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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第4章 異世界「ミズガルズ」への使節団
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49 歓迎の宴

 宴の間に入ると俺達は三度圧倒された。


「う、うむ……」


「すっげえ、豪華……」


「どうやら、王国中の王侯貴族がお出ましのようだ」


 慶広の言う通り、内装に贅を凝らした広大にして壮麗な部屋の中には、既に数多くの人々が臨席していた。

 それも“異世界”らしく、様々な種族の人達の顔も見える。出席者は、総勢で約300人といったところか。こんな豪華なパーティーは、前世現世含めて初めての体験だ。


「……慶広。あんたなんでそんなに冷静でいられるんだ?」


「何を言っているんだ武親。これでも、結構動揺しているのだが」


「とてもそんなふうには見えないんだがな」


「酒は何処ぞ? 酒は何処ぞ?」


「備中守さん、少しは落ち着いてください。宴は逃げませんから」


「否、酒は逃げるかもしれぬ。思い立ったら飲む! それのみにござる」


 はしたなく騒ぐ季貞。俺が止めようとすると変な持論まで展開しだす始末。これは、渡航前に懸念していたことが現実に起きそうな予感しかしない……。 


「拙者らは斯様に巨大な宮殿を持ち、斯様に巨大な宴を開けるような大国と戦っていたのでありますな……」


「壮麗至極」


 慶広や季貞と対照的に、宗継と季遠は俺と同じく宴の間の様子に圧倒されていた。

 

「すごいすごいすご~い! ねえねえレスノテク、アイヌモシリでもこんな宴って開けるのかな?」


「それは無理ね。さすがにリコナイやチリオチでこれほどの大人数を収容できるだけの建物はないわね。多分、和人(シサム)の館でも無理じゃない?」


 レスノテクの言う通り、アイヌ民族の(チセ)や徳山館に大規模な宴を行えるだけのスペースはない。

 だが将来天下統一を果たした折には、姫路城や大阪城のような巨城を建てて、自前で今夜のような大規模なパーティーを開催したいものだ。


「使者たちの席はここ。国王陛下と王妃殿下、そして王女殿下の近くだ」


 するとそこで、ここまで先導していたブレンダが俺達に席を案内し、自らは俺達の真向いの席に座った。アストリッドもその隣にいる。

 俺達はフリングホルニ号を降りてからクヌーテボリ宮殿に至るまで、全く心が落ち着く時間が無かった。だが、ようやく落ち着ける場面にありつけそうだ。


 そして15分後。ようやくヴィクトリアやイングリッド、そしてヨアキム国王とマルティナ王妃が到着すると、宴の出席者は全員用意されたグラスを片手に立ち上がった。


「皆の者。本日は遥か異界の地より客人が7名も参った。かつては敵なれど、戦争が終わった今となっては我が国の仲間も同じ。さあ、彼らを暖かく迎え入れようではないか!」


 そしてヨアキム国王の乾杯の音頭とともに、使者を迎えるための豪勢すぎる饗宴がここに開始されたのだった。

 が、パーティーが始まって間もなく、俺達の間で問題が発生した。


「ぬう……この道具の使い方が解せぬ……」


「拙者も分からないであります」


「同じく候」


 出席者が食事にありつき始めた頃。テーブルの上に置かれたフォークやスプーンを前に、季貞、宗継、季遠の手が止まった。


 それもそのはず、彼らにとっては生まれて初めての洋食(正確には洋食風の食事と言うべきなのだが、見た目・味ともに殆ど変わらない)。フリングホルニ号の中では事前に王国軍の人間からテーブルマナーを教わっていたが、習得に悪戦苦闘し、結局は蝦夷地から持参した戦用の保存食等で過ごしていた。


 実際、前世の歴史においても、戦国時代や幕末の遣欧使節団の人間は似たような体験をしていたんだ。この展開は想定のうち。正直、「やっぱりか」という感想しか浮かんでこない。


