62 武親の新技『斬葬』
約半年ぶりの投稿です。
翌朝、俺は使節団の誰よりも早起きして、士官学校の訓練場で魔法の練習を再開した。
季遠の傷はかなり快方に向かってはいるものの、まだ数日の安静が必要とのことで、俺たちの士官学校滞在もその分だけ延びることとなった。
ならば話は早い。延長した分だけ魔法の練習に励めばいい。昨日は偶然にも何回か魔法が発動することがあった。その感覚さえ思い出せれば魔法を自在に使えるようになるはずだ。
そう強く信じながら、俺は拳大の魔法石を片手に、呪文を唱えながら対象物である等身大の木の棒を魔法で破壊しようと試みる。
「聖女神様の御為に! 炎よ燃え上がれ! 炎撃!」
炎属性の基本的な攻撃魔法、炎撃。強力な炎を魔力で発生、噴射して対象物を焼き払う簡単な魔法だ。要は魔法版火炎放射器と言ったところか。
しかしラウラ曰く、原理が簡単な魔法であるがゆえに魔力を込めやすく、最高位の術者が使えば都市を一つまるごと燃やすことも可能らしい(もっとも、最高位の術者=ヴィクトリアレベルとのことらしいが)。
「ううむ、上手くいかねえなぁ……」
一方の俺はというと、十分すぎる威力の炎を出すことはできるものの方向が定まらず、木の棒の後ろにあるレンガの壁に当たってしまい、木の棒を燃やすまでには至らなかった。むしろ度重なる魔法の炎の熱さにレンガの壁が耐えかねて割れてしまい、ついには壁一面にわたって崩壊してしまった。
そうして魔法の扱いに苦戦していると、訓練場にラウラ駆け足で現れた。
「な、何の音ッスか!? って、じょ……城壁が見るも無残な姿に……」
「あ……ラウラちゃん、おはよう」
「いやいや! おはよう、じゃないッス! 武親さん、何やっているッスか! さっさと片付けるッスよ!」
「あ……ハイ」
俺はラウラに叱られるままにレンガの片付けを始める。そのうち、騒ぎを聞き付けた護衛部隊や士官候補生、さらには使節団の皆までもが続々と訓練場に集まり、ギャラリーを形成した。
結局俺は士官学校の教員にも厳しく叱られ、小一時間の説教の後に使節団や護衛部隊の人たちも加わって片付けを再開した。
「なんでこんなことになったんスか……」
「いや、朝早くから魔法の練習をしていてさ。魔法の技術はいずれ蠣崎家にとっても重要な技術になる。だから一日も早く習得したいと思ってはいるんだけど……見ての通り、方向が定まらなくてさ」
「全く……これが集団訓練や実戦だったら、味方に相当な被害が出ていたところッスね」
「面目ない……」
実際の戦では同士討ちが発生するのはある程度避けられない面もあるが、自分がそれに加担する状況はさすがに避けたい。特に今回のような被害が実戦で起こったら、一回の攻撃で味方が殲滅されてしまうこと間違いなしだ。
「されど斯様に壁を炎で破壊できてしまうとは、五郎が魔力、げに恐ろしきことよ……」
「運よく敵部隊に命中できればこの上ない戦果となるが……リスクが大き過ぎて、使い物にはならんな……」
「武親殿以外全員敵であれば、いらぬ心配でありますがな」
まあ、茂別館の戦いのような状況で炎撃が使えていれば戦況を大いにひっくり返せてただろうけど……いや、そんな状況になった時点で蠣崎軍に勝ち目は無くなっているはずだからな。
「しっかし、どうしたらこの炎を制御できるようになるのかしら。この先こんなことが続くようじゃ、武親が練習する度にどっかの建物が木っ端みじんになるってことじゃない」
「何か解決策はないものでしょうか……」
確かにこのままじゃ練習もままならない。最悪は練習で壊した建物の弁償を全て蠣崎家がする羽目になるかもしれない。はてさて、どうしたものか……。
するとここでラウラから解決策が提案された。
「……もしかしたら刀を振ったほうが、より魔力のコントロールが効きやすくなるかもしれないッスね。先日のクラフツマン工房の時は、問題なく魔力を自在に扱えていたように見えたッスから」
「そうか。言われてみればそうかもしれないな。物に魔力を込めれば、作用方向なんて気にしなくて済むかもしれないな」
「そうなると、単純な攻撃魔法よりも武器を強化する魔法を組み込んだほうが良さそうッスね」
武器を強化する魔法か。クラフツマン工房の実験では刀に魔法石を練り込んだけど、今回は魔法石の魔力を俺の体を通じて刀に込める感じになりそうだ。
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「よし、やってみるか!」
瓦礫を片付けた後、俺たちは一旦士官学校を離れて近くの土漠に移動した。ここなら大掛かりな魔法を発動させても影響は少なさそうだったからだ。
そして俺はラウラのアドハイス通り、強化魔法で刀を強化して近くの大きな岩に斬りかかる練習に取り掛かった。
「聖女神様の御為に! 刀よ鋭く! 鋭利化!」
駆け足で岩に接近し、岩の真上に飛び上がってそのまま思いっきり刀を振り下ろす。すると、岩は薪割りのように縦一直線に真っ二つに分かれた。
「おっ、あれほど大きな岩がバターのようにスパッと斬れたぞ」
普段の刀を使った鍛錬でも小さな岩を斬るのは造作もないことではあったが、若干の手応えを感じることはままあった。
しかし今回はその手応えが全くなかった。これは魔力を込めた成果なのだろうか?
