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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第1章 不破武親、戦国時代に転生する
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7 珍妙丸、野盗を退治する

 1554年(天文23年)10月。天才丸と義兄弟の契りを交わしてから半年が経過した。俺は茂別館近くの村を父とともに見回っていた。

 茂別の村は茂辺地川の西岸の狭い平地に形成されており、人口は2000足らずと決して大きいわけではない。だが、100年以上昔から和人武士団の東の拠点として蠣崎家から重要視されている土地である。


 村には和人だけでなくアイヌも大勢居住しており、村は交易で繁栄している。この茂辺地川流域一帯が不破家の領地となっている。


「お! 不破様ではございませぬか! 今日も見回りですかな?」


「その通り。お主も商売のほうは順調か?」


「おかげさまで大繁盛でっせ! 不破様も何か買っていきやせんか?」


「ふむ、では何か新しい書物を一つ頂こうかのう」


「不破様! 先日は盗賊を引っ捕らえていただきありがとうございました!」


「うむ、民を守るのが武士の役目。これからも困ったことがあればいつでも某を呼ぶのだぞ」


「は、ははっ!」


「不破様! 今夜はお店(ウチ)に寄っていきませんか? 美味しいお酒が手に入りましたよ~」


「うむ。よし、息子たちも連れて来るとしよう」


 村における父武治の評判は上々で、道行く商人や村人に次々と声をかけられていく。


「さすが父上ですね。これほど民に慕われているなんて」


「そうじゃろそうじゃろ。政は民のためにある。政を司る者は、民を大事にせねば居る意味がないという者じゃ」


 民を大事に、か。


 確かに、女神たちは世界を安定させるために世界征服をするよう俺や慶広に頼んだ。

 もちろん世界から本当の意味で国境がなくなれば、国同士で血で血を洗う戦をする必要がなくなる。さらには国境がなくなることで物流が活発になり、経済も発展することだろう。だが、それを達成するには多くの犠牲を必要とする。果たして民にそのような犠牲を強いてよいものだろうか?


「父上。ですが、戦は日ノ本じゅう色々なところで起きております。相手が攻めてきたら、武士も民も一致団結して守ることができましょう。しかし戦は守る戦ばかりではありません。相手の領国に攻め入ることもありましょう。それについて父上はどのように考えているんでしょうか?」


「おお! そこに気づくとは、やはりお前は聡いな珍妙丸よ」


「だから、その名前はやめてって……」


「この戦乱の世、大事なのは己が生き延びること。次に自分の領地の民が生き延びること。もしこの2つを達成するためであれば、相手の領国に攻め入ることを厭うてはならん。民も己の暮らしを守るためなら、喜んで戦に加わるじゃろう」


 そうして城下を父と巡っている時、事件は起こった。


「きゃあああああああ! この盗人ぉ!」


 村の奥から響く女性の悲鳴。これはただ事ではないと悟った俺と父は、すぐさま悲鳴の聞こえた方向に駆けていった。



 ■■■■■


 

 現場に到着すると、俺と父は家の中で血まみれの男性の死体を前にしてオロオロと床にひざまずく1人の女性を発見した。 


「いかがなされた!」


「あ、ああ不破様……。盗人が……盗人が、私の兄を殺して家の物を根こそぎ奪って……山のほうに逃げていったのです……」


「なんと! そのような不届き者が!」


「しかし、お前は無事だったのだな」


「は、はい。私は物陰に隠れていて、なんとかやり過ごすことができました……。でも、そのせいで兄は、兄は……うう……」


 随分酷いことをする盗人がいたものだな。勝手に家に押しかけて家の人を殺して家財道具を奪っていくとは。平和に暮らしている民を何だと思っているんだ。

 家の中をよく見てみると、至るところに刀傷がいくつも見受けられる。彼女の兄も刀で殺されたのだろう。


 すると女性は、何かに気がついたかのように家の中を探索しはじめる。 


「あれ? 妹は? 妹はどこにいったの?」


「妹?」


「え、ええ。私は妹のたえや兄の六兵衛とともに3人で暮らしていたのですが、さっきからたえの姿が見当たらなくて……」


 妹さんの姿が見当たらない? そういえば、家の周りに人影らしきものは何もなかった気がするな、まさか、そのたえさんとやらはーー


「どうやら、盗人がお前の妹も一緒に攫っていったようじゃな。早く向かわないと、どこかに売り飛ばされてしまうじゃろう」


「そ、そんな……」


 父の推測にオロオロする女性。そんな彼女の肩を父は優しく叩いた。


「安心せい。某が必ず助ける」


「お……お願いします……」


「珍妙丸、お主は茂別館に戻っておれ。ここからは某の仕事じゃ……って、珍妙丸? 珍妙丸! どこ行ったのじゃ!?」

 

 父はああいったが、女の子が誘拐されているのに助けないのは男じゃない。それに俺には文字通り天賦の武勇がある。なら、早いところ助けに行くしかねえだろ!

