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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第4章 異世界「ミズガルズ」への使節団
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58 アガーテの夢

「アガーテの夢……?」


 アガーテの夢、それはおそらく魔法石に関するものだということは俺にもわかる。しかしヴィクトリアやアストリッドをはじめ『ミズガルズ』は魔法を扱える人間で溢れかえっている。この世界で魔法石の出番なんてそう多くないように思えるが--


「このアイオニオン大陸において、魔法は誰にでも扱える当たり前の技術だと思われています。でも実際には、魔力を体内に溜め込むことができず魔法を自力で扱うことのできない人たちが約1割ほどいると言われています」


「……え?」


「何を申すか。蝦夷地に押し寄せてきた王国の兵は皆、魔法なる怪しげな術を使っていたではござらんか」


「いや、その話聞いたことがあるッス。しかもそういった人たちは地方では村八分にされるケースが後を絶たず、クヌーテボリやモーネデンなどの都市に流れついていると習ったことがあるッス」


「しかも、都市に逃げてきた人たちもなかなか職にありつくことができず、人身売買で奴隷になったなんて人もいるらしいですね……」


 魔法を使えない人たちもこの世界には存在しているのか。確かにこの世界で魔法を使えないとなれば、生活や職業選択においてかなり厳しいハンデを背負うことにもなるだろうからな。『ミズガルズ』において、彼らはまさに障碍を持った人たちという扱いなのだろう。


「その通りです。今まではそういった人たちの多くは不当な扱いを甘んじて受けるしかなく、泣き寝入りするばかりでした。でも魔法石があれば、そういった人たちも他の人と同じように魔法を使えるようになり、生活や職選びで理不尽なハンデを背負わされることもなくなる。私は魔法石を普及させることで、そういった人たちを救いたいんです!」


 そう語るアガーテの目は熱く、強く輝いていた。

 なるほど、魔法石が普及すれば救われる人たちが多く現れる。実現すれば、まさに『ミズガルズ』版バリアフリーといって良いものになるだろう。この世界において魔法は別に既得権益でもなんでもないのだから、抵抗勢力も少ないはずだ。


 さらにいえば、アガーテの研究は、蠣崎家、ひいては日本にも相当役立つものになるだろう。

 俺や慶広を除けば、日本で実際に魔法を使える人間は皆無といっていい。そのような環境で魔法石を利用した技術が導入されれば、蠣崎家の勢力は飛躍的に大きくなり天下統一に一気に近づくだろう。さらにいえば統一後に海外に進出するときも多いに役立つはずだ。

 

「うむ、アガーテの熱き思い、しかと受けとった。そのような心持ちであれば、必ずや人々を救うことができるであろう。しかし余にはどうしても不可解な疑問が一つある」


「疑問?」


「何故、お前はそれほどまでに魔法石に入れ込むのだ? 」


 慶広の質問にアガーテはしばらく黙り込んでしまったが、いくらかの間を置いて彼女はその理由を語り出した。

 

「……実は、私も魔法を自力で扱えない人たちの一人なんです」


「……ふぇ?」


「私は父親がドワーフ、母親がエルフという家庭で生まれた混血種族なのです。この世界では、そのような人たちを『アールドヴェルグ』といいます」


「アールドヴェルグ……」


「多くの場合、ドワーフのような力強さと手先の器用さ、エルフのような長い寿命と強大な魔力、それらを全て受け継ぐことが多い種族です」


 ドワーフとエルフの混血、なかなかありそうで聞かない混血のパターンだな。大抵のファンタジー作品ではドワーフとエルフは仲が悪く設定されているから登場しないのだろうけど。


「しかしアールドヴェルグはドワーフとエルフの両方から嫌われる存在であり、私の母は出産後すぐに私を職人ギルド『ガンダールヴの息子たち』に預けたのです」


「『ガンダールヴの息子たち』? なんだいそれは?」


「『ガンダールヴの息子たち』はアールドヴェルグのみで構成された鍛冶職人たちのギルドであり、職人の数は少ないですが、しばしばミズガルズ一と評されるほどの技術力を持った集団です。アイオニオン大陸においては各国の王族の武器はすべて『ガンダールヴの息子たち』製の特注品が使われているようです」


 確かにドワーフのような手先の器用さとエルフのような長い寿命を持っていれば、常人では会得できない技術力も研鑽によって獲得できるだろうし、高い技術力を持っているのも頷ける。むしろ技術者としてはかなりのチートではないだろうか?


