くあの男は…」
「気にするな、それより試合は開始された。あとは駒が自由に動くのみ」
「そうね〜、んじゃ帰りましょうかデウス兄様」
「ああ…、そうだマキナの女装癖は直しとけよエクス」
「うぇ!?なんで私が?」
「同じ女だからだ」
「はぁ!?アイツは男、私は正真正銘女よ!!」
「そうか…」
「そうか…じゃないわよ!!」
それは誰にも気づかれない場所で志戸を見ていた3人。そして会話が終わると3人の気配が消える。
その頃、志戸は子供が新しいオモチャを見つけたかのように目を輝かせながらゆっくりと狼達に近づく。
「お前達の血がどんな味か楽しみだ、さぞかし人間とは違うんだろうな、鍛え上げられた肉体に喋る犬、いい…んだろうなぁ……」
「き、きもい……」
「やば……」
狂人で変態じみた言動の志戸に恐怖が段々と気持ち悪さに変わっていき野次馬は逃げ始める。
「だがその前にだ、俺はこの女を喰べる」
「ひぃっ!!」
その場に伏せ座り込んでいた耳長の女の子は泣いて逃げ離れようとしたが腰が抜けて動けなかった。
「安心しろこれは至って犯罪ではない、お前は先に罪を犯した、よって俺はそれを裁くためにお前を喰う」
安心できない意味不明な正当性を主張するが誰もそれを気にするどころではなかった。
「う、うそ…ですよ…ね?」
喰うという言葉に比喩か何かだと耳長の女の子は思っていたがバラバラの状態から元通りなった様子を見るからに比喩ではないことを察していたが同時に比喩であってほしいと願う耳長の女の子。
「いや嘘ではない、お前はコイツらに追いかけられた、ということは何かしらの罪を犯したということになる。だから…」
「ーーそこまでだ!」
狼達を後目に耳長の女の子に近づこうとした志戸の目の前に一本の剣が遮る。
「邪魔するのか?」
「お前が言ってるのは全て穴だらけだ」
「はぁ?」
志戸と耳長の女の子の横に立つ、凛々しい姿の女性。耳長で髪はその場に座り込む女の子と同じエメラルド色をしていた。
その女性は志戸の支離滅裂な正当性を主張する言葉に杭を刺した。
「妹が決定的な罪を犯した証拠は?」
「証拠なんて……ぶへっ!」
ない。と言おうとした瞬間、志戸の顎に拳がはいる。
「妹に手を出してんじゃねぇよ!このクソ変態人間がぁぁぁ!!!」
答えを聞く前に志戸にアッパーをして志戸は2メートル近く上に吹っ飛びそのまま落ち後頭部を思いっきり打ち付け血を流して気絶する。
「ふぅ…大丈夫か?」
「お姉ちゃん。怖かったよ〜」
「んで、そこの狼族は何用かな?」
「は、はいぃぃ!!あ、あのわ、わたくし達はその女の子が……」
狼達は突然の出来事にあっちらこっちらと焦りに焦って状況整理が出来ずにしどろもどろになりながら耳長の女の子がしたことを説明しようとした瞬間。
「てめぇらウチの可愛い妹にイチャモンでもつけんのか?ああん?ぶっ殺すぞゴラァ!!」
剣を地面に突き刺し拳をボキボキ鳴らして狼らしき警察官を脅すと犬みたいにクンクン鳴き始める。
「0.1秒以内に目の前から去らねぇとぶち殺すぞ!!」
「くぅ〜〜ん!!」
鳴いて散っていく狼達に周りの野次馬も見た目とは反した恐ろしい女性に巻き込まれないように散っていく。
「全く……大丈夫だったか」
「ごめんねお姉ちゃん。私ね私ね」
耳長の女の子はその助けに現れた女性の妹だった。そして妹は姉が助けに来てくれたことを嬉しく思い急に話を始める。
「あー分かった分かった。ところでこのクソド変態マゾ野郎はどこで拾った?」
「拾ってないよ〜、なんか急にね上からドーンと来てね、それでね片腕や頭がボーンとなっても生きててね、なんかねなんかね……」
必死に説明しようとする妹に頭を悩ませる姉。
「あーごめん、お姉ちゃんが聞いたのが悪かったわ。簡潔に言って」
「割り込んできた」
「妹よ、簡潔すぎ」
「え?じゃあ……変態」
「さらに意味が分からない」
「えっとじゃあ割ってきた変態」
「どこを割った?」
唸り頭を悩ませる女性だが妹が無事で話してる姿に嬉しかった。すると志戸は目を覚ますと女性は気づく。
「あいてて、俺を気絶させるとか何もんだよ…」
「貴様、妹に手を出そうとしたらしいな、どこで割った?」
「は、はぁ?割った?どこを?」