「こっちはパクパスイ(アイヌ民族のスプーン)みたいなものだってのは理解できるけど、もう一つの先が3つも4つもあるこの食器は……どう使えばいいのかしら?」


「ね~、パスイ(アイヌ語で箸)ってないの~?」


 レスノテクとリシヌンテも、慣れない食事の前にやや苦戦気味であった。


「余たちは前世のお蔭で、まったく苦労はしないがな」


「転生者の特権、ってやつだな」


 一方、俺と慶広は前世でテーブルマナーは習得済み。周りの人達とほぼ同じように、スプーンやナイフ、フォークを正しく使って料理を平らげていく。


「あら? 手が止まっている方が数名おられますわね」


「どうしたのじゃ? 口に合わぬのか?」


「そういうわけでも……あるとも言えず、ないとも言えず」


 そして季貞達を見て、ヴィクトリアとイングリッドは心配の声をかける始末。


 ただ、「口に合わない」という部分は無いとは言えない。今回の料理には、豚や牛等の肉を使ったものもある。だが戦国時代の日本人にとってそれらは、日常触れることないもの。そもそも日本では、仏教の浸透とともに次第に肉食が忌避されるようになった。

 それに先述した幕末の遣欧使節曰く、中には「臭気が強く脂っこい」と嘆く人もいたそうだ。


 狩猟採集民族出身のレスノテクとリシヌンテはともかく、季貞達はどう反応するのか。ともあれ、お互いの食文化に対して良い交流の切っ掛けにはなりそうだ。


「料理の味や食感は好きよ。ヒンナだわ」


「ヒンナヒンナ~!」


「……ええい! 飯を食えぬなら、その分酒で腹を満たしてくれようぞ!」


「あ、ちょっと……」


「同意。拙者も酒を嗜みたく候」


「……あ、そう。もう好きにやってください」


 結局その後、俺と慶広が事情を説明して、季貞達は日本から持ってきた箸を使わせてもらうことになった。



 ■■■■■



 パーティーも進み、互いに少しは打ち解け合ってきた頃。ヨアキム国王が、少し突っ込んだ会話を始めた。


「さて、ここらで朕の本題に参ろう。先の戦争、我が軍は予想以上の痛手を被った。そこで質問なんだが、お前たち蝦夷地の兵は、如何にして大陸最強と謳われた我が軍に損害を与えたのかね?」


「それも寡兵で善戦したと娘から報告がありましたわ。どれほど優秀な魔導師を大勢擁していたのか、私も知りたいですわね」


 こういうところの感覚は、やはり異世界の人間ならではと言えるな。あくまで魔法の存在が前提。

 確かにリシヌンテも慶広も魔法を扱える存在だが、それ以外は魔法なんてからっきしの人ばかり。だから魔導師がどうのと言われても「そんな人はいない」としか答えられない。

 

「ま……まどうし? それは、如何なるものにござるか?」


「拙者も分からないであります」


「ご教授願いたいで候」


「――なんだと!?」


 そして季貞と宗継、季遠の反応に、当然のことながらミュルクヴィズラント王国の王侯貴族たちは一斉に耳を疑った。


「もしや、魔導師を知らぬと申さぬじゃろうな?」


「冗談を仰らないでください。寡兵で五万の大軍を相手にして一万もの兵を打ち破るなど、一流の魔導師を雇ってなければ不可能な芸当ですわ」


「そうですよ。現に私めに痛手を負わせたそこの天真爛漫な少女は魔法を使っていたではありませんか!」


「まほ~? もしかして、ボクがよく使っている不思議なチカラのこと~?」


「そうですよ! まさか知らないで使っていたのですか?」


「うんっ、そうだよ」


「そ、そんな……」


 使節団の人間が誰も魔法という概念を知らないという事実に、王国の人間は誰もがショックを受けていた。


 これは俺と慶広が戦場でチートし過ぎたかな。無駄に活躍し過ぎて、日本人の実像との間に齟齬を来たしている。もっとも俺や慶広のチート能力は神様譲りだから、ある意味「魔法」と言えなくもないが。