「ラウラちゃん、金属の棒とかあるかい? もう少し威力を確かめたいんだ」
「金属の棒はないッスけど、訓練用の鋼鉄の甲冑を持ってきたからそれを用意するッス」
しばらくして、ラウラは部下とともに複数の鋼鉄の甲冑を新しく用意した太い木の棒の上に置いた。
「隊長! 準備完了致しました!」
「了解ッス! 危ないから全員大きく退避するッスよ」
「はっ!」
ラウラの指示で護衛部隊の人たちが100メートル以上後退する。これなら思い切り魔力を込めて刀を振ることができそうだ。
「よし行くぜ!」
そして早速甲冑を壊しに行こう刀を構えたその時、ラウラが俺の肩を叩いた。
「どうしたんだラウラちゃん?」
「武親さん。思ったんスけど、一本の刀を両手で握るより一本ずつ持ったほうがより強い魔力が出そうな気がするッス」
「つまり二刀流か……なぜそう思ったんだい?」
「単純にそのほうが込められる魔力量が増えるからッス。武親さんの場合は魔力量自体は凄いものを持っているッスから、それを引き出すためにも二刀流を強く薦めるッス!」
二刀流。フィクションの世界では手数が増えるという理由で採用しているキャラが多いが、現実には刀一本を扱うよりもコントロールが難しいとされている、
だが、それは純粋に刀そのものの姿形で白兵戦に臨もうとするがゆえに言われているのであって、魔力を込めてその波動で少し遠く離れた距離から複数の相手を攻撃するのであればそこまで難しい話ではない。まあ、それでも刀一本よりコントロールに気を使うのは変わりないが。
とりあえず俺はラウラの助言通り、刀を二本に持ち替えて再び甲冑目掛けて突撃した。
「よし、今度こそ行くぜ! うおおおおおおおおお……!」
俺は懸命に足を走らせながら、魔力を両の刀に込める。
「聖女神様の御為に! 刀よ鋭く! 鋭利化! そして……炎よ燃え上がれ! 炎撃!」
詠唱とともに刃に魔法の炎が激しく燃え上がる。そして俺は甲冑たちの目前で急停止し、思い切りよく両の刀をクロスするように振り下ろす。
すると刀から放たれた炎と衝撃波がまっすぐ甲冑に向かい、そのまま甲冑に次々と命中して秒で粉砕していく。気がついたときには木っ端みじんになった夥しい数の鉄の破片が周囲に飛び散っていた。
「す、凄まじき威力にござるな……」
その光景に一同は唖然となった。
「だが炎撃を単体で使っていた時と違い、命中精度もしっかり確保されている。これは実戦でも使えそうであるな」
刀に魔力を込める、か。魔法を単体で扱うことになれていない日本人やアイヌにとっては、そのほうが魔法を習得できるかもしれないな。
後日、土漠で開発された新技は『斬葬』と命名された。今後も改良を加えて俺の代名詞とも呼べる技に発展しくことに期待しよう。……ネーミングが厨二臭いのはご愛嬌ということで。




