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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第4章 異世界「ミズガルズ」への使節団
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64 ラウラの苦い初陣

 ディンケラ山賊団と戦闘を開始してから、およそ1時間が経過した。

 場所はセーデル王立士官学校とヴェーテ村の間にある山道。周辺には木々が沢山生い茂っていて、大人数を横に配置するのは難しい地勢であった。

 人数で劣る俺達はこの地勢を利用して、これらの木々の陰に隠れながらゲリラ戦術をとっていた。


 だが、戦況は思わしくないものであった。


守護者の太刀筋(ヴェヒター・デーゲン)!」


 ラウラが隙を突いて頭目であるゴッドフリードに斬りかかる。だが、ゴッドフリードはそれでやられるような男ではなかった。


「安易に魔法に頼るたあ、大したことねえ嬢ちゃんだなあ」


「!」


 ゴッドフリードは、魔法も使わず片手だけでラウラの渾身の一撃を食い止める。

 伊達に大陸中に名を轟かせている山賊ではない。命のやり取りをする中でも余裕の表情を見せている。それを見たラウラは、間をとって後ろに下がらざるを得なかった。


「なんてことッスか……」


「隊長! 危ない!」


「へ……? ――うわあああ!!」


 しかし戦場に息つく暇などない。山賊の1人が斧でラウラの首をはねようと大きく横に振るう。 

 が、ラウラは持ち前の素早さでしゃがみ込み、間一髪で事無きを得る。


「危なかったッス……」


「ラウラちゃん……」


「武親、よそ見するな!」


「おっと、いけね」


 そして息つく暇が無いのは、俺達も同じだった。

 護衛小隊の皆も頑張ってくれてはいるが、さすがに防衛線を突き破ってきた何人もの構成員が俺達の元にも襲い掛かってくる。


「はあっ!!」


「ぐわああああ!!」


 だが相手が少数であるのが幸いし、1人、また1人と次々に斬り伏せていく。数人程度であれば俺の敵ではない。


「ハッ……それでもやっぱ、キツイな」


「疲労で太刀筋が安定せぬ……」


「拙者も同じくであります……備中守殿」


「矢も狙いが定まらないわね……」


 しかし疲労の影響は既に出ている。体力と集中力が底を尽きかけている状態だ。

 そんな俺たちの元に一時退避してきたラウラが走ってきた。


「ハァ……ハァ……」


 足取りの重いラウラを抱きかかえると、彼女の顔や服が汗でぐっしょりと濡れていた。

 何せ、彼女にとってはこれが初の実戦。訓練での模擬戦と違い実戦では予期しない敵の動きも多いことだろう、知らず知らずのうちに負担が重くなっていたようだ。


「ご、ごめんなさいッス……。偉そうに魔法とか、歴史とか教えておきながら……自分が、情けないッス……」


「ラウラ……」


 予想以上の激戦で、すでに護衛小隊のうち十数名が戦死。

 ただ、それ以上に山賊団のうち150人近くが地面の上に斃れている。初実戦にしては本当に良くやったほうと言えるだろう。

 もっとも、山賊側が隊員を生け捕りにしようとしていたため、そこが付け入る隙となっていたのも要因ではあるが。


「野郎ども! 生け捕りはやめだ! 全員ぶっ殺して宝を奪え!」


「オウ!」


 だが生け捕りをやめた山賊は凶暴性を増し、次々に隊員を倒していった。俺はラウラの頭を撫でながら諭した。


「慶広、ラウラちゃん、これ以上の戦闘は危険だ。別に俺達は山賊討伐の任務を請け負っているわけじゃない。ある程度、山賊団にダメージは与えたんだ。ここは退却した方が安全だ」