 それから暫くの間、「魔法を知らない」蝦夷地の住人に対して、多くの貴族の間で物議が醸し出されていた。

 その様子は、魔法が当たり前でない蝦夷地の住人との接し方を議論していたように感じた。場内が騒がしくなる中、俺達は口を利くに利けない状況が続いていた。


「やはり蝦夷地は異世界の島とは思っておりましたが、まさか魔法の概念がないとは驚きでしたわね」


「そんな者たちから大損害を被ることになるとは、どうやら妾の采配はまだまだ未熟じゃった。そういうことかのう……」


「い、いい異世界?」


 ヴィクトリアがポロッと「異世界」という単語を出すと、事情を知らない季貞たちは大量の酒が回っているにもかかわらず、顔が一気に青ざめた。


「や、ややややはり、よよよよ、黄泉の国が地上に現れたと申すのか……」


「せ、拙者の前に座っている化け猫が、そ、そそそれを暗示していたでありますか?」


「か、怪奇に候……」


「……それ以上化け猫と言ったら、私の神速の爪(ラザンツ・ナーゲル)でその顔を刻む」


 黄泉の国ねえ。完全に無いとは言えないな。融合した世界が全て北欧神話関係のものという保証はないが、北欧神話に従えば死者の国とされる「ヘルヘイム」や「二ヴルヘイム」が融合している可能性もある。

 日本神話の黄泉の国とは違うが、似たようなものとして扱えるだろう。


 そんな季貞達とは対照的に、レスノテクは納得の顔であった。


「アタシとしては、神の世界(カムイモシリ)が近づいた気がして良いんだけどね」


 またまた北欧神話の例えで悪いけど、アースガルズやヴァナヘイムは神々の世界とされている。だからアイヌ神話でいうカムイモシリも、もしかしたら存在するのかもしれない。


「……」


 だがそんなレスノテクとは違い、リシヌンテは珍しく真面目な顔つきだった。


「リシヌンテ? さっきまでの元気はどうしたんだ、もうお腹いっぱいなのか?」


 さっきまで、いつも通り無邪気にはしゃいでいたリシヌンテ。しかし神託の話が始まってから、普段は見せない真剣な眼をしていたのだ。


「――実はボクもカムイから言葉を預かっているんだ」


「え、リシヌンテもか?」


「うんっ。戦が起こる数日前に集落(コタン)の皆で巫術(トゥス)をやっていたときのことなんだけどね」


 リシヌンテもアストリッド同様に『預言』を託されていたのか。

 すると彼女はさらに興味深く、そしてさらに世界の根幹に関わる証言をした。


「『アイヌモシリは複数の異世界と融合したことで、サモロモシリ(本州)等と共に滅亡の危機に晒されている。これを避けたくば、機が熟すのを待ってウタリをまとめ、和人(シサム)をはじめ多くの他の民族と結託せよ』ってね」


 俺は焦った。

 滅亡の危機、だと? それは初耳だぞ。ミネルヴァとフレイアも一切口にしなかったことだ。どうしてそんな重大な話をしなかったんだ、あの2人は?


 リシヌンテのこの不吉な話に、多くの人が飛びついた。


「今の話、このミュルクヴィズラント王国に限らず、蝦夷地の存亡にも関わることじゃぞ」


「滅亡の危機とは、具体的に如何なるものか朕にも教示願いたい!」


 当然、このような質問も飛び交ってくる。


「ご、ごめん……それはボクもわからないんだ」


 だがリシヌンテ自身は、滅亡の過程と時期について詳しく聞かされなかったようだ。もしかしたら、彼女の元を訪れた神々は余計な不安を与えたくなかったのかもしれない。


 そんな中、リシヌンテと言葉を交えていた俺はある仮説を思いついた。「この流れ、もしかしてリシヌンテも俺や慶広と同じ転生者なのではないか?」と。

 そうであれば、俺達の理解者がまた1人増えることになるからだ。


 根拠は、日本列島にありながら神々の言葉を直に聴いていたという点だ。


「――なあリシヌンテってもしかして、転生者なのか?」


 他の人に聞こえないよう、小声で単刀直入に伝えた。だが俺の予想は外れた。


「ううん。武親や慶広と違って、ボクには将来のことはわからないよ~」


 そういえば彼女やレスノテクも、湯ノ岱温泉に入ったその日の夜に俺が転生者だと打ち明けた場面に居合わせていたな。もし転生者ならば、その段階で告白していたに違いない。

 どうやら、神々の声を聞いた人全員が転生者というわけでもないようだ。俺としたことが、これには気づかなかったぜ。


 こうして楽しいはずの宴は、双方にとっての将来の懸念材料を論ずる会議の場と化した。

 それから10分と経たない間に、この神妙な歓迎の宴も終焉の時を迎えた。

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