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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第4章 異世界「ミズガルズ」への使節団
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60 世界樹

 決闘終了後、俺達は学校敷地内にある(タワー)の最上階、校長室に来ていた。

 この塔は、士官学校の教官や生徒会、各委員会のための部屋が集まった重要な施設らしい。そして肝心の決闘を行った季遠とエイヴィンはと言うと、怪我をしているため医務室に運ばれた。


「さて、『改めまして、ようこそセーデル王立士官学校へ!』と言ったところかな? 私はフルダ・ウルリヒ。この士官学校の校長さ」


 校長室の革製の椅子についているのが、校長のフルダ・ウルリヒ。さきほどの決闘で司会を務めた40代女性である。そして名前からも分かる通り、フルダはエイヴィンの実の母親である。

 髪は短く揃えられており、中年女性にしてはかなりスラリとした美しい体をしている。そして目元はエイヴィンと同様に吊り上がったキツネ目であるが、息子よりも鋭い眼光を放っている。


 なるほど、親子なら顔つきが似ているのも納得だ。もっとも校長のほうがサッパリとした性格という感じがするから、中身はまるで似てないけど。


「さっきは私のバカ息子がお世話になったみたいね。決闘の件についても、私はミュルダール少尉より話を聞いた時、最初は断ろうと思っていたけど」


「ではなぜ許可を?」


 するとフルダは、椅子を後ろに回し俺達に背中を向けてこう言った。


「――神託(オラクル)さ」


「何?」


「王女殿下とフォーゲルクロウ卿から例の神託(オラクル)の話は事前に聞いていた。あそこにある(・・・・・・)世界樹の異常が原因で数々の世界が融合した結果、ミズガルズと君たちの世界もまた融合したということだからね」


 フルダの人差し指が指す後ろの窓。その先には信じられないものが映っていた。


「あそこ? ……え!?」


 俺達もフルダの後ろの大きな窓に近付いて外を見てみる。


 ――すると遥か遠方、地平線の果てに天を貫かんばかりの極太の幹を有する大木が微かに見えた。方角は、士官学校を起点にして東南東。


「あ、あれが、世界樹(ユグドラシル)……」


 あまりに圧巻のその光景に、俺たちは全員呆気にとられ、しばらく一言も発することもなくその場に立ち尽くした。


「武親……仰天ものだな、これは。かの女神たちの話に出てきた世界樹(ユグドラシル)が、ここから見えるものとは」


「あ、ああ……。クヌーテボリにいたときは全く見えなかったけどな」


「確かに、クヌーテボリからは地形的に東のエステルピッゲン山脈で遮られているッスからね。視認できなったのは仕方ないッス」


 しかしながら、士官学校からじゃ世界樹ユグドラシルのどこに異常があるのかは、ハッキリわからなかった。何しろ世界樹(ユグドラシル)は、青空に半ば溶け込んだようにその面影が薄く映っていたからだ。


「それに、世界樹(ユグドラシル)が根を張っているのは隣国のオーケアノス帝国ッス。だから、自分たちは今回近づくことができないッス」


「オーケアノス帝国?」


「この大陸――アイオニオン大陸東部と、東のオミクレー海上にある島々を数多く領有している巨大な帝国ッス」


「しかも強力な鎖国政策とブロック経済を敷いているおかげで、高級官僚や私のような高級軍人も容易には入国できない状態なのさ。おかげで私たちもフォーゲルクロウ卿の神託(オラクル)の裏取りもできず、困っているのが現状なのさ」


「なにしろ、陸上の国境線は全て高さ十数メートルはある二重の巨大な城壁が築かれ、海軍もミズガルズ最強と謳われているッスからね……」


「我が国も急速に海軍力の向上を目指してはいるが、かの国の海軍に勝つにはまだ時間がかかるだろうね。陸上戦力なら負けない自信があるのだが……」


「少数の元オーケアノス人によると、いかなる理由であれ国外に出ることは反逆罪とされ、発見次第その場で殺害していいことになってるそうッス。だからあの国に外交官という役職はないみたいッスよ」


 鎖国か。江戸時代の日本も鎖国だったとは言われてるが、実際は中国や朝鮮、アイヌにオランダとは貿易していたから厳密な鎖国ではない。

 しかし2人の話を聞く限り、オーケアノス帝国という国はそれ以上に厳格な鎖国を行っているようだ。

 

「原因や理由はともかく、この士官学校に異界からはるばる剣士がお出ましになった。私も軍人として異世界人の実力とやらが知りたくなった。だから私も、息子を使って腕を試させたくなったのさ」


「ほう……」


 剣士、ねえ。

 さっきエイヴィンの応援に駆け付けていた士官候補生たちは、自分たち、つまりセーデル王立士官学校の士官候補生と互角に渡り合える人物はそうはいないとか言ってた。

 けど、俺達にしてみれば戦乱の世を生き抜くうえで武芸は欠かせなかったから、なんか季遠が過大評価されているようにも感じた。


 それにこの時代の有名な剣豪なら、塚原卜伝や上泉信綱、伊藤一刀斎に柳生宗厳など枚挙に暇がない。『ミズガルズ』の人たちが彼らに出会ったら、どれほど大きな驚嘆で迎えられるのだろうか?