「え、『ガンダールヴの息子たち』って実在するギルドだったんスか?」


 しかしラウラはアガーテの話を聞いて、意表を突かれたような表情を浮かべていた。しかもその隣に座っているラグンヒルも同じように驚きを隠せない様子であった。


「あの幻のギルドの関係者が、まさか目の前に現れるなんて……」


「なんだ? もしかして『ガンダールヴの息子たち』って、都市伝説的な存在の組織なのか?」


「そりゃあ、『ガンダールヴの息子たち』といえば聖女神メルティーナ・カエキリア様のお孫さんにあたるカリストゥス様が『ミズガルズ』に降臨して間もなく創設したという神話があるほど歴史と伝統のあるギルドッスからね。世間一般には『ガンダールヴの息子たち』製の武器や道具なんて出回ることもないし、実は存在しないギルドではないかなんて思っていたッスが……」


「まあ、あの人たちは基本的に王族かそれに準ずる高位の貴族の人しか相手にしないから、そう思われるのも無理ないですね。私も先王陛下が幼少の頃に何回もお会いしたことがありますし」


「……ふぇ?」


「せ、先王陛下って、まさかヨアキム陛下の御尊父、ランヴァルト2世陛下のことッスか!?」


「そうですけど?」


「「な、なんだってええええええええ!?」」


 あっけらかんと答えるアガーテに、親衛隊の面々は開いた口が塞がらなかった。

 王族と普段から交流があるという点も凄いが、今の国王ヨアキム1世の父親が小さかった頃に会ったというのもこれまた凄いお話だ。

 俺の見立てではヨアキム国王は推定40代中頃だから、少なく見積もっても60年ほど昔の話のはず。一体、アガーテって今年何歳なんだ?


「……アガーテさんて、今いくつ?」


「ええー? 乙女に年齢を聞くんですか?」


「そう隠し立てすることでもありますまい。拙者も大変気になるでありますから」


「うーん、別にいいけど、あまり言いたくはないですねー」


「とくとお聞かせしたく候」


「うーん、わかった。じゃあ、言いますね」


 宗継と季遠の圧力に負けたアガーテは、ついに自分の年齢を明かした。が、彼女の年齢を知った瞬間、俺達は揃いも揃って腰を抜かすことになった。


「92歳」


「はい?」


「だから、今年で92歳」


 あれ、聞き間違いかな? なんか耳を疑うような数字が聞こえて来たような気が……。


「……嘘偽りはいかんぞ。かように可憐な女子が米寿を迎えているはずがなかろう。そう、かように可憐な女子が……」


「だから、あまり言いたくなかったんですよね。他の種族でいえば、とっくの昔におばあちゃんになっているはずの年齢だから」


「まさかアガーテさん、魔法で自分の本当の姿を隠しているんじゃ……」


「さっきも言ったけど、私に自力で魔法を扱う素質はないからそんなことはできませんよ。そもそもアールドヴェルグにとっての92歳はもうすぐで思春期が終わるぐらいの年齢ですから」


「きゅ、92歳で思春期だと……」


 まあ、ラノベに登場するハーフエルフも100歳代の思春期美少女がよく登場するから理解はできるが、いざ目の前にするとその事実を受け入れがたい自分がいる。さすがはエルフの血を受け継ぐだけのことはあるな……。


「いやいや、じゃあさっき俺の刀を錬成するときに発動させたあの魔法はなんだったんだ?」


「あー、あれは魔法石の魔力を使って発動させたものです。変装用の魔法はまだ習得していないので使えませんが、錬成用の魔法はよく使っていますから」


 なるほど、魔法石は武器や道具に練り込むだけじゃなく、それ単体でも魔法発動用の道具として使えるということなのか。これは良いことを聞いた。 

 