「武親さん……すまないッス……」


「だが、誰が殿(しんがり)を務める? 相手は余たちを限界まで追い詰めるつもりだぞ」


「そうですね……。ディンケラ山賊団は、一度襲ったらしつこいことで有名ですから、振り切るのは容易じゃありませんね……」


 確かにそれは分かっている。だがゴッドフリードはともかく、他の部下は俺のチート能力であっさり倒せるレベルだ。だったら……


「――俺がやる」


「何だと?」


「た、武親さん……正気ッスか……?」


「慶広は正使、ラウラは隊長。どちらも俺たちにとっては欠かせない人材だ。あんたたちを殿(しんがり)にするわけにはいかないさ」


 それにこれ以上の犠牲を出すわけにはいかない。ゴッドフリードと直接対決しなければ、少なくとも使節団の皆と生き残っている隊員を逃がす自信はあるしな。

 味方の退却を最優先に、相手を無理に討ち取ろうとしないのが殿の常識であるとはいえ、あわよくば頭目以外全員を討てるかもしれない。


「であれば、私も殿の任に就きます」


「ラグンヒルさん?」


「護衛の任は最後まで果たしてみせます。使節団の人に、負担はかけさせられません!」


 そう宣言するラグンヒルの顔は、使命感に満ち溢れていた。護衛部隊にもプライドやメンツというものがある。これは断るわけにもいかないな。


「よし、一緒に行こう」


「はい!」


 こうして、俺とラグンヒルの2人で殿を担当することになった。


「! お二方とも、危のうござる!」


 季貞の指示を受け、俺は再び刀で山賊を3人斬り捨てる。

 時間が無い、他の人には急いで戻ってもらわないと。


「他の皆! 早く逃げて!」


「皆の衆。余たちもここから離れよう」


「御意!」


「退却、退却ー!!」


 ラウラの命令によって、戦闘を継続していた隊員も士官学校方面に退き始める。


「では、やりましょうか!」


「合点承知だ」


 拳を合わせる俺とラグンヒル。


「俺の名は不破五郎武親! 我こそはと思う者は、我が首を捕って手柄とせよ!!」


 俺は山賊に向かって腹の底から咆哮をあげる。

 こうしてコタンシヤムの戦い以来、人生で2度目の殿軍がここに始まった。



 ■■■■■



「だいぶ、山賊団の数も減りましたね……」


「ハァ……ハァ……。どうやらそうみたいだな」


 殿の任に就いてから30分後。俺とラグンヒルの奮戦の結果、ディンケラ山賊団はその数を50人までに減らした。

 他の使節団一行や護衛小隊の姿が完全に視認できなくなったタイミングを見計らい、俺達もようやく退却を始めることが出来た。


 当然、俺達も命を失うわけにはいかず、迫りくる山賊に要所要所で攻撃を加えつつ全力で慶広たちの後を追った。

 それでも、士官学校が見えるまでは本当に地獄そのもの。山賊と言う名の死神が、容赦なく俺達を三途の川の向こうに追いやろうと血眼になってつけてくる。


 そして士官学校がようやく視界に飛び込んできたところで、山賊団はついに追撃の手を止め、どこか山のほうへと立ち去っていったのだった。


「ふう、ようやく山賊たちも観念したか……」


「それにしても……さすが王女殿下と決闘を繰り広げただけはありますね! あの屈強な山賊を、あそこまで軽々と倒し続けるなんて!」


「はははは……どうも。これでも蝦夷地では“熊殺しの五郎”と称されているみたいだからね」


 しかし使節団のメンバーは無事だったが、結果として護衛小隊が壊滅したのは事実だ。

 これだったら、最初から前線に出てきて戦った方が良かったのか……?


「それに引き換え……私ときたら情けないものですね……。かれこれ10年は王国軍に所属しているのに……」


 いや、ラグンヒルたちにも親衛隊としてのプライドがある。最初からそうしてしまっては、彼女たちの沽券にも関わることは想像できる。

 隊員たちの死体は、彼女たちの覚悟の表れと考えるべきだろう。山賊の慰み物となることを良しとしない、高潔さが窺える。


 そういえば、ラウラは大丈夫なのかな……。


「ああ……そう、だな……」


「た、武親さん……?」


「あ、あれ……め、目が……」


 や、やばい……。危機を脱したかと思ったら、急に眩暈が……。

 限界を超えて、体を酷使し過ぎたか……。ダメだ、倒れる……ぞ……。


 士官学校を目前として、俺はとうとう意識を失った。



 ■■■■■



「……良かった。目を覚ましてくれたですね」


 目を覚ますと、そこには白い天井と犬耳を動かすラグンヒルの顔が。 


「ラグンヒルさん? それにここは……」


 体を起こし周りを見渡すと、そこは王立士官学校の医務室。

 多くのベッドが整然と並べられている中、俺の近くには使節団の皆をはじめ、護衛小隊の隊員の姿もちらほらと確認できた。

 だが、ラウラの姿は何処にも無かった。


「一昨日、いきなり倒れたものですから仰天しちゃいましたよ。その後は私が武親さんを抱えて、このベッドに運んだのです」


「ああ、そうかそうか。何せ、眩暈しちゃったもんでな……一昨日?」


「はい」


 あれ? 俺そんなに長い時間寝ていたっけ? ディンケラ山賊団との戦いから、もう2日が経ったのか。

 どうやら俺の体内の乳酸は想定以上に蓄積していたようだ。……よく過労死しなかったな、俺。


「あのゴッドフリード・ディンケラとかいう山賊はどうなったんだ?」


「この士官学校の校長、フルダ・ウルリヒ少将率いる第3師団が討伐に向かったそうです。ただ、相手は大物の山賊。恐らく今回の討伐で捕縛したりは出来ないでしょうね」


「そうか……」


 士官学校の校長は、通例その国の軍隊の将官が務めることが多いから、そこは特段ツッコむところでは無い。

 しかし、一昨日の戦闘で山賊団もその規模を急激に小さくしているにも拘らず、捕縛は困難なのか。考えられるのは、既に拠点を移動したか、他にまだまだ部下を大勢引き連れていたかのどっちかだ。


 それよりも――


「ところで、ラウラちゃん……ミュルダール少尉の様子はどうなんだ? さっきから全く姿を見ていないんだけど」


「そ、それは……」


 はて、一昨日のことが相当ショックだったのか?