「それと、これも事前に聞いた話なのだが、君たちの世界では魔法に精通した人間がほぼ皆無らしいね?」


「はい、そうです」


「ならば丁度良い。この機会に魔法を使った戦い方を学ぶといい。合間に周辺地域の視察を入れつつ、ここで魔法の練習をするというのも良いだろう。ミュルダール少尉も教官としての任を請け負っていることだしさ」


「ふむ……とくと学ばせてもらおう」


 俺達はラウラにつれられるままに、校長室を出て教室に連れて行かれることになった。



 ■■■■■



「とは言っても、使節団の皆さんはそもそも魔法にはどのようなものがあるか良くは知らないッスよね。だから先の戦争で実際に王国軍が使用した魔法などについて、自分が詳しく解説するッス」


 教室につくと、ラウラがようやく教官らしい顔つきで誇らしげに解説し始める。その手には、細かい字で埋まった紙が何枚もあった。特別講師ラウラによる臨時講習の準備は万端のようだ。


「と、その前に……蝦夷地駐在の王国軍の報告によれば、蝦夷地の皆さんは一部を除いて魔法に関する適性が低いという話らしいッスね」


「なんと……?」


「試しに蝦夷地の住民を身分ごとにランダムに数人選出して魔法について7日間教えたところ、全員が魔法に起因する現象を一つも起こせなかったという結果が出たらしいッス。平均的なミズガルズ人であれば、3日あれば現象を一つや二つ起こせることを考えると、魔法の素質は低いというほかありません」


「悔しいけど、当たっているね」


 日本人が魔法に対する適性が低いことは知っていたけど、いざデータという形で教えられるとやはりがっかりしてしまうのが正直なところだ。アガーテとテオドルが魔法石の研究をしてくれているのが、せめてもの救いか。


「まあ、魔法の適性に関しては魔法石の研究成果に期待するとして、まず魔法を覚える前に頭に入れてほしいのは、魔法を発動するタイミングをきっちり見定めることッス」


「なるほど、むやみやたらに乱発出来ない分、使い所を誤らないことが大切だな」


「その通りッス」


 そう考えると、俺や慶広、リシヌンテは日本じゃ破格の存在ということか。

 俺達のMPと魔攻、魔防の値は高い。多少の見誤りはいつだって修正できる水準にあるってことだ。


「戦争で猊下やラーゲルクヴィスト少佐などが使ったのは、主に局地での戦闘に適した魔法ッスね 灼熱嵐グルート・シュトゥルムは森の中で行使すれば、森林火災を引き起こす火計として使えるッス。空間障壁(レーレ・シュッツ)は完成してしまえば、敵の進行を一定時間遮ることができるッスからね。突然進撃できなくなった一瞬の隙を突いて攻撃という戦術もよく使われるッス」


「ラーゲルクヴィスト少佐……かの化け猫のことでありますか?」


「ば、化け猫?」


「余達の国では、人間以外の種族という概念が無くてな。獣人やエルフなどは面妖な化け物に見えるのだ」


「そ、そうなんッスか……。メモメモ……っと」


 ラウラ、それいちいちメモするほどの内容か? でも、無理解による種族間・民族間差別は世界征服を進めていく上で後々問題になるから、軽視するのは早計か。


「えっと、話を戻して……他に少佐が使っていた鋼の爪(アイゼン・ナーゲル)疾走する刃ラーゼン・シュナイデンは本来は一騎打ち用ッスね。獣人は自分の爪で攻撃を加えるッスが、他の種族が行使する場合は刀剣で代用するッス」


 つまり獣人以外の種族が使う場合、刀や槍などの武器を失えば発動できなくなる魔法もあるってわけか。やはり、多少なりとも発動特性はあるものだな。


「しかしながら少佐の魔法は基礎魔法が主体ッスから、魔法石さえあれば使節団の方でも発動できるものばかりだと思うッス。一方、猊下や殿下の魔法は残念ながら、今の段階では非常に行使しづらいものが大半ッスね」


「何故にござるか?」


「猊下の神への償いハイリヒ・シュトラーフェは地面を長距離にわたって割るほど強力な魔法ッスが、その分、一定水準以上の技術と魔力を持った魔道士が沢山いないと発動できないッス。魔法石がいくらあったとしても、扱う技術が追いついていなければその強大な魔力が自分たちへ牙を剥く危険性もあるッスから」


 それにその魔法、明らかにパトロヌス教への信仰心の強さと同じ組織に属しているという一体感も関係してくるよな。発動キーとなる呪文も揃えて口に出す必要があるし、ラウラの言う通り、魔法石があったとしても魔法に関する素質の低い蝦夷地の人間には扱えなさそうだ。


「じゃあ、ヴィクトリア王女の鋭利な雷光(シュピッツ・ブリッツ)漆黒の殱撃ガイスト・シュヴァルツなんてのは……」


「――あれは最高位の魔導師とかじゃないと習得は無理ッス……。威力を抑えてなかったら、立派な戦略魔法ッスから」


「戦略魔法?」


「一撃で都市や村を消し炭にするほど恐ろしい破壊力を持った魔法の総称ッス。ただし使用後は占領地が戦略上の拠点としての意味を失うので、殿下も威力をかなり抑えて使用されていることがほとんどッス」


 戦略魔法――要は戦略兵器の魔法バージョンか。放射能が発生するわけではないにしても、単純な威力でいえば21世紀の大量破壊兵器に匹敵するレベルだろう。なにしろ、かなり威力を抑えた状態でも、城一つ、3000人の部隊一つをまるまる消し飛ばしたわけだから。


 それにしても最高位の魔導師ね。戦略魔法を扱える存在ってなら、その威力を見せつけることによって相手の士気を下げる効果も見込めるだろう。上手くいけば、無駄な争いを避けて降伏を促すことも出来そうだ。ちょっと目指してみようかな……。


 ラウラによる教室での特別講習は、その後3時間ぐらい続いた。

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