「だ、そうだ妹よ」
「嘘だよ、だって上からボーンて来て、頭がドーンと割れたじゃん」
「???」
「ね!お姉ちゃん」
「ふっ、妹よ。意味が分からない。説明してくれクソ人間ド変態マゾ野郎」
説明を求められる志戸に逆に説明してほしいぐらいの志戸は首を傾げた。
「いやさっぱり……」
謎の空気に包まれる、しかし女の子だけが必死に身振り手振りして説明するが説明がなんとも壊滅的で稚拙的過ぎて姉である女性に伝わらず志戸もアッパー食らった衝撃と話の掴みどころがない状態で興奮が冷めてしまった。
「まぁいい、帰るぞ妹よ」
「うん!」
立ち去ろうする2人だが志戸が止める。
「あ、おい待てよ」
「なんだ?クソ人間ド変態マゾ野郎」
「呼び方が気になるが、それよりその女、俺の獲物なんだけど?返してくんない?」
「はぁ?誰が世界にたった1人の美しく可愛い妹をお前にやると?私だけの物だぞ」
疑う余地もないシスコンだが志戸には関係ない。
「力ずくで奪うしかねぇか、まぁお前は初めて俺を1発気絶させた女だから悪くない。お前の血の味も気になる」
「吸血鬼の真似事か、人間?そんな事をしても吸血鬼には成れないぞ」
「へぇ、吸血鬼もいるのか…。なかなか面白そうだな」
「なんだ知らないのか?」
「色々と混んだ事情があってな、別に今から死ぬ奴に話した所で意味はないけどな」
「ほう…人間が私を倒すだと?笑えない冗談だな…」
剣を抜くと先程までの雰囲気から一変して寒気が走り一陣の風が吹く、同時に耳長の女性には銀色に輝く甲冑が装備された。
それを見て感じた志戸は生まれて初めて鳥肌が立つという経験をした。
「お前かなり強いな、いい、いいぞ」
「ふっ、最強とは何か教えよう人間。一瞬で死ぬなよ」
「死ぬ?殺してくれるのか?楽しみだ!死を感じたい、今すぐにさぁ!!」
「なるほど、相当な変態らしいな……なら死ねっ!」
数メートル程度離れていた距離からたった1度の跳躍で耳長の女性は志戸の近くまで飛び、そして首を切りはねとばす。僅かコンマ数秒の出来事だった。
「……つまらん、人間は人間だ。口先だけだったか…、次こそ帰るぞ、妹よ」
剣を納め甲冑が消える、そして優しく微笑み志戸に背を向け妹の元に戻るが妹は笑顔はなく志戸の方を見つめていた。
「どうした?」
「……お姉ちゃん……あのね、あの人…頭がその…ぼ、ボーンしても、生きてるの」
「またそれか、もう死んだ奴はどうでもいいだろ。それに人間が生きてるわけない」
「ううん、生きてるの」
「はっ、さすがの妹でもそんな冗談は………え?」
さすがの妹の言葉に疑いつつ振り返るとそこには首から上がない志戸が普通に歩き近くに落ちた頭を拾い上げていた。
「……いや〜、さすがだね。跳躍込で数秒、あれは人間業には不可能だ、人間がもし使うと体のありとあらゆる部位が限界値に達して一瞬にして使い物にならなくなる」
首を元に戻すと切った傷は綺麗になくなる。志戸は笑い女性の身体能力の高さに軽く分析しつつ嘲笑っていた。
「き、貴様……人間か?いや吸血鬼か?」
「ばーか、俺は人間だ。その吸血鬼とやらは知らねぇが正真正銘の人間だっての」
「ふふふざけるなっ!!首を切って落とされた人間が軽々しく生きてるはずがない!!」
「ここにいるし、んじゃその女もらっていい?あーでも先にお前を喰ってみたいな。あれ?でも俺喰うことしか考えてねぇな、なんでだ?」
「貴様ぁ…」
殺し損ねたことにキレたのかそれとも質問をまともに返さなかったことにキレたのか耳長の女性は完全にブチ切れ、さっきまでとは段違いの風を巻き起こし、周囲に被害が及び始めた。
「まだそんな力があったんだ!いいねぇ!ますます興味が沸いたよ!!」
「ーーっ!!バカにするのもいい加減にしとけよ、人間。1度の死を回避は神の加護か何かだろ、だが2度目はない!!」
「ふぅん、神ねぇ…あれ?そういやアイツ、たしか…」
「戦いの最中に他の考えとは…あぁ、分かった。じゃあ死ねよ!」
一瞬時が止まったように志戸が瞬きして気づいた時には目の前には耳長の女性はおらず女の子だけで自分の足元には片腕が落ちて背後には耳長の女性が立っていた。
「やっべぇ、なにそれ」
