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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第4章 異世界「ミズガルズ」への使節団
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61 使節団、魔法を試す

 特別講習終了後、俺達は別の校舎にある訓練場を訪れていた。


威力増強(フェアメーラング)!」


「お、やってるッスね」


 訓練場は士官学校の主要施設がある中央塔からかなり離れた敷地の縁にある。しかも訓練場自体はここ以外にも7箇所ほど存在し、模擬戦も行われているらしい。ラウラ曰く、さきほど季遠とエイヴィンが決闘を行った中庭もかつては訓練場だったようだが、狭いため訓練場としての運用は何年も前に終わったらしい。


 そこでは、士官候補生たちが懸命に汗を流しながら訓練に臨んでいた。


「突撃!」


「おおっ!」


 そして候補生達が槍を力強く持ちながら、一斉に目標物である金属の棒数本に向かって前進。そのままの勢いで破壊することに成功する。

 戦場さながらの迫力に、俺達もついつい見とれてしまう。


「お~! すっご~い!!」


「なんて攻撃力なの……。木古内(リコナイ)や勝山館で対峙した兵とは比べものにならないわね」


「ふっふっふっ、それが士官候補生が優秀たる所以ッス。それに今のは強化魔法で攻撃力を上昇させてからの突撃ッスから、威力が高いのは当たり前ッス!」


 俺達の前で堂々と勝ち誇るラウラ。

 なるほど、攻撃魔法や防御魔法のほかに強化魔法もあるのか。強化魔法なら敵に魔法を使ったことを悟られにくいだろうし、戦国大名との戦では結構重宝しそうだな。


 すると季貞がさらに興味を示したようで、候補生の練習をさらに近くで見学しようと彼女の左に移動する。


「……某も試したいでござる」


 試したい、つまり魔法を使ってみたいということか。どうやら士官候補生の姿を前に燃えてきたようだ。


「宗継さんもやりますか?」


「はい。拙者も異国の魔法とやらが気になるでありますからな」


 宗継も挑戦するのか。だったら、ここは……


「俺もお願い、ラウラちゃん」


 乗らない手は無い。俺も魔法のコツを早く知りたいしな。


「武親さんまでやるつもりッスか? と言うことは、この流れでレスノテクさんも……」


 流れを読んだラウラが、後ろにいるレスノテクのほうを向く。


「あんたたちから先にやってていいよ。アタシは後でやるから」


 しかしレスノテクは遠慮がちに、俺達に先に順番を譲った。ではお言葉に甘えて、先にやらせていただこう。

 あ、でも季貞や宗継の場合は魔法石が必要になるよな。クラフツマン工房で渡された記憶もないし、この2人どうやって魔法を発動させる気なのだろうか。

 すると、慶広は2人に大量の青い半透明な宝石が入った袋を渡した。


「し、新三郎様。これは……?」


「実はクラフツマン工房を見学した日の夜、士官学校で軍事訓練体験があることを思い出してな。翌朝、魔法石を士官学校に送るようテオドル工房長とアガーテに手紙で頼んだのだ」


「なんと! 有り難き幸せ!」


 なるほど、つまりこの青い半透明の宝石が魔法石ということなのか。いざ宝石の形で見てみると、ルビーにも劣らない輝きと美しさがあるな……。 


「魔法石は渡したから魔法の発動もできることだろう。というわけで、武親、季貞、宗継。余も後ろからお前たちを監督することにしよう」


「はっ!」


「頑張ってね~」


 同じく後方から慶広とリシヌンテの声援を受けつつ、俺達も魔法の訓練に臨んだ。教官はもちろんラウラだ。


「では、魔法を発動させる手順なんッスが、技名を唱える前に1つ始動キーとなるものが必要ッス」


「始動きー、とな? それは如何なるものにござるか?」


「魔法は普通に技名を唱えるだけでは行使できないッス。もしそれで行使できてしまうなら、至る所で魔法が暴発してしまうッス」


「暴発……でありますか」


「そこで始動キーと呼ばれる短めの呪文が欠かせないッス。始動キーを唱えることで、自分の中にある魔力を初めて行使できる状態に持っていくことができるッス」


 へえ、そんな仕組みがあるとはな。でも確かに理に適ってはいる。技名だけでホイホイ魔法を発動できたら、今頃、士官学校の校舎は、いやミズガルズじゅうの都市や村が瓦礫の山となっているだろうからな。


