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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第4章 異世界「ミズガルズ」への使節団
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56 クラフツマン工房

 クヌーテボリ大聖堂を訪れた翌日の1561年(永禄4年)10月18日の朝。俺たちはクヌーテボリ市街地南東部の職人街を訪れていた。

 職人街らしく、大きな煙突を持つ赤レンガ造りの平屋建ての工房が多く、周囲からは職人たちの大きな掛け声がしょっちゅう飛び交っていた。


 そしてラウラたちに案内されて到着したのは、職人街の中央に聳える4階建ての大規模な工房であった。


「ここが、クヌーテボリ最大の鍛冶工房、クラフツマン工房ッス!」


 鍛冶工房か。つまり武器や金属でできた日用雑貨を作っているということか。蝦夷地にも当然鍛冶工房は幾つもあるが、4階建ての工房はさすがに見たことがない。

 ここまで規模がでかいと、工房というより工場と表現したほうがしっくりきそうだ。


「斯様に大きな工房がこの世に存在したとはな……」


「職人の数も尋常ではありませんな。ざっと見ただけでも数百人はおりましょうか」


「この工房では、主に王国軍や冒険者向けの武器が製作されているッス。自分が携帯しているこの剣もクラフツマン工房製なんッスよ」

 

 ラウラは腰に帯びていた剣を抜いて、俺たちに見せた。


「うむ、実に手入れが届いた綺麗な剣だ。切れ味もさぞよいことであろうな」


「装飾は少ないけど、だからこそ無駄がなく洗練された美しさがあるな」


「この剣は主に尉官クラスの士官に支給されている剣ス。尉官は最前線で指揮を執る士官ッスから、実用的な剣が選ばれているんスよ」


 そんな感じでラウラの剣に見とれていると、奥から顔も体もゴリマッチョな老年男性と、眼鏡をかけた背の低い女性が階段を下りて俺たちの前に現れた。


「これはこれは使節団の皆様、我が工房へようこそ。私はこのクラフツマン工房を仕切っておりますテオドル・シェルストレームと申します」


「テオドル工房長の補佐をしているアガーテ・グレンダールです! よろしくっ!」


 筋肉質な老年男性--テオドルは、そのガタイの良さとは裏腹に落ち着きを払った礼儀正しい男であった。やはり王国軍から正式に武器の調達を依頼されることがあるからだろうか。ステレオタイプの職人と違い、気難しそうな雰囲気はなくてよかった。


 そして工房長の補佐役を名乗るアガーテは、彼とは対照的に元気いっぱいの明るい女の子という感じだった。とはいえ、明るすぎて職人としては却って危なっかしそうな気もするが。


「使節団のリーダーを務める蠣崎新三郎慶広である。今日は」


「いえいえ。異世界の方に見ていただける日が来て、私としても光栄至極です。ささ、どうぞご覧ください」


 俺たちが異世界人であるという情報は、既に彼らにも届いているらしい。俺も魔法の世界の工房とやらが実際にどんな感じなのか、じっくり観察させてもらおう。

 するとアガーテは、俺たちが腰に差している日本刀に興味を示した。


「あの……あなたたちが腰に帯びているその剣、見せてもらってもいいですか?」


「え? あ、ああ。いいけど……」


 俺は自分の刀を1本、アガーテに手渡す。そしてアガーテは研ぎ澄まされた刃に強く魅入られていた。


「……師匠、わたしはとんでもない逸品に出会ってしまったのかもしれません」


「これ、客人が大事にしている刀だろう。いつまでお前が持っているつもりなのだ」


「しかし、この刃の放つ鋭い光が、わたしにこの刀を錬成せよと語りかけてくるような気がして……」


「アガーテ!」


「いえ、いいんですよ。俺の刀は地元の鍛冶職人に頼んで作ってもらった量産品ですから。むしろこっちとしては、この国の職人の技術というのを学びたいものですから」


「なんですとっ!?」


 俺の刀を見つめるアガーテの目が強く輝いている。これは下手に断ったほうが却って面倒臭いパターンになりそうだ。

 俺は流されるままに彼女の欲望に応えることにした。


「師匠、聞きましたか!? 使節の方が錬成を勧めてくれたのですよ! これは加工のしがいがありますなぁ……うんうん!」


「はぁ……仕方ありませんな。確かにアガーテの腕は工房長たる私にも劣らぬものがある。アガーテ、このクラフツマン工房の名に恥じぬ錬成を使節の方々にお見せしなさい」


「承知っ!」


 俺たちは階段を上り、彼女専用の作業部屋に入った。するとそこには、作業台や様々な種類の工具、鍛冶職人向けとおぼしき大量の本、そして大きな釜が置かれていた。

 そして作業部屋に入って間もなく作業用の椅子に座ったアガーテは、俺の刀を作業台に置くといきなり呪文を唱え始めた。すると、俺の刀の下に円形の魔法陣が出現し、刃が熱せせられて黄色みを帯びるようになった。