「教える義理はない、これは最後の警告だ。次は四肢を全て切り落として最後は貴様の頭を切り刻む」
「へぇ…………やれるもんならやってみろよ…ーーー」
また時が止まった。女性はもう片方の腕を切り落とすと次は両足を切り落とした。そして最後に首を切り落として終わりと思った。
「ーーふっ、不死身だろうが戦闘能力ゼロに近いな、これなら……」
時が止まった世界で女性は鼻で笑い、そのまま志戸から離れようとした時、頭を鷲掴みされた。
「ーーーーーーなッ!!!!」
「……時止めか?なんか漫画みてぇなことしやがるな、お前」
それは二回目に切り落とした志戸の腕だった、落ちていく頭が笑いその目線はしっかりと女性を見ていた。
しかし、それよりも驚いたのが四肢を切り落としたはずの体が時間が巻きもどるかのように元に戻りつつゆっくりと女性に近づき頭以外元に戻る。
「な、な…なんなんだよお前は!!私より先の時間を飛べるのか!」
髪を鷲掴みにされ逃げられなくなった女性は驚きよりも恐怖が襲ってくる。
「はぁ?知らねぇ、見よう見まねでやっただけだ」
「みようみまねだと!?ふざっーーうっ!!」
志戸はニヤリと笑うと同時に女性の頬を思いっきり殴ると女性は数メートル吹き飛び近くにあった店のショーウィンドウをぶち破って店内の壁に激突する。そして時が動き始め志戸の頭が地面に落ちる。
「クリーンヒット。あれは気絶だな」
「え…?おねえ…ちゃん?お姉ちゃん!!」
女の子は一体何が起きたのか分からずすっ飛んだ姉の元に駆け寄る。
志戸は再び頭をハンカチを地面に落とした時みたいに軽くホコリを払い拾い元に戻す。
「何回落とされるんだよ、全く…命を大事に…っと俺が言うことじゃねぇか…さてと」
女性は壁に思いっきり打ち付けられたことで気絶していた。
「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」
目覚めない姉に泣きながら必死に起こそうとする妹だが一向に目覚めない。
「いや〜、久々にいい戦いをしたわ。いい戦いをしたあとの食事はいいものだよな」
志戸が笑顔で店内に入ってくる。
「いや……お願いします。食べないでください」
女の子は姉を抱きしめ必死に命乞いをする。
「んん?ダメに決まってるでしょ、まぁでもお前は別にもういいや、どちらかというとその女に興味が沸いた」
志戸の興味は戦った女性の方に向いていた。
「お願いします……私を食べていいからお姉ちゃんだけは…」
「別に悪く思ってねぇけど、悪いがそいつは無理だ。さっさとどけ」
「あうっ…」
女の子を蹴り飛ばして引き離す。
「……お姉ちゃん…いや……うぅ……」
「まずは腕からだな、そしたら足と喰っていくか…」
志戸が腕を持ち噛みちぎろうと口を開けた。
「ーーそこまでだよ志戸くん」
「ああ?」
ギリギリのところで止めたのは志戸をこの世界に送った男の娘だった。
「君を逮捕するー…なんてね」
「意味が分からねぇ、なんだよ急に」
「神様……お願い神様!お姉ちゃんを」
女の子は男の娘を見て神様と呼び懇願する。
「全く女の子を泣かせ、あまつさえ足蹴りするなんて信じられないよ」
「うるせぇよ、どこの世界でも弱肉強食だ。んで何の用だよ」
「ゲームの参加者が揃った。デウスの駒。エクスの駒。マキナの駒。君はボク、マキナの駒さ。そして陣営はエルフの国」
「はぁ?ゲーム?駒?」
「面倒だから一度転送するね」
指を鳴らすと先程まで居た場所から全く別の場所、そこはどこかの聖堂のような場所だった。
「ここはエルフの国、最後の場所さ」
「いやどうでもいいわ、それよりこの女を……」
「う、うぅ……いてて。ま、マキナ様、一体これは……」
女性は意識が戻ったのか起き上がり志戸から離れ男の娘の前で膝をつき頭を下げる。
「お姉ちゃん!!」
「妹。今は神の前だ、頭を」
「あ、ごめんなさい」
女の子も女性と同じように膝をつき頭を下げる。
「うんうん、神を信仰する。やっぱエルフはいいな」
突然の事に大きくため息を吐く志戸。
「はぁ…興醒めだ。早く話せよじゃないと殺すよ」
「せっかちさんだな、単刀直入に言う志戸。君はエルフの陣営に付いて他の参加者をぶち殺していい」
「なんでだ?自由にしていいって言ったのはお前だろ」