「始動キーってのは、自分で設定出来るのか?」


「それは難しいッスね。出来ないことはないッスが、言葉の組み合わせによって使用可能になる魔力量が大きく左右されるッスから。少なくとも王立士官学校の生徒は、『聖女神様の御為に!』が指定された始動キーの形ッス」


「別に魔力とやらが込められるのであれば、何でも良いように感じるでありますが」


「……今の所、これが王国内では一番魔力を引き出せる形とされているッスから」


 『聖女神様の御為に!』ねえ。さすがパトロヌス教が根付いているだけあって、信仰告白が始動キーとして使われているようだ。これは重要事項だ、忘れないうちにメモしないと。 


 しかし言葉の組み合わせを問題とするならば、もっと使用可能となる魔力量が多くなる組み合わせも存在しそうだな。いずれ、模索してみるか。


「もっとも、戦略魔法や準戦略魔法の場合は、始動キーのほかにもう1つ長めの呪文が必要となる技も多いッスが」


「へ~、じゃあボクがふだん不思議なチカラを使う前に唱えていたのも、その“しどうきー”なのかなっ?」


「自分はその戦いにはいなかったから分からないッスが、そうかもしれないッスね」


 とラウラの説明が続いている所で、慶広が訝しげな表情を浮かべて考え込んでいた。


「……変だな。余が陰陽の術を使う時は、札さえあれば始動キーの必要性など皆無に等しかったが」


「まあ、魔力かそれに準じるものが内部に込められた道具を使えば、基本的には始動キーが不要の場合が多いッス。道具が始動キーの役割を果たすわけッスから」


 重要事項追加。始動キーは魔法的な能力を秘めている道具で代用可能、と。


「じゃあ、なんで訓練場にいる士官候補生たちは始動キーを唱えて魔法を発動させているんだい?」 


「道具を使えば魔法を行使するのは簡単な話ッス。でもそれを続けると魔力の行使が道具頼りになって自力で魔法を発動させるのが難しくなることがしばしばあるッス。なので魔法の実技訓練の場では、魔道具なしで魔法を使わせることによって魔力を鍛えさせているッス」


「なるほどね……」


 便利さは衰えを産むという理屈はミズガルズでも普遍的に通用する真理のようだ。


 ともかく、魔法発動にあたって大筋は何とか理解した。『習うより慣れよ』、後は実践だ。



 ■■■■■



「ぬう、上手く出来なかったでござる……」


「拙者らはやはり、筋がよろしくないでありますか……」


「王国軍、マジパネェ……」


 校舎内の廊下で、俺と季貞、宗継は落胆して項垂れながら歩いていた。

 一応練習はしてみたけど、魔法を扱い慣れない俺や季貞達は結局魔法を上手く発動させることは叶わなかった。

 それでも俺はなんとか、数回に一回は小さな現象を安定して起こせるまでには成長した(途中、魔力が暴発して訓練場を一つ潰してしまったが)。だが、他の3人は全くからっきしだった。

 改めて俺は、王国軍の練度の高さを思い知ったのであった。


「こう考えると、リシヌンテはやっぱり凄いよね。それに引きかえアタシなんて……」


「レスノテク……」


「まあ、一般的な王国人は幼少期からコツコツと魔法の練習をしているッスからね。ましてや季貞さんやレスノテクさんは魔法石を使っての魔力行使が求められるッスから、他の人とは勝手が違うのかもしれないッスね」