 気がつくと、俺は父の制止も聞かず、野盗が逃げたと思しき山のほうに駆けていた。


「あ、丸! 珍妙丸! 待つのじゃ!」


「皆の者! 珍妙丸様の後を追え! そして盗人を捕らえるのだぁ!」


「おおっ!」


 困っている民がいたら見捨ててはいけない。俺は父の教えを胸に、野盗退治に繰り出した。



 ■■■■■



 小一時間山の中を捜索すると、俺はある小さな洞窟で男たちが話しているのを発見した。


「へっへ。やっぱ平和ぼけしている奴の家を襲うのは楽でいいな」


「そうだな兄貴。おかげで金目の物も盗み放題だしよ」


 俺は2人に気付かれないように、そっと洞窟の入口の陰から会話を聞き取る。中の様子は少ししか見えないが、家財道具と思しき食器や棚などがチラリと見える。

さらに洞窟の奥からは、女の子の声も聞こえる。口を縛られたかのようなうめき声、どうやらたえさんもいるようだ。


 よし、踏み込むぞ!


「お前らか! 村の家を襲って、家の物を盗んだ盗人というのは!」


 俺は勇気を振り絞って、野盗の潜む洞窟に足を踏み入れた。


「あ? なんだこのガキ?」


「ガキじゃねえ。俺は不破兵部少輔武治ふわ・ひょうぶしょうゆう・たけはるが息子、不破珍妙丸だ!」


 勇気を出して洞窟の中に入ると、案の定、盗品らしき家財道具一式と奥に縛られている女の子がいた。さらに、俺を遮るように身なりの汚い男が2人、脇差を持って俺の前に立ち塞がる。


「へっ、珍妙丸だって? 変な名前だぜ。ガーハッハッハ!」


「な、なんだとっ!」


「おっといけねえ。仮にも、あの不破兵部の息子、なんだもんな」


「そうだ兄貴。このガキもこの女と一緒にどこに売り飛ばしてしまいやしょう。男だと大した金額にはなりやせんが、金が貰えるなら別に構いやせんでしょう?」


「おう、そうだな。じゃあ珍妙丸とやら。俺様と一緒についてきてもらおうか」


 俺が子どもだからって、調子に乗りやがって。俺と少女をさらおうとしたこと、今に後悔させてやる!

 さて、少女と家の物を根こそぎさらったこの男たちの戦闘能力を確認してみるとしよう。


――――――――――――――――――――――――――――


 名前 伝吉


 HP 860/860


 MP 50/50


 攻撃 108


 防御 97


 魔攻 19


 魔防 24


 敏捷性 48


 名声 1126


 状態異常 なし


――――――――――――――――――――――――――――



――――――――――――――――――――――――――――


 名前 弥次郎


 HP 870/870


 MP 45/45


 攻撃 114


 防御 106


 魔攻 8


 魔防 8


 敏捷性 36


 名声 1053


 状態異常 なし


――――――――――――――――――――――――――――



 大口を叩く割には、戦闘能力は兄よりも低い。所詮は弱い人間から物を盗むしか能のない卑怯な人間。この俺が武士らしく成敗してやる!


「盗人、覚悟ぉ!」


 俺は全速力で2人の男に斬りかかる。


「ふん、所詮はガキ。ガキのなまくら刀で何ができ……ぐわあああああああっ……!?」


 油断した隙をつき、俺は体格が小さいほうの男を一振りで斬り伏せる。


「あ、兄貴! ……はっ!」


「せいやああああああ!」


「がっはあああっ……!」


 さらに返す刀で、大柄なほうの男の胴体を斜め十字に斬る。

俺は2人を斬ったあと、後ろを振り返る。男たちはそのまま倒れて動かなくなっていた。

 

「だ、大丈夫か!」


「んっ……! んんんんっ……!」


「待ってろ。今すぐ解くからな……」


 俺はたえの元に駆けつけると、縄を小刀で斬って解いた。


「はっ……。はああああっ……!」


「よしよし、大丈夫だ。俺がお姉さんのもとまでしっかり届けるからな」


 女の子といっても、たえはおおよそ中学生くらいの体格。6歳児の俺の体が背負うにはかなり大きい体であった。だが、俺の筋力は大人よりも強い。おぶって麓まで行けるはずだ。家財道具は数が多すぎるから、あとで父の家来に任せるとしよう。


「やるじゃねえか。だが、テメェはここまでだ」


「!?」


 しかし、野盗を倒して安心したのも束の間、俺の周りには身なりの悪い男たちが大勢現れ、俺と少女を包囲していた。


「親分の仇、ここで取らせてもらうぜ! 覚悟しろお!」


 全員刀を持って一斉に俺たちに襲い掛かる。まさかコイツら、この2人の子分か!? 

 確かにたえの家が裕福でないからといって、家財道具一式を運ぶのに2人だけでは手が足りるはずもない。コイツらも関わっていたのだろう。

 仕方がない。こうなったら一気に片付けるぞ!


「なあっぷ!?」


「せいやあああ!」


 俺は一心不乱に刀を振るい、1人、また1人と相手を次々と斬っていく。そして血で刀の切れ味が鈍ると、倒した野盗の刀を奪って他の野盗を次々と成敗していった。途中、家財道具が何個も割れていったが、女の子1人の命には換えられない。

 そして最後の1人を仕留め終わると、俺は女の子を連れて洞窟から脱出した。

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