「自由になる為には権利がある、しかして権利を勝ち取るのは勝者のみってとこ」
「やらねぇよ、俺は自由に過ごす。自由ってのは自分で掴むもんだよ」
「はっは、さすがボクが見込んだだけあるね。でも神の言葉には従ってもらうよ」
「嫌だ、と言ったら?」
「こうかな」
志戸はふと心臓の鼓動が完全に静止するのと体を流れる血液全てが一気に体外に出た感覚に襲われた。
「……お前、今何した?いや殺したよな俺を?」
「軽くね。それを今後味わうことになるだろうね」
「はは…悪くねぇな。だが気持ちわりぃわ」
「それを永遠に繰り返すことになるよ?」
「従えってことか…初めて屈服されたな…」
志戸は死そのものを経験した、しかしそれは死と呼べるのか分からない。志戸にとっては死を知ることはない。普通の人間で例えるなら金縛りに近いのかもしれないがそれもまた分からない。分かることは志戸にとってその感覚は気持ち悪いものでそれと同時に志戸は死の概念そのものを知った瞬間だった。
「話を戻すよ、君は神の代理戦争してもらう。ボクの兄と姉であるデウスとエクスの駒を殺して最終的に兄と姉を殺して欲しい」
「ああ、構わない。じゃあ最後にお前を殺しても?」
「いいよ、むしろそこまでして得るのが自由」
「すなわち唯一神に成れるってことか」
「ピンポーン!大正解パチパチパチ」
バカにした拍手だが志戸は唯一神になれば自由になれることを理解して興奮した。しかし女性が急に立ち上がり止める。
「ーー待ってくださいマキナ様!」
「ん?なんだいアリア?」
「ーーっ!?どうして私の名前を」
「神様に見えないものはな〜い。で?なに?」
アリアと呼ばれた耳長の女性は驚きつつも話を続ける。
「こんな奴が神になってもいいんですか?世界が終わりますよ!それに私達の陣営ってなんですか?」
「君、負けたじゃん」
「そ、それは……」
「時止め能力、あれさぁ…神の御業のひとつだよね?どこで手に入れたの?」
穏やかな表情だった男の娘は目を細め冷ややかな目付きでアリアを見つめると口を噤む。
「………」
「まぁいいよ、あんなもの。あげると言ってもそれ以上の存在が現れたからゴミみたいなもんか。とりあえず君は負け、志戸の指示には従うこと」
「そんな…」
「大丈夫、同胞の殺傷は禁止とするから。それとその頬をサービスで治しとくね」
男の娘が女性の頬を軽く撫でると志戸に殴られ腫れていた頬は綺麗に無くなり痛みも消えた。
「んじゃ、頑張ってね。志戸!待ってるよ」
「待たせねぇように一分一秒でも早く行ってやるよ」
「あはっ!やっぱ君を選んで正解だったよ。楽しませてよね」
男の娘軽く手を振り姿が消えたあと志戸はアリアに近づく。
「喰いたければ喰えばいい。もう私は…」
「興味がない。それより早く他の奴らを殺しに行くぞ」
「は?」
「時止めかなんか知らねぇがそれよりも早くアイツを殺してぇから行くぞ」
「アイツってマキナ様のことか?」
「女装癖野郎。マキナって名前なのか、まぁどうでもいいわ」
「女装癖?」
「知らねぇのか?アイツ男だぞ」
「え?」
「男?」
女性と女の子は魂が抜けたかのようにキョトンする。
「ええーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
「ああうるさいうるさい」
聖堂内に響き渡る声に志戸は耳を塞いだ。
その頃、志戸の元を去った男の娘、マキナは兄と姉のところに戻っていた。
「マキナはエルフにしたんだね」
「そうだよ、エクスは?」
「私は人魚」
「うえ〜、マジ?地味過ぎない?」
「バカにしてると負けるわよ」
「ふふん、シドはそんな奴には負けないよ。そういえばデウスは?どこ行ったの?」
「デウス兄様は人間らしいわ」
「え!?本当に?あの絶滅危惧種を?」
「本当は吸血鬼にしようと思ったけど変えたらしいの、知らないけど。てかエルフも似たようなものでしょ」
「エルフはまだ生き抜く力はあるけど人間なんて寿命が短すぎるもん」
「そうね、それにあのデウス兄様が人間を選ぶなんてね。楽しみね」
「そうだね。早く来ないかな〜」
どこかの展望台で世界を見下ろして椅子に座る二人は嘲笑いゲームが始まる世界を見下ろしていた。