 確かに季貞、宗継、レスノテクの場合はその理屈で通るだろう。しかし数値上は高い魔力を持つはずの俺までも上手く行使できなかったのは予想外だった。魔法石を練り込んだ武器があれば話は別だったんだろうけど……。


「1日でコツを掴める人はほとんどいないッス。まだまだこれからッス!」


「そうだ。余も小さい時は数年に及ぶ鍛練を重ねてようやく今の水準に達したのだ。つまりは刀や弓矢の鍛練と同じ。余達はまだ若い、鍛錬を積む時間など腐るほどある」


「ま、まあ、それもそうよね」


「先は長うござるな……」


 慶広、その小さい時ってのは転生後の話か? それとも前世「知恩院海翔」として生きていた頃の時代か? ま、深くは突っ込まなくていいか。


「ところで、小平藤兵衛尉は恢復したでござろうか?」


「季遠か……。様子を見に行こうか」


 季遠、脇腹の傷は大丈夫なのかな……。そこまで大きな傷ではないと思うけど、お見舞いに行ってやるとするか。

 俺達は士官学校近くの宿に向かう前に医務室へと向かった。



 ■■■■■



治療(ハイルング)。……これで、大丈夫だと思います」


「かたじけなく候」


 医務室に戻ると、中央のベッドでラグンヒルの治癒魔法を受けながら治療している季遠の姿があった。

 医務室のベットは戦闘訓練で負傷した士官候補生で埋まり、本来の医務室担当の先生は他の士官候補生の治療に当たっているようだ。


「藤兵衛尉殿! 傷の具合は如何でありますか?」


「完治には至らぬも、血は止まり候」


「明日には、再び皆さんと一緒に歩けるまでには回復させました」


 季遠は俺達に決闘の傷口の跡を見せた。


「戦場の傷に比べれば浅く候」


「おお~! あんなに傷が深かったのに、もう塞がってる~」


 季遠の腹部の傷はレイピアが刺さってできたものであり、普通は包帯や止血用の布で縛らないと血は止まらないはず。決闘からまだ三刻(約6時間)ほどしか経っていない。なのに、季遠の傷跡はもう塞がっている。


「しかしラグンヒルさん。これ、魔法で治療を?」


 俺達が医務室に着いた時にも、ラグンヒルは技名を唱えていた。ゲームなどでおなじみの回復魔法もミズガルズにはあるのかな?


「はい。わりと初歩の回復魔法ですね」


「回復魔法は光属性になるッス。今、ガルバレク軍曹が使った治療(ハイルング)は、軍人であれば誰もが習得している魔法ッス」


「ただ……基本的に軽い傷にしか効かない、そういう魔法さ」


「うわあ!」


 気配を全く悟らせず、俺達の後ろから校長のフルダが登場した。

 まったくビックリさせないでよ。心臓が止まると思ったじゃないか。


「そんなに驚くことはないだろう」


「だ、だって~……ビックリするものはビックリするんだもんっ」


「ここまで気配を消すとは……まさかくのいちではありますまいな?」


「クノイチ? なんだいそれは?」


「……日本の女スパイの呼び名です」


 確かにフルダの気配を隠す才能は忍者にも劣らぬものがある。盗み聞きが趣味のヴィクトリアとタッグを組めば、最強のスパイとなるだろう。


「ところで校長先生は、何故医務室に来たッスか?」


「君たちと同じく、エイヴィンの見舞いに来たのさ。外国の使節に決闘を申し込むような愚か者とはいえ、あれでも私の息子だからね」


 そう言ってフルダは、奥のほうにあるベッドを指差した。窓を眺めながら黄昏ているパジャマ姿の青年がそうらしい。


「ま、あのバカ息子は私が相手するから、君たちは早いところ宿に戻ると良いさ」


「そうッスね。じゃあ皆さん、宿に向かうッス」


「相分かり申した」


 俺達はエイヴィンを母親のフルダに任せて、今日の所は宿に戻ることにした。

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