「脱線してしまったから話を元に戻すけど、魔法を扱えないアールドヴェルグの私は結局『ガンダールヴの息子たち』からも追い出されることになってしまいました。彼らの高い技術力は魔法あっての代物でしたから、私のような魔力なしのアールドヴェルグは必要とされなかったのです」


「そんな……じゃあ、どうやって生活を……」


「その時、困窮した私を助けてくれたのが、テオドル工房長だったのです」


「テオドルさんが?」


「工房長はもともと『ガンダールヴの息子たち』にいた職人で、当時からクラフツマン工房を仕切る人物として活躍していました。でもギルドから追い出された私を工房長は養ってくれたのです」


「アガーテは発展途上とはいえ、魔法力なしでも高い技術力を持っておりました。しかし魔力なしのアールドヴェルグをギルドは決して認めようとせんかった。一方で私もクラフツマン工房で下級軍人や庶民向けの道具の生産を行っていたため、高級ブランド路線のギルドから異端視されておりました。そうしたこともあり、私はアガーテとともにギルドを抜けることにしたのです」


 アールドヴェルグの駆け込み寺として機能していたギルドから必要とされず追放される。それはアガーテにとってなによりも辛い出来事だったことだろうな……。


「そしてクラフツマン工房の見習い職人として各地を回るうちに、私は自分以外にも魔法を満足に使えず、苦しい立場に追い込まれた人たちがいることを知り、いつかそんな人たちを助けたいと思うようになりました。でも何十年もの間、それを実現する手段を発見できず辛い思いをしました。その矢先に発見されたのが魔法石だったのです」


「ジェーン鉱山で魔法石が発見されたという知らせが届いた時、私は真っ先にアガーテにそれを伝えました。報告書を読んで、この子が求めるものがついに見つかったと思ったものですから」


「今は実用化の研究途中ですが、データを積み重ねて近いうちに魔法石が練り込まれた武器を一から作れればいいなと思っています。その時は、使節団の皆にも渡したいなって」


 ギルドは追い出されたが、そのおかげで安住の地と求めるものを発見できたということか。人間万事塞翁が馬とはよくいったものだ


「さて、私の夢の話はこれで一旦おしまい! というわけで、使節団の皆さん、剣か刀を一本ずつ私に差し出してくれませんか? あ、武親さんと慶広さんは別にいいですよ」


「な、何をするつもりでござるか?」


「良質な武器を作るには良質なデータが何よりも大切です。そのためにも実験結果は多ければ多いほど良い。特に皆さんの武器は王国にはないものばかりですから、この機会に皆さんの剣や刀を拝借できれば……」


「アガーテよ。そんなことをしたら、使節団の方が自分の身を護る手段が無くなってしまうではないか。それはこの私が許さん」


「で、でも工房長……」


親方ニシパの言う通りね。あんたのじっけんとやらに協力したいのはやまやまだけど、この先身の危険が全くないとは言い切れないし、今回はちょっと我慢してくれるかしら」


「そんな……」


 残念そうな顔を浮かべるアガーテ。俺や慶広の場合はチート戦闘能力があるから最悪素手でも相手を倒す自信はあるが、そうではない他の人間にそれを強要するわけにはいかない。

 ましてやここは魔法の異世界なのだから、身を護る手段は多ければ多いほどよいはずだ。


「悲しむことはないぞアガーテ。余からも父上や檜山屋形様に、刀をいくつか供出していただくように頼むつもりだ」


「あ、ありがとうございます! さすがは使節団の長、言うことが一味違いますね!」


「これアガーテよ、調子に乗るでない! 慶広様も本当にそれでよろしいのですかな?」


「蝦夷地もまた、アガーテのように魔法を使えない者たちで溢れかえっている。アガーテの研究は必ずや蝦夷地の民の役に立つと判断したまで」


「ありがとうございますっ!」


 慶広の提案に狂喜乱舞するアガーテ。俺も慶広の意見に異議はない。刀が届き次第、彼女には是非とも研究を頑張ってもらいたいものだ。クラフツマン工房、訪問してみて正解だったな。

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