「……さすがは魔法の世界。刀の鍛錬にも魔法を使うのだな」


「いえ、実際に武器を作る際に魔法を使う職人は多くありません。金属を加工する際には金属を高温で熱する必要があるのですが、それだけの高温を出せる魔法の使い手がそもそも少ない。さらにいえば、金属加工には微妙な温度調整も要求されるので、高温を出せてかつ微調整を行える職人はさらに少なくなります」


「確かに、金属の融点は数百度から1000度を超えることが多いからな……」


「温度調整を行うだけでも相当な集中力を必要とします。そのうえ、金づちなどで金属の形を正確に整えようとすると別の集中力を要するため、上手く武器を錬成できないことが多いのです」


「なるほどな」


「ならば、2人で協力して鍛錬すれば良いのではなかろうか? 一方が魔法で温度調整を行い、もう一方が金づちで成形するといったようにな」


「かつてはそのような方法を試したこともあります。しかし、工房に勤める職人は気難しくこだわりが強い者が多い。温度調整の加減も職人によって違うため、職人どうしで意見がぶつかりあって喧嘩に至るケースが頻発しました。よって、魔法を使った錬成が得意な職人は魔法を使い、そうではない職人は炉を使うという形式に戻りました」


「うーん、確かに職人のこだわりにはちゃんとした理由があったりするから、無理矢理こだわりを捨てさせても問題よね」


「それに2人で1つの武器を製作することになれば、生産量が半減してしまいます。炉がある以上、武器製作に必要な分の金属はいつでも確保できる。わざわざ喧嘩してまで共同作業をやらせる利点はないのです」


 やはりテンプレの気難しい職人はこの工房でも健在というわけか。そうなると、コミュニケーション能力の高い工房長やアガーテはかなり貴重な存在というわけだな。


 しかし魔法を使った金属の錬成は、経済的にもかなりメリットがあるように思える。なにしろ炉を導入しなくていいから、炉にかかる費用を抑えられるし、本来炉を置くスペースに作業員を置くことができるからその分生産量も上げることができる。

 もっとも、近代工業の歴史を知る身としては、いずれ機械化されて淘汰される生産形式となるのは想像に難くないのだが。


 そしてテオドルが魔法を使った錬成について説明する中、アガーテは黙々と刀の鍛錬に打ち込んでいた。


「よし、アレを混ぜてみよっか」


 するとアガーテは、作業台の上にある瓶から小さいスプーンで紫色の粉末を取りだし、パラパラと熱せられた日本刀の刃に振りかけた。


「アガーテ、その粉はなんだ?」


「これは魔法石を粉末状したものです」


「魔法石? なにそれ?」


「魔法石は魔力を多く含んだ鉱石のことです。3年前に王国北部のジェーン鉱山で発見されたばかりの新種の鉱石で、性質や用途に関する研究が今まさに行われています。かくいうわたしも、その鉱石の研究に携わっている研究者の1人です」


「へえ、そんな石がこの世界にはあるんだな」


「そしてこの石を粉末状にして他の金属に混ぜ合わせると、魔法の威力が強くなるというデータが出ているのです。だから錬成が終わったこの刀に魔力を込めて振るうと、通常よりも大きな破壊力が発揮されるということなんです」


「おお、それはいいことを聞いた!」


「でしょ? もし魔法石の採掘量が今後増えれば、魔法石を使った武器や生活用品も間違いなく増える。そうなれば、そのきっかけとなるデータを分析した研究者であるわたしの財産と名誉もうなぎ登りに……!」


「無駄口叩いてねえで、さっさと錬成せんか! バカモノ!」


「ひゃっ、ひゃい! 今すぐ錬成に戻りますぅ!」


 工房長に怒られ、急いで刀の錬成を再開するアガーテ。


 しかし魔法石が世界中に普及することになれば、間違いなく世界のパワーバランスは一変することになるだろう。

 しかも発見された土地がミュルクヴィズラント国内というのも、俺たちにとっては好都合だ。魔法石関連の技術でつねに世界のトップを走りつづけることができれば、技術を持たない国との戦いも有利に進めることができる。つまり世界征服により早く近づけるということだ。


「さてと、これで錬成はひとまず完了ですね」


 錬成再開からしばらくして、俺の刀の強化が完了した。

 刃をよく見てみると、錬成前よりも輝きが増しており、色も若干紫色を帯びるようになっていた。魔法の威力が強化されているのかも試したいところだが、あいにく俺は魔法を一切知らない。ただ、魔法を学ぶ機会はそう遠くない時期に訪れるだろうから、その時に魔法の威力を試してみるのもいいだろう。


 とはいえ、刀は本来何か形あるものを斬るために作られたもの。魔法の威力は試せなくても、切れ味は是非とも試しておきたい。


「テオドルさん、切れ味を確かめたいから何か大きくて堅そうなものはありませんか? たとえば木の棒とか」


「うむ、ならば武器テスト用の太い木の棒が何本もあるから、それを出すとしましょう」


 こうして俺たちは刀の切れ味を確かめるため、一旦工房の外に出ることにした。

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