 仕方ない、2日も寝たおかげで体力は満タンだし、ラウラを探しに行くとするか。



 ■■■■■



「ここにいたのか、ラウラちゃん」


「た、武親さん……」


 2時間も無人で静かな校舎中を探し回り、ようやくある校舎の屋上でラウラの姿を発見した。

 そんな彼女は、体育座りの格好で顔を膝の間に埋めながら、しかし目は空を見つめている。その目元には涙の痕が。


「こんなところで、一体何を……」


「……グズッ……グズッ……」


 俺が理由を問いただそうとすると、彼女は涙を流し始めてしまった。


「じ、自分は……! み、皆さんの護衛を任された身なのに……! 誇り高き……親衛隊の一員なのに……! なのに……結局自分は、あの山賊に対する恐怖心を抑えきれなかったッス……」


「ラウラちゃん……」


「皆は恐れることなく、戦ったのに……。そ……そんな自分が……惨めで、不甲斐なかったッス……!」


「それは違うな、ラウラちゃん」


「!」


 そんなに自分を責めるなよ、ラウラちゃん。

 俺の目にはしっかり映っていたぜ、あんたがちゃんと山賊団と戦おうと立ち向かった姿を。


「むしろ、初陣でよくあそこまで健闘したと俺は感心している。実戦って、結構難しくて上手くいかないことも多いしさ。……確かに仲間を沢山失っちゃったかもしれないけど、俺としてはあんたを褒めたい。そしてそれは皆同じはずだ」


「た、武親さん……」


「慶広じゃないけど、俺達はまだ若い。次の戦いでちゃんと勝てばいいのさ。さあ、戻ろう。皆が待っているよ」


 それに俺も初陣で敵の総大将に手も足も出なかった苦い記憶がある。そんな経験をしているからこそ、俺はラウラを褒めたたえたい。


「う……うう……うわああああああああん!!」


 ラウラは、俺の胸元に飛びついて号泣した。

 ラウラはチビな俺よりも一回り大きい女の子だが、この時は彼女のことが今までで一番可愛く思えた。


「よしよし」 


 俺は子供をあやすように、再び彼女を慰めた。




「――まさに女たらしだな、武親」


「よ、慶広! なんでここに……」


 ラウラをあやしていると、背後から慶広の姿が。


「何、ラグンヒルから武親がラウラの所に向かったと聞いてな。彼女と一緒にお前を探しに来たのだ」


「あらあら隊長、羨ましい限りですね」


「ら、ラグンヒルさんまで!?」


 慶広の横から、ラグンヒルものそっとその姿を現す。

 しかも、ニヤニヤしながら俺達のほうにむけられた彼女の視線は、どこかキラキラと輝いていた。


「が、ガルバレク軍曹、これは……」


 顔がポッと赤くなるラウラ。だが――


「それでは……私も混ぜてください!」


「え、ええ!!」


 ちょっとラグンヒルさん、タンマ……。

 このラウラを抱きかかえている状況で、さらにラグンヒルにも抱きつかれるようだったら、俺揉みくちゃになっちゃ……。


「えい!」


 ラグンヒルがダイブした勢いで、俺は2人の体に挟まれるように横に倒れた。

 う、う~ん……。これは何て天国……。というか、ラグンヒルさんの尻尾も可愛い……。


 するとこの騒ぎを聞きつけたかのように、次々と使節団一行が屋上に登場してきた。


「な、ご……五郎!? 新三郎様、これは如何なることござりましょうか!? 羨まし過ぎますぞ!」


「あ、逢引き……でありますか……」


「破廉恥至極に候……」


「ちょ、ちょっと! は、離れなさいよアンタ! 何やってるのよ!」


「面白そ~っ! ボクにもやらせて~!」


「ちょ、ちょっと……助けてええええ!!」


 季貞達が俺達の様子に赤面しながら硬直する中、ラウラ、ラグンヒルに次いでリシヌンテにまで抱きつかれる始末。

 ああ、抵抗する気も起きない。もういいや……成り行きに身を任せちゃえ!


 その後、俺は屋上でしばらく3人と仲良く(?)じゃれ合う格好となるのであった。  


「もし間違いが起きちゃったら……責任取ってくださいね。私も、隊長の分も♡」


「ふ、不束者ッスが……よ、よろしくお願いしま……」


「責任って、な~に~?」


「ちょっと、冗談は止めいっ!」


「はっはっはっはっはっはっ!!」




 ――こうして、異世界『ミズガルズ』において使節という名の青春を謳歌している俺達。


 道中で、様々な人や街と接触してきた。色々な物事や文化、事件にも遭遇した。本当にいい経験をさせてもらった。そしてここで出会った様々な経験や人が、後々の世界征服事業において重要な役割を担うことになっていく。


 ――しかし本格的な世界征服への長旅が始まる前に、本拠地・蝦夷地で起こった空前絶後の惨劇の後始末をつけなければならなくなることを、この時の俺達は知る由も